「健康のために運動を始めよう」。そう決意する瞬間は、誰にでも一度は訪れるでしょう。しかし、その意欲は個人のやる気から自然に生まれるものなのでしょうか。むしろ私たちは、日々の生活の中に潜む「きっかけ」に背中を押されることで、結果的にスポーツへと関心を向けているのではないでしょうか。
50万人規模の定点調査データを分析すると、「季節の移り変わり」や「職場での役割の変化」、さらには「ライフイベント」といった環境の変化が、行動を促す重要な要因として作用していることが浮かび上がってきました。
本記事では、「人々がスポーツに目覚める予兆」をデータ分析から解き明かし、生活者の行動変容へとつなげていく、マーケティングや事業戦略に生かすためのヒントを探っていきます。

1. 近年のスポーツ実施状況と市場の現在

図表1

20歳以上のスポーツ実施率の推移

スポーツ庁の調査¹⁾によれば、20歳以上の約半数が週1日以上スポーツを実施しています(図表1)。その実施率は令和2年度まで上昇傾向にあり、同年度には59.9%と過去最高を記録しています。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を境に状況は一変し、以降は減少・横ばいが続いています。現状を踏まえると、現在のスポーツ市場は、新規需要が生まれにくい中で既存実施者を奪い合う「レッドオーシャン」に近づいていると言えるでしょう。こうした状況下でスポーツ事業の持続的な成長を実現するには、既存顧客の維持に加え、スポーツに関心を抱きながらも行動に移せていない「潜在層」を、いかに実施へと導くかが重要になってくるでしょう。

2. 暑さや寒さはスポーツの敵か。スポーツ種目別に見る季節性の違い

そもそも、スポーツに関心を抱きながらも一歩を踏み出せずにいる「潜在層」の背中を押すものは何でしょうか。おそらく多くの人が、「夏に向けて体を絞りたい」「正月太りを解消したい」、こうした言葉を、一度は耳にしたことがあると思います。一方で、夏の猛暑による「意欲低下」や冬の極寒による「屋外への忌避感」によって、屋外でのスポーツをためらう人も少なくないでしょう。このように、人々のスポーツに対する関心や、実際に選択する種目は、季節の移ろいや気候条件によって大きく左右される可能性が高いです。
そこで本章では、これまでスポーツの実施に関心を示していなかった人々が、どの月を起点に関心を持ち始めたのかに着目し、その動きに見られる季節性の特徴を分析していきます。

図表2

スポーツ実施への関心を持ち始めた人の月次割合推移

月別にスポーツ実施への関心(図表2)を確認すると、ウォーキングおよび自宅での筋トレは、年間を通じて他の種目より高い関心水準にあります。また、これらの種目とランニングは、冬場(1~2月)の変動は小さいものの、夏場(7~8月)では下降傾向が確認できます。特に、空調管理が可能なはずの「自宅での筋トレ」への関心までもが夏場に減少する事実は、物理的な暑さ以上に、「夏場特有の身体的なだるさ」といった心理的障壁がスポーツ実施の意欲を削ぐ要因になっていることを示唆しているでしょう。
一方で、スポーツジムについては夏場でも関心が低下せず、底堅く推移していることから、スポーツジムは季節的な阻害要因による影響を受けにくく、安定して生活者をスポーツへと動機づけるポジションを確立している可能性が高いです。
このように、季節性が生活者のスポーツ実施に影響を及ぼす可能性が高く、プロモーションや訴求内容を時期に合わせて最適化していくことが、潜在層への効果的なアプローチの鍵となるでしょう。

3. 男性と女性、年代ごとに変わるスポーツに求められる価値とは

ここまで、季節がスポーツ実施に及ぼす影響を確認しましたが、性別や年齢といった属性はどのように関わっているでしょうか。スポーツ実施は、「単純に体を動かすのが好き」といった情緒的なものから「体のスタイルを改善したい」のような目的意識のものまで、人によって様々であると考えられます。こうした生活者の多様な動機の背景には、性別や年代といった属性ごとの大まかな傾向が、少なからず隠れているのかもしれません。
そこで本章では、属性ごとに人々がどのようなスポーツに関心を寄せているのかを確認し、生活者の行動変容を促すヒントを読み解いていきます。

図表3

関心のあるスポーツの性年代別構成比

図表3は性・年代別に関心があるスポーツを集計したものです。ここから、男女共通して年齢を重ねるごとにランニングが減少し、ウォーキングが増加していることが分かります。一方で、男性は加齢に伴いジムや自宅での筋トレへの関心割合が低下し、ウォーキングへと集約されていくのに対し、女性はランニングこそ減少するものの、他の活動への関心は全世代で一定の割合で維持し続けています。つまり、男性が年齢とともに主要な運動手段を特定の種目へと絞り込んでいくのに対し、女性は年代を問わず多様な手段を検討しています。このことから、女性においてはスポーツの選択肢が限定されず、常に多角的なニーズが存在し続けていると考えられます。
事業戦略を引き出す鍵は、こうした属性ごとの反応の違いを「顧客心理の変化」として捉え、それぞれの活動に対する訴求の切り口を最適化することにあります。例えば、年齢ごとのニーズが走ることから歩くことへ関心が移ることから、靴が提供する価値を「速さ」から「膝を守り、一生歩き続けるため」の安全な投資として訴求してみる。また、女性が多様な手段を検討する傾向があることから、「専門設備による短期的な効果が見込める」や、「好きなタイミングで実施できる手軽さ」のように、他にはない優位性が選択の納得性を高め、女性の潜在層の獲得へと繋がる可能性が高いです。このように、各属性の関心に即した価値提供が、生活者の行動変容を促すトリガーになり得るでしょう。

4. 就職や子育てはスイッチになり得る。ライフイベントとスポーツ実施への関心との関係

ここまで、スポーツの実施に関心が湧いたタイミング・属性の特徴について分析してきました。しかし、こうした表面的な要因の背後には、個々の暮らしの基盤となるライフスタイルの構造変化が隠れている可能性が高いです。
そこで本章では、ライフイベントとスポーツ実施への関心の関係を分析し、生活者の行動変容を引き出すために効果的なアプローチのタイミングを明らかにします。

図表4

性年代別にスポーツ実施への関心を持った月に起きたライフイベント

図表4では、スポーツ実施に関心を持ったタイミングで起こったライフイベントの上位3項目が確認できます。年代別の特徴を確認すると、20代の「就職・恋愛」から、30〜50代の「責任ある仕事や子育て」、60代以降の「定年退職・孫の誕生」へと、関心の起点は段階的に推移しています。この流れの中で、性別ごとの特徴を確認すると、男性は「異動・昇進」などの仕事環境、女性は「離職・子供の入学」などの生活環境の変化が主な起点となりやすい傾向があります。これらの属性によるイベント内容の違い以上に重要な共通点は、性別や年齢を問わず、これまでの生活リズムを維持してきた前提が揺らぐことで、新しい習慣を受け入れる「余地」が生まれやすくなる点です。男性は職場での立ち位置の変化、女性は生活構造の変化が習慣を受け入れる契機であり、その空白を埋める有力な選択肢としてスポーツが浮上していると考えられます。したがって、生活が変化し、新生活のリズムを構築しようとする生活者にアプローチすることでスポーツ実施への行動変容を起こしやすくなるでしょう。

5. まとめ

今回の集計結果から明らかになったのは、人々がスポーツを実施しようとする動機は、決して「健康のため」だけにとどまらないという点です。季節による環境の変化や、性別・年代ごとに異なるライフステージの転換点を多角的に捉えることで、スポーツ実施の可能性が高まる潜在層が、いつ動きやすくなるのかが見えてきました。
こうした「動き出すタイミング」に合わせて最適な訴求を行うことは、スポーツジムに限らず、ウェアやデバイス、サプリメントといった関連カテゴリー全般においても、顧客獲得の効率を高める有効なアプローチとなり得るでしょう。
今回使用したライフスタイルパネルでは、スポーツ習慣に留まらず、住宅・家電・金融商材など、人生の節目でニーズが生じる可能性の高い商品の購入意向や実績を、アンケートデータとして毎月蓄積しています。今回の分析のように、本パネルデータの強みは「次に動くターゲット」の潜在的な兆しを可視化することです。闇雲な広告投下を避け、生活者が最も動機づけられやすいタイミングでアプローチすることで、投資対効果の高いマーケティング施策が実現できます。

参考文献 
1)スポーツ庁「令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果を公表します

今回の分析は、以下のデータを用いて行いました。
ライフスタイルパネル
毎月約50万人から前月に起きたライフイベント情報を取得している大規模データベースです。毎月の仕事関連、学校関連、ライフイベント(結婚・出産、住宅ローン、子の独立、ペットなど)の変化等のデータをご提供。
ライフイベントの発生と合わせて、人生の節目の意思決定に関わる購買やサービス利用の実態を捉えることで、ライフイベントを軸にした生活者の分析や広告・販促プランニングなど、マーケティング戦略の立案から実行をサポート可能。

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著者プロフィール

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菅原 優樹
マーケティングソリューション本部 プロデュース 2 部 アナリスト

2025 年に大学卒業後、インテージに新卒入社およびドコモに出向。

主にドコモデータを活用した広告、分析提案を中心に、クライアント企業のマーケティング支援業務に従事。

マーケティングソリューション本部 プロデュース 2 部 アナリスト

2025 年に大学卒業後、インテージに新卒入社およびドコモに出向。

主にドコモデータを活用した広告、分析提案を中心に、クライアント企業のマーケティング支援業務に従事。

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