昨年1月にアーティスト活動10周年を迎え、10月に開催した10周年記念ツアー「歌十年tour ‐うたってんねん‐」のファイナルで、“坂口有望”から、“サカグチアミ”への改名とレーベル移籍を発表し、新たなステージへと踏み出したサカグチアミ。今年は1月14日にリリースされたEP『名前』に続き、4月15日にもDigital EP『Hush』をリリースすることを発表。ラブソング縛りという新たな挑戦となった本作について、じっくりと話を聞いた。
ー 今年1月30日に東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催された改名後初のワンマンライブを拝見しましたが、満員で盛り上がっていましたね。ファンはサカグチさんと同世代の女性が多い印象でした。
そうなんです。もちろん、どの層の方に聴いていただけるのも嬉しいのですが、同世代の女性に聴いてもらえるのは特に嬉しいですね。
ー 名前そのものを変えたわけではないので音としては同じで、表記の違いになりますが、ご自身の中での感覚に変化はありましたか?
そうですね。このタイミングで衣装を含めたビジュアル面も一新したので、あの日のライブではこれまでになかった黒いジャケットの衣装で歌わせていただきました。自分の中でも今日からカタカナ表記の“サカグチアミ”としてのワンマンライブが始まるという意識があって、これまでとは違う雰囲気を見せた方がいいのかなと思っていたんです。でも、いざステージに立つと全部忘れてしまって、とにかく歌に集中していました(笑)。結果的に見せ方の違いは衣装くらいだったのですが、お客さんからは「すごく新しくなっていた」という声を多くいただいて、きっと楽曲などからも自然と滲み出ていたのかなと感じました。
ー 前作のEP『名前』はライフソングがテーマでしたが、今作『Hush』はラブソング縛りということですが、どのような作品になりましたか?
『名前』では、あえてラブソングを入れずにライフソングだけで構成したのですが、それが自分の真骨頂というか、自分の強みはそこにあると思ったからなんです。ただ、その時点から次はラブソングをコンセプトにした『名前』と対になるような作品を作りたいという構想はありました。

ー そうだったんですね。セルフライナーノーツに「ラブソングを書くのが得意ではない」とありましたが。
そうなんです(笑)。ラブソングを作るのはあまり得意ではなくて。それでも、自分のラブソングを好きだと言ってくれるお客さんもいるので、普段はあまり書かないけれど、「ラブソング縛り」というコンセプトの作品として向き合えば、あまり気負わずに書けるんじゃないかと思いました。
ー ライフとラブが対になっているのも面白いですね。
そうですね。楽曲だけでなく、ジャケットの衣装も黒から白にしてみたり、前作EPと同じ様にリード曲を2曲目に配置してみたりと、いろいろな面で対になるようにしています。両方の側面を楽しんでもらえたら嬉しいですし、自分としては『名前』と『Hush』の2作でひとつの完成形という感覚でした。
ー 今回のサウンドプロデュースは野村陽一郎さんが担当されています。最初の出会いは「XL」でしたっけ?
そうです。「XL」の頃から、陽さんは私のラブソングのファンでいてくださっていて、私ならではの視点で切り取る恋愛表現をすごく褒めてくださったんです。前回の「歌を歌わなければ」の時も、もう少し一緒にクリエイティブな時間を共有できたらと思っていて、今回のEPはすべて陽さんのホームスタジオで制作しました。作品を通して一緒に作ることで、ストーリー性や全体のバランスもより意識できましたし、陽さんは引き出しがとても多く、女性シンガーソングライターのプロデュース経験も豊富なので、その中での自分の立ち位置も踏まえて作っていただけたと感じています。
ー 意見が対立することもありましたか?
ひとつだけありました。「絆創膏」のアレンジについて、最初にいただいたものが自分のイメージと大きく違っていて。曲自体がエモーショナルなので、もっと重くてロック寄りのアレンジを想像していたんです。ただそのことを伝えると、「長さ」でその要素は十分表現できているし、あえて歌が感情的で、アレンジが淡々としている方が歌が際立つと提案してくださって。実際に自分が想像していたアレンジも試してくださったんですが、「やっぱりこれがいいと思う!」とキラキラした目で話してくださって(笑)。
ー キラキラした目で(笑)。
はい(笑)。私も何度も聴くうちに、最終的に今のアレンジが一番良いと思えるようになりました。陽さんは私の作品に対してしっかりリスペクトを持ってくださっていて、ただ変えたいのではなく、より良くしようというアイデアをたくさん出してくださるんです。そのディスカッションはとても刺激的でしたね。しかも、エンジニアをしながらボーカルディレクションもされていて、テイクを重ねると自然にベストな形に仕上がっているんです。アレンジャーであり、ギタリストであり、ベースも鍵盤も演奏されて、本当にすごい方だなと感じました。
ー 本当にすごいですね!
そうなんです。何役もやってくださって感謝しかありません。
ー 「サニーサンデー」は、この人に会えて人生が変わったと思えるくらいハッピーという感情が溢れていますが、Aメロではすごく我慢している乙女心があって、そんなに我慢してたらいつか爆発しちゃうよって思っちゃいました(笑)。
この曲は、以前好きで好きでたまらない人がいて、その恋に浮かれていた頃に書いた曲です。自分としては別れを連想させるような言葉は入れていないつもりだったのですが、友達に聴かせたら「終わりが見える曲だね」と言われて。実際にそうなったんですけど(笑)。
ー あぁ……
曲は自分の気持ちをそのまま投影しているからこそ、無意識の部分が出ていたのかもしれません。人に聴いてもらって初めて気づくことも多くて、すごく驚きました。
ー ということは、やはりサカグチさんも恋愛で我慢をしてしまうタイプ?
そうみたいですね(笑)。自分は我慢している描写のつもりではなく、本当にまっすぐな気持ちで、例えば物がそこにあるぐらいの気持ちで書いたことだったんですが、結局そういうものが人には伝わってたんだなと思いますね。
ー リード曲の「Hush」ですが、距離感のじれったさや、自分の鼓動が聴こえてしまうくらいのドキドキ感がたまらないですね。
まさにこの曲は恋の始まりの曲で。……(資料をめくりながら)なんかこうして並べてみると、4曲とも順風満帆な恋というのを全然描けていないですよね(笑)。
ー 4曲中3曲、“傷”という言葉が使われていますし。
そうそれ!私も今日気づいて。
ー え、今日!?(笑)
そう(笑)。私はラブソングを書く時に少なからず自分の経験というか、自分の持っている景色が出てくるんですが、私にとって恋愛は“傷”と切り離せないものなんだと改めて感じました。「Hush」の中にも“傷を確かめ合うの”という歌詞がありますが、普段私があまり弱い部分を人に見せないからこそ、恋愛する相手には多分そういう部分が直結していて。自分の傷を見せられるかどうかが大切というか。だから「Hush」の中でもそういうフレーズが出てきたんだと思います。でもこの曲は、相手への想いが収まらない恋の始まりの感情がそのまま歌の表現として、歌いながら発散できたら良いなと思って書いた曲です。
ー 印象的な“赤”と“白”という歌詞のワードが、ジャケやMVにも活きていますね。こういうアートワークはサカグチさん自身もアイデアを出したりするのでしょうか。
そうなんですけど、実は面白くて。今作の収録曲やタイトルなど何にも決まってない状態で色だけが決まってたんですよ。
ー え、先に?
そうなんです。先ほどEP『名前』と『Hush』は対のイメージというお話をしましたが、『名前』は黒がテーマで、全身黒の衣装だったり「黒蝶」という曲であったり。それに対し今作の『Hush』は白をテーマにしようと元々考えていたんです。その中でも愛の要素として赤色がワンポイントになっているのは、何よりも先に実は決まっていて。なんだか面白いですよね。
ー 面白いです。では、そこから「Hush」の“赤”と“白”の歌詞を紡いでいったんですか。
結構引っ張られてますね。なのでアートワークもそこまで確定してた訳ではなかったですが、何となく自分が白っぽいものを纏って、そこに赤が入るんだろうというのを見据えて、「Hush」も書きました。私、テイラー・スウィフトがすごく好きなんですが、彼女の『Red』というアルバムがあって、それは別にラブソングコンセプトではないんですが、そういう空気感を持った作品を出したいなっという想いもあったので色が赤白に決まったのかなとも思ってます。
ー 「Hush」は、ベースのリフやドラムのフィルなど疾走感あるバンドサウンドがサカグチさんの歌声にすごくぴったりで、脳内で勝手に映像や匂いを感じました。
この曲は最初鍵盤で作ったんですが、その時から陽さんが作ってくださった今のバンドアレンジみたいな音が自分の中でも鳴ってたんです。ただ最初は特に何にも注文せず、陽さんが感じたままのアレンジを一度くださいとお願いして。だからすごくドンピシャ感がありましたね。同じような景色を多分陽さんと共有出来ていたんだなと嬉しくなりました。その上で最初にいただいたアレンジからより疾走感をつけるために、例えば2番終わりのDメロのリズムの取り方をこうしたいなど提案させてもらいました。自分がこの曲を書いた時にあった原風景というか、自分の中のシーンが車に乗ってる時の景色だったので、ドライブに似合う疾走感や、車の中で聴いても楽しくなることは結構意識したバンドサウンドになっていると思います。
