2026.04.24
(最終更新:2026.04.24)

横田アソシエイツ代表取締役/横田浩一
横田浩一
( よこた ・こういち )
横田アソシエイツ代表取締役
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。一般社団法人アンカー共同代表理事。企業・行政の経営・サステナビリティ分野などのコンサルタントを務め、地域創生や中高のSDGs教育にも携わる。共著に「SDGsの本質」「ソーシャルインパクト」など多数。 横田浩一の記事一覧
「ESG投資」「インパクト投資」に続く「システムチェンジ投資」が注目を集めている。
それにいち早く取り組んでいる三菱UFJ信託銀行サステナブルインベストメント部の加藤正裕さんが、同社主催「サステナゼミ」にて~「社会課題」×「お金」で出来ること~と題して講演、社員や大学生を交えてワークショップを行った。その時の様子とシステムチェンジ投資についてまとめた。
需要と供給のギャップで課題を捉える
「サステナゼミ」は三菱UFJ信託銀行社員と、一般社団法人アンカーに所属する社会課題に取り組む大学生、大学院生を中心としたメンバーで構成。コーディネーターは筆者が務める。昨年よりスタートし、第1回は「理想の職場コミュニケーション」、第2回は「エネルギーと教育」をテーマにワークショップを実施してきた。
3月に開催された第3回は、加藤さんによる講演のなかで、最近の新しい取り組みとしてシステムチェンジ投資の説明があり、本稿ではその内容を基に、追加取材を踏まえて解説をする。

加藤正裕さん(筆者撮影)
近年、気候変動や貧困、ジェンダー不平等など、複雑に絡み合う社会課題が深刻さを増している。こうした状況で、「投資」というお金の力を使って社会にどのように貢献できるのかが、大きなテーマとなっている。
これまでの投資は、主に「リスクを減らし、リターンを高めること」が目的。「ESG投資」が広がり、さらに「インパクト投資」が注目されてきた。
ESG投資は、企業がどれだけ環境・社会に配慮した取り組みをしているかを評価し、その結果としてリスク低減、リターン向上を目指す。一方、インパクト投資はそれに加えて、「社会や環境にどんな変化をもたらしたか」という実際の成果を重視する。つまり、ESG投資が企業の「取り組み」を見るのに対し、インパクト投資は企業の「製品やサービスが生み出す結果」を評価するという違いがある。
この考え方のもと、三菱UFJ信託銀行では2021年から国内上場企業を対象としたインパクト投資ファンドの運用が始まった。その中で大切にしているのが、「社会課題とは、需要と供給のギャップである」という捉え方だ。

社会が求める需要と現在の供給のギャップ(社会課題)の解決策には大きな潜在需要が見込まれ、高い成長が期待できる(出所:三菱UFJ信託銀行)
たとえば、気候変動を止めたいと考える人は世界中に多くいる。つまり「需要」は非常に大きい。しかし、その解決につながる技術や製品はまだ十分に普及しておらず、「供給」が追いついていない。このギャップを埋めるような企業に投資することで、社会課題の解決と投資リターンの両方を実現しようとしている。
社会の構造を変えることをめざす投資
ただし、こうした投資は投資する社数が限られて大きな社会変革には限界がある。さらに大きな社会的インパクトを目指したい。そこで登場したのが、「システムチェンジ投資」である。
これは、個別企業への投資にとどまらず、社会の構造そのものを変えていくことを目指すアプローチだ。社会課題は単一の企業では解決できないため、企業だけでなく、政府、研究者、地域社会など、多様な主体が連携しながら、より大きな変化を生み出していくことを目指す。

講義全景(筆者撮影)
三菱UFJ信託銀行は社会変革推進財団(SIIF)をアドバイザーとしてこのコンセプトを推進している。
このアプローチには、いくつかの重要な視点がある。
一つ目は、「本当に重要な課題は何か」を見極める力だ。表面的な問題ではなく、その背景にある構造的な原因を探る必要がある。そのために「システムマップ」という手法を使い、課題同士の相互作用や因果関係を整理していく。
二つ目は、多様なステークホルダーと連携すること。投資家や企業だけではできることに限界がある。そこで、専門家や行政、現場の当事者などと対話を重ね、知識や経験を持ちことで、より実効性のある解決策を探っていく。
三つ目は、「現場の声」を大切にすること。実際に課題に直面している人たちの意見を採り入れることで、より現実的で意味のある取り組みにつながる。
具体的な取り組みとしては、システムマップ分析の導入に加え、さまざまな関係者が集まる「マルチステークホルダーミーティング」が行われている。ここでは、単なる意見交換ではなく、事前に整理した課題の構造をもとに議論し、有識者の意見を聞き、具体的な行動につなげていくことを目指す。
また、インパクト投資ファンドで投資していない企業とも対話を行い、より広い範囲で変化を促していく取り組みも進められている。

システムチェンジ投資におけるエンゲージメント(出所:三菱UFJ信託銀行)
一方で、これまで大切にしてきた考え方も変わっていない。たとえば、「社会的インパクトと投資リターンを両立させること」、そして「国際的な基準に基づいて成果を測定し、きちんと開示すること」は引き続き重視されている。また、投資先企業との個別の対話も継続し、それぞれの企業の成長を支えていく。
インパクトの考え方も広がっている。これまでは製品やサービスの効果が中心だが、今では企業活動全体、特にサプライチェーンを含む「バリューチェーン全体」への影響が重視されている。たとえば、大企業が調達方針を変えるだけでも、多くの取引先に影響が広がり、これも重要なインパクトの一つだ。
そして、制度やルール、業界全体への働きかけといった「仕組みへの影響」も大切な視点。こうした変化が起きることで、より大きな社会的インパクトが生まれるのだ。
最終的に目指しているのは、「社会全体のパイ(需要)を大きくすること」。社会課題の解決を通じて新しい需要が生まれ、それが広がっていくことで、経済全体も成長していく。その結果、より大きなインパクトとリターンの両立が可能になる。現在は、ジェンダーや地域活性化などをテーマに、こうした取り組みが進められている。単なる議論にとどまらず、実際の行動につなげていくことが、このアプローチの特徴である。
このように、ESG投資からインパクト投資、そしてシステムチェンジ投資へと、投資の役割は進化している。お金を通じて社会をより良く変えていく。その可能性が、今まさに広がっているのだ。
システム全体への視野を育む学びに
加藤さんの講演後にワークショップが行われ、参加者は「教育」「福祉」「地域創生」「環境」などのテーマについて議論をした。

ワークショップ全景(筆者撮影)
教育のグループには社会変革推進財団の川原嬉生(よしお)さんも参加し、教育の課題は教育界に由来するものだけなのかという問いを起点に多角的な議論が展開された。このグループに参加した教育工学を学ぶ小林真緒子さん(東京科学大学大学院)は「教育分野は常に資金面での課題を抱えており、多様なステークホルダーと連携するためには、教育課題の解決がそれぞれにどのような価値や利点をもたらすのかを丁寧に示し、資金面も含めた協働を進めていくことが重要です。私自身は普段、教育方法の開発やその効果検証に関する研究に取り組んでいますが、同時にそれらの成果を社会に生かし、システムチェンジに貢献できる人材を目指していきたい」。
福祉を学ぶ南光開斗さん(法政大学)は「新たに直接的な支援策を考えるだけでなく、『どの企業にどのような形で投資するとシステムの変化度合いが大きく見込めるか』という視点を共有していただいたのが印象的。社会課題解決というとNPO的なアプローチを想像しがちだったが、これからはシステム全体を見ながら、サービスの在り方だけでなくお金の動かし方についても考えていきたい」。
終了後、加藤さんはこう話した。「投資家と企業が向き合う段階から、政策当局や有識者などマルチステークホルダーをも巻き込んで社会を変えていく。そんな新たな投資のあり方がスタートしていることを知ってもらえたらと。今回は社会課題の最前線にいる学生のリアルな意見を聞いて刺激を受けました。こうした現場感が投資の際に真にインパクトを生むための源泉になることを再認識しました。こちらも大変良い学びになりました」

サステナゼミ参加者(三菱UFJ信託銀行提供)
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