制度と現場を“つなぐ”/りつ社会保険労務士事務所 代表 佐藤 律子
制度としては正しい。にもかかわらず、現場が動かない。
社会保険労務士として業務に向き合うなかで、こうした場面にたびたび出会う。就業規則は整備され、説明も尽くされている。それなのに、どこかで歯車がかみ合わない。そのたびに“つなぐ”役割の重みについて考えるようになった。
私は、製造業における労働安全衛生を専門分野として開業した。その背景に、企業の人事担当者としての経験がある。
企業での仕事は、人事制度や社内研修に関するものが中心だった。しかし、振り返ってみると、自分を形づくったのは、そうしたいわゆる「人事らしい業務」だけではなかったのでは、と思う。
入社当初は人事部門に配属され、その後は安全衛生の部門へと異動。再び人事に戻り、また安全衛生に携わる。私のキャリアは、人事と安全衛生の間を行き来するものであった。その振れ幅が、組織を横断して物事を見る視点を育んでくれた。
当時、勤務先では「クロスファンクション」という考え方が注目されていた。仕事を部門ごとに最適化するのではなく、組織全体を横断して物事を捉える視点のことだ。この考え方は、自分の中にあった感覚に言葉を与えてくれた。
安全衛生の仕事では、異なる立場や部門の間に入り、それぞれの前提や考え方をすり合わせながら物事を進めていく。そうした経験の積み重ねが、仕事の土台になっているのだと感じている。
安全衛生の取組みを進めるうえでは、現場の存在が欠かせない。現場の協力がなければ、取組みは機能しないからである。安全に対する感覚は、実際にけがのリスクと向き合う現場の方が鋭い。大上段からの言葉だけでは現場まで伝わらないことを学んだ。
現在の社労士業務においても、この感覚は変わらない。制度設計は重要であるが、それだけで組織が動くわけではない。経営の意図、現場の実情、従業員の感情、そして法令。それぞれの間には必ずズレが生じる。そのズレを理解し、表現を置き換え、誰もが納得できる形に整えること。それこそが、社労士に求められる役割の1つであると考えている。
専門性はもちろん不可欠である。しかし、それを閉じた領域に留めるのではなく、組織の中で横断的に機能させることが重要である。人と人、部門と部門、制度と現場をつなぐ。その役割の重みを自覚しながら、これからも仕事に向き合っていきたい。そのつなぎ方を問い続けること自体が、これからの社労士としての大切な価値なのではないかと感じている。
筆者:りつ社会保険労務士事務所 代表 佐藤 律子【神奈川】

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