坐禅や茶道、精進料理といった禅の文化は、心身を整えるリトリートとして世界各地から人々を惹きつけている。武田信玄の菩提寺である恵林寺に隣接するZEN&BED 望月庵も、そうした精神に基づいた滞在体験を提供する宿坊のひとつだ。僧侶によるレクチャーを通じて坐禅の作法や呼吸の整え方を学び、精進料理やお茶を通じて命あるものへの感謝に触れる。静けさに満ちた空間のなかで禅の精神や自らの内側に意識を向け、心と身体を見つめ直す時間が用意されている。

「環境」と「身体」が不可分な旅のカタチ

2024年、米国のグローバル・ウェルネス・インスティチュート(GWI)が発表したレポートによれば、23年に8,302億ドルだったウェルネスツーリズムの市場規模は28年には1.35兆ドルを超えるとされている。また同調査では、23年における日本のウェルネスツーリズムの市場規模は、226億ドルを記録している。次なる経済の柱として、世界中の国家・都市間での競争が激化するなか、次代のウェルネスツーリズムはどのような姿をしているのだろうか。

『WIRED』日本版では、自然環境が本来もつ生成力を生かし、社会や生態系、経済システムを再生/再生成する「リジェネラティブ」の概念を継続的に紹介してきた。そこで本稿でも、自己の健康のみならず、地球や環境も含めて再生/再生成する──「環境」と「身体」が不可分の関係となる旅のあり方を考えていきたい。そのような潮流は、人間の健康だけでなく地球における生物圏(バイオスフィア)全体の健康を目指す「プラネタリーヘルス」という考えのもと、議論が盛り上がりつつある。

まず、ウェルネスツーリズムの現在地を捉えていくと、今回紹介したディスティネーションだけでも脳機能の回復や女性の健康課題へのアプローチ、新たなる社交の場づくりや、リジェネラティブな食の拠点など、その多様化が見てとれる。加えて、前述のGWIのレポートでも報告されているように、地域の固有性や伝統、歴史などを施設のコンセプトや体験プログラムに反映することも重視されている。例えば「Mii amo」は、ネイティヴ・アメリカンの伝統に基づく多彩なプログラムを展開しており、「Eha Retreat」は泥療法などのエストニアにおける自然崇拝的な生活文化が体験できる。

ただし、こうした営みは、地域住人が地域の価値を再発見でき、シビックプライドの醸成に寄与する一方で、地域資源を観光客にとって理解しやすいナラティブに矮小化し、その本質的価値を見落としたかたちでプレゼンテーションすることでの葛藤も生じるのが難しいところだ。

WACOCA: People, Life, Style.