推し活がモチベーション/社会保険労務士法人アネスト 代表 水野 大
もう10年ほど前の話である。顧問先の社員の出勤簿を見て思わずニヤリとした。とある社員が年休を取得していた1週間は、ちょうどわれらが広島東洋カープが日本シリーズを戦っていた期間であった。北の大地のスタンドで懸命に応援する姿を勝手に想像して胸が熱くなった。
最近の消費活動は二極化している。人々は極力生活費を抑える傾向がある一方で、いわゆる「推し活」には出費を惜しまない。今や推し活の市場規模は年間約3.9兆円に上るとも言われている。
かくいう私も、推し活に励んでいる。地元サッカーチームであるサンフレッチェ広島の応援のため、ホームはもちろんアウェイの試合にも極力足を運ぶ。衣類のほとんどを量販店や通販で安く済ませているかたわらで、毎年発売される1着2万円のレプリカユニフォームを購入することには何のためらいもない。ユニフォーム以外にも出費を惜しまず、部屋がチームのグッズであふれるありさまだ。
推し活は単なる余暇活動の域に留まるものではない。仕事におけるモチベーション向上という観点からみても、推しは決して軽視できない存在だと考えている。推しの努力や挑戦に触れることで、自分も頑張ろうと思える。「この仕事を頑張れば推しに会える」という思いが驚くほどの集中力を生むこともある。
では、私は誰かを推すだけでなく、社会保険労務士として、誰かに推される存在になれているだろうか。
顧問先はもちろんのこと、それ以外の場においても、「あの人に相談したい」と思ってもらえることは社労士として何よりの喜びである。我われ社労士の世界でも、専門職として法令の理解や知識が不可欠であることは言うまでもない。しかし最終的に顧客から選ばれる決め手となるのは、やはり「人」としてのあり方である。
私が思うに、推される人が共通して持っている素質は、特別な才能よりもむしろ「誠実さ」や「安心感」ではないだろうか。相手の話に耳を傾ける姿勢、難局から逃げない覚悟、約束を守り続ける真摯さ。そうした営みの積重ねこそが士業としての信頼を生み、推されることにつながっていくのだ。
私にとっての推し活は自らの心を整える時間でもある。そして同時に、自らも誰かの励みになれる存在をめざす営みでもある。応援する力と、応援されるに値する誠実さ。その両方を意識することこそ、推し活時代の社労士に求められる姿勢ではないだろうか。
私自身もまた、静かに推される存在でありたいものだ。そのための努力を積み重ねていきたい。
社会保険労務士法人アネスト 代表 水野 大【広島】
