日本民営鉄道協会の最新調査「2025年度 迷惑行為ランキング」では、5位に「スマートフォン等の使い方 21.6%」、8位に「乗降時のマナー(割り込み等)20.0%」がランクイン。画面の覗き見や強引な席取りなど、法に触れるわけではないけれど「モヤモヤする」マナーのグレーゾーンに、不快感を抱く人は少なくありません。
限られたスペースを共有しなければならない公共交通機関において、なぜ「自分さえ良ければいい」という振る舞いが絶えないのでしょうか。
今回は、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、スマートフォンの画面を覗き込んできた女性が放った「逆ギレ」の一言や、始発電車で目撃した驚愕の「席取り」の実態をお届けします。周囲が沈黙する中で訪れた、予想外の「決着」の瞬間とは。記事後半では、最新の迷惑行為ランキングの結果も紹介します。
※写真はイメージです。以下同
【ケース1】スマホを覗かれたのに…
佐久間彩さん(仮名・20代)は、学校帰りに電車に乗っていた。地方の路線で混雑はそれほどでもなく、座席に座ってスマートフォンを見ていたという。
「友人とのメッセージを見たり、音楽を選んだり。いつも通りの帰宅時間でした」
しかし、ふと視線を感じて顔を上げると、立っていた60代くらいの女性が横目でスマートフォンの画面を覗き込んでいた。
「気のせいかもしれないと思いましたが、画面をスクロールするたびに女性の視線が動くのがわかりました」
不快に感じた佐久間さんは、スマートフォンを少し傾けて“見えにくい角度”にした。すると、その女性が突然……。
「私、何もしてませんよ!」
その言葉に、周囲の乗客の視線が一斉に集まった。狭い車内で注目を浴び、佐久間さんは驚きと困惑で言葉を失ったそうだ。
女性はさらに、「あなた、私が見てると思ってスマホ傾けたでしょ」と言い放ったのだ。佐久間さんは、「そんなつもりはありません……」とだけ答えた。
「本当は、『見ていましたよね』と言いたかったのですが、反論すれば空気がさらに悪くなる気がして、何も言えませんでした」
女性はその後、何事もなかったかのように立っていた。佐久間さんにとって、目的の駅までの時間が異様に長く感じられたそうだ。
そして、電車を降りてようやく緊張が解けると、じわじわと怒りが湧いてきたという。
「自分は何もしていないのに、まるで“悪者”扱いされた理不尽さや周囲の視線の重さは、今でも忘れられません」
【ケース2】始発電車で見た“席取り”
井上真琴さん(仮名・30代)は、平日の朝、仕事に向かうために始発電車を待っていた。始発とはいえ利用者は多く、並ぶ位置によっては座れないこともある路線だ。
その日、井上さんは列へ早めに並び、“じゅうぶんに座れるはずの順番”を確保していたという。そして、電車が到着し、乗客が次々に乗り込んでいった。
「私は席を見つけて座ろうとしたんです。その瞬間でした。すでに座っていた年配の女性が、私の目の前の座席に荷物を置いたんです」
一時的に置いただけかと思い少し待っていたのだが、やがて別の年配女性がゆっくりと乗り込んできたそうだ。
「そしたら、荷物を置いていた女性が笑顔で『おはよう』って声をかけて、荷物をどかしました。その席に、後から来た女性が“当たり前のように”座ったんです」
目の前で座席を確保され、井上さんは呆然。他の席はすでに埋まっていたため、ドアの横に立つしかなかったという。
譲り合いの気持ちが失せる
その後、2人は楽しそうに会話を続けた。井上さんは、腹立たしさよりも、なんとも言えない虚しさを感じたようだ。
「言葉も出ませんでした。でも、こういう卑怯な座り方を見ると、譲り合いの気持ちがなくなってしまいます」
これまで井上さんは、お年寄りや身体の不自由な人には、積極的に席を譲ってきた。だからこそ、今回の出来事はショックだったそうだ。
「私もいつか年を取るけど、あんなふうにはなりたくありません。ちゃんとルールを守って、常識のある大人でいたいと心から思いました」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
■ 数字が語る「マナー問題」と私たちができること
公共の場での譲り合いが、一人の身勝手な振る舞いで踏みにじられてしまう。そんな車内の光景は、今の時代、決して他人事ではありません。
① 順位が再び上昇した「スマホ」と、根強い「乗降時のマナー」
日本民営鉄道協会が2025年10月から11月にかけて実施したアンケート結果(5,202名回答)を見ると、車内マナーに対する人々の意識の変化が如実に表れています。
今回のエピソードに関連する「スマートフォンの使い方」の推移を見ると、2021年度(5位)、2022年度(6位)、2023年度(6位)と上位をキープしていましたが、2024年度には一度9位(13.4%)まで順位を下げていました。ところが、最新の2025年度調査では5位(21.6%)へと急上昇しており、スマホを巡るマナーが再び注目の的となっている状況が伺えます。
また、8位の「乗降時のマナー(20.0%)」についても、割り込みや席取りといった行為が依然として多くの人の目に留まっている状況です。
以下は、今回の調査で上位に挙がった項目です。
【2025年度 駅と電車内の迷惑行為ランキング】
(※回答は最大3つまで)
・1位:周囲に配慮せず咳やくしゃみをする(34.7%)
・2位:座席の座り方(詰めない・足を伸ばす等)(31.9%)
・3位:騒々しい会話・はしゃぎまわり(30.2%)
・4位:扉付近での滞留(27.6%)
・5位:スマートフォン等の使い方(21.6%)
・6位:強い香り(香水・柔軟剤等)(21.5%)
・7位:荷物の持ち方・置き方(鞄・傘等)(20.1%)
・8位:乗降時のマナー(割り込み等)(20.0%)
・9位:ゴミ・ペットボトルの放置(12.9%)
・10位:酔っ払った状態での乗車(12.5%)
② 殺伐とした車内を「ちょっとした余裕」で乗り切る
今回のエピソードで、スマホを避けただけで「何もしてませんよ!」と逆ギレされた佐久間さんや、目の前で席を奪われた井上さんが感じたのは、怒り以上に「やりきれない虚しさ」だったのではないでしょうか。
誰もが時間に追われ、心に余裕をなくしがちな現代社会。満員電車という過酷な空間にいれば、つい「自分さえ良ければいい」という気持ちが芽生えてしまうのも、ある意味では人間らしい本音かもしれません。
すべてをルールで縛り、お互いを監視し合うのは息苦しいものです。だからこそ、ほんの少しだけ「隣の人も自分と同じように疲れているんだな」と想像してみる。そのささやかな思いやりが、殺伐とした車内の空気をふっと軽くしてくれるはずです。
ストレスの多い毎日ですが、ほんの少しだけ、隣の人の疲れを想像してみる。そのささやかな配慮が連鎖して、殺伐とした車内がふっと和らぐ瞬間。そんな少しだけ優しい光景が、明日からの皆さんの日常のどこかに、そっと広がっていることを願っています。
<取材・文/chimi86 再構成/日刊SPA!編集部>
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

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