実は、血気盛んに追い越しや車間詰めを繰り返したところで、信号待ちや渋滞を挟めば、目的地に到着する時間は数分も変わらないというデータもあります。
今回は、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、自慢のアメ車を操り、前の車を「ノロノロ運転」と決めつけて威嚇したドライバーが迎えた、あまりに皮肉な結末を紹介します。まさか、その運転手の正体とは……。
記事の後半では、ついうっかりやってしまいがちな「一発アウトの威嚇行為」や、驚くほど重いペナルティについても詳しく紹介します。
※写真はイメージです
アメ車が大好物な国語の教師
街を走れば容易に遭遇する迷惑なあおり運転行為。車に乗ることで、自分が大きくなったり強くなったと感じる「ドレス効果」が影響しているようです。
今回取材したアメ車好きな男性もそのうちの一人です。どうやら、ハンドルを握ると人格が変わってしまうそうで……。
中学の国語教師を務める細川さん(仮名・49歳)。アメ車乗りは有名で、教師になりたての頃からいろんなアメ車に乗ってきたそうです。
「キャデラック、クライスラー、ダッジ、JEEPなど、あらゆる趣向のアメ車に乗ってきました。アメ車って好きなんです。大排気量だし、図体もデカくて威厳があってね……。普段走っていても、なんとなく優越感に浸れる感じが最高に好きです。
ガソリンが高騰している昨今ですが、それでもあの独特なエキゾーストノートを響き渡らせると普段のストレスも吹き飛ぶような気がするんです」
中学校や保護者の間でも細川さんのアメ車好きは有名で、生徒の間では”アメせん”というあだ名がつくほどでした。車好きな保護者からは時々声をかけられるそうですが、総じてあまり評判はよくないようでした。
ただ、そんな細川さんにはネガティブな意見が時折学校に寄せられていました。そのほとんどが運転に対する苦情で、教職員の間でも問題になるほどでした。
「僕ってどうしてもアメ車を運転すると性格が変わるんです。あの図太いエンジン音と5mを超える大きな車体を操っていると、自然と自分が大きくなったような気分になるんですよ」
特に、最近乗り換えた黄色の”シボレー・カマロ”は細川さんの運転を熱くさせるようで、学校近所の道路での無理な割り込みや、指示器なしでの右左折など、行儀の悪い運転に対する苦情が学校に寄せられているそうです。
「気をつけているつもりなんですが、カマロは、あの唸るような低めのエンジン音で僕によく挑発してくるんですよ。僕もその挑発につい応えてしまい、横柄な運転をしてしまっているのかもしれません。いけないことですね」
あおった車から大柄男性現る
そんな細川さんが、学校近くの大通りを走っていると、前方の路地から軽自動車がいきなり出てきて、そのまま細川さんのカマロの前をノロノロ走ったそうです。
「いきなり飛び出してきたので追突する寸前でした。イラッとしたせいか、気づいたら車間距離を詰めたり、ヘッドライトをアッパーにしたりしていました。そしたら、軽自動車がいきなり急停車したんです」
急停車した軽自動車の運転席から、信じられないくらい大きな男性がゆっくりと降りてきたそうです。
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「一瞬『しまった!』と思いました。またやってしまったとも思いました。前を走っていた軽自動車の運転席から、プロレスラーのようながっしりした高身長の男性が降りてきたんです。『ハッ』と我に返ったのですが、時すでに遅しで身の危険を感じるくらいの恐怖心を感じました」
絶体絶命を救った子供の一言
細川さんのカマロに向かって、険しい表情でゆっくり向かってくる高身長の男性。細川さんは、最悪の事態に備え、ドアをロックし、いつでも警察に連絡ができるようにスマホを握りしめたといいます。
高身長の男性は、右の拳を固く握りしめ今にも殴りかかりそうな勢いでどんどん近づいてきました。その時、軽自動車の方から「パパー!そのカマロ、細川先生!僕の担任の先生だよ」と子供の叫ぶような声がしたといいます。それを聞いた高身長の男性は、目を大きく見開き、何もせずに軽自動車に戻って行ったそうです。
「もうダメかと思いました。引き摺り下ろされて胸ぐら掴まれてボコボコにやられると覚悟していました。実は、前の軽自動車に乗っていたのは、私のクラスの生徒だったのです。私のカマロに気づいてくれて、それで父親を制止してくれました……。情けない限りです」
今回のことがきっかけとなり、細川さんは長年のアメ車ライフに終止符を打ち、軽自動車へ乗り換えたそうです。
■「急いでも変わらない」という真実
今回のエピソードで細川さんは、前方の軽自動車を「ノロノロ走っている」と感じ、車間を詰めたりハイビームで威嚇したりといった行動に及びました。しかし、制限速度というルールに照らせば、正しかったのはどちらだったのでしょうか。
①「お仕置き」が招く一発免許取り消し
たとえ前の車が制限速度以下で走っていたとしても、それを「邪魔だ」と判断して車間を詰めたり、威嚇のためにライトをアッパーにしたりすれば、その瞬間に「妨害運転罪(あおり運転)」の対象となります。
あおり運転と認定されれば、これまでの違反歴に関係なく、即座に「免許取り消し」という極めて重い処分が待っています。さらに、再び免許を取れるようになるまでには最低でも2年以上の欠格期間が必要です。一時のイライラの代償としては、あまりに大きすぎると言わざるを得ません(出典:警察庁「あおり運転(妨害運転)の対象となる事案」参照)。
② 焦っても到着時間は「わずか数分」の差
警察や交通安全団体の啓発によれば、5kmの道のりを走る際、時速40kmから50kmに上げたとしても、計算上の短縮時間はわずか1分30秒。さらに信号待ちや渋滞を挟めば、その差はほぼゼロになるといいます。
無理に速度を上げても、結局は次の赤信号で追いついてしまう程度の差。そのわずかな時間と引き換えに、これまで築き上げてきた教師としての信頼や、免許という日常の自由を懸ける価値はあるのでしょうか。細川さんは最終的にアメ車を降りて軽自動車に乗り換えましたが、皆さんはこの選択をどう感じますか?
③ ハンドルを握る「自分」を客観視する
大きな車が放つ「強さ」を自分の実力だと錯覚してしまう「ドレス効果」は、誰にでも起こりうる心理現象です。だからこそ、ハンドルを握っている時に怒りが湧いたら、まずは深呼吸をして、今の自分の顔を大切な人に見せられるかどうか問いかけてみてください。
その一呼吸の余裕が、取り返しのつかない過ちから自分を守ってくれます。そんなささやかな自制心が、明日からの皆さんの日常のどこかに、そっと広がっていることを願っています。
<取材・文/八木正規 再構成/日刊SPA!編集部>
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

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