「デンマークの食」といえば、食を文化や科学、社会などの文脈から総合的に捉えるガストロノミーの先駆的存在として名を馳せたノーマ(Noma)を思い浮かべる人は多い。しかしノーマに注目が集まる一方で、デンマークの日常食もまた、未来を見据えた視点で進化を続けてきた。その背景にある歴史や考え方について、フードジャーナリストの君島佐和子が、デンマーク食文化研究家のくらもとさちこに話を聞いた。

ノーマは降って湧いたわけではない
21世紀の4分の1が過ぎた現時点で、今世紀最大のレストラン界のトピックのひとつに「ノーマ」を挙げて、否定する声はないだろう。
2003年、コペンハーゲンに開業したノーマは、足元の自然と人間の営みを見つめ直し、独創的な料理でその価値を提示するというアプローチによって、現代のガストロノミーの方向性を決定付けた。採集、発酵、熟成といったプリミティブな食材調達と加工法は、どの国や地域でも実践可能な普遍性ゆえに世界中が追随。環境やエネルギーなど現代が抱える社会課題とも結び付いていっそうクローズアップされることとなった。
美食のイメージから遠い国でいきなり登場したかに見えた(必ずと言ってよいほど、このフレーズが枕詞に使われたものだ)が、現地在住歴30年超のデンマーク食文化研究家・くらもとさちこは「ノーマ誕生の気運が醸成される土壌はすでにあった」と語る。代表例がオーガニックへの取り組み。「デンマークは世界でどこよりも早くオーガニック法を制定し、国によるオーガニック認証制度を導入した“オーガニック先進国”なんです」。
循環、バランス、多様性、自然らしさを基本原則として、周囲の自然環境と調和を保ちながら、野生の動植物の生息地を守るのが欧州のオーガニックである。固定種や在来種など、種の保存にも力を入れる。オーガニック法の制定はノーマ開業より遥かに早く1987年。静かに確実にノーマが生まれる精神風土は耕されていたのかもしれない。
