アリゾナ拠点拡張で進む台湾からの製造分散、米台の政治信頼が安保の新たな要石へ

小久保 重信

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2026.3.11(水)

TSMCが米アリゾナ州に建設している工場(撮影日不明、写真:Alamy/アフロ)

 1月中旬に基本合意に達した米国と台湾の貿易協定は、2月中旬の正式調印により新たな段階に入った。

 これにより、台湾からの輸出品に対する米国の関税が主要な貿易相手国と同水準に調整され、双方の経済関係の正常化に向けた大きな一歩を刻んだ。

 しかし、この協定には経済関係の核心である半導体が依然として含まれていない。

 台湾当局が関税免除を条件に表明した総額2500億米ドル(約38兆3000億円)の対米投資公約についても、その具体的な内訳や実行スケジュールは未だ明らかになっていない。

 さらに2月下旬には、米連邦最高裁がトランプ政権の広範な関税措置を権限逸脱とする違憲判決を下した。

 これに反発したトランプ氏が、台湾を「米国のチップビジネスを盗んだ」と改めて非難するなど、巨額投資を盾にした免税スキームの前提が揺らぐリスクも浮上している(香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト=SCMPの記事)。

 米国の司法判断によって、トランプ政権の相互関税(Reciprocal Tariffs)に違憲判決が下されたとはいえ、直後に別の法律に基づく関税措置が示された事実は、通商環境の不透明さが解消されない現実を物語っている。

 台湾側にとって投資公約のリセットを試みることは、かえって厳しい条件を突きつけられるリスクを伴い、もはや合意の撤回は現実的ではない。

 供給網の再編は、明文化された「ルール」ではなく大統領個人の「ディール」が支配する、予測困難な船出となった。

 半導体の受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、これまで米エヌビディア(NVIDIA)や米アップルなどのチップを供給することで急成長を遂げてきた。

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、TSMCの投資規模や製造拠点の配備計画について、「ハイテク覇権を巡る大規模なパズルの中核として、世界中から注目を集める」と報じた。

1000億ドルの投資枠を巡る「巨大な空白」

 鄭麗君・行政院副院長(副首相)は、今回の一連の巨額投資について同地域企業の既存設備投資計画を合算したものだと説明した。

 今後3年間で過去の実績を上回る設備投資を予定しているTSMCが、全体の大部分を実質的に担う形となっている。

 ハワード・ラトニック米商務長官によれば、2500億米ドルの総額には、TSMCが既に表明していた1000億米ドルの投資額が含まれる。

 さらに、サプライチェーン企業の投資が300億米ドル、鴻海(ホンハイ)精密工業などのサーバ組立企業が200億米ドルを担う計算となる。

 ただ、これらを合算しても総額には届かず、残る約1000億米ドルという膨大な投資の空白を埋められる企業は、製造ラインの規模から見てTSMC以外には存在しない。

 同社が追加投資を求められる現実は、米国の関税免除スキームと深く結びついている。

 半導体市場が年間売上高1兆ドルという未踏の領域に迫る中、TSMCの役割は一企業の枠を超えつつある。

 同社が米南西部アリゾナ州で計画している6拠点以上の工場建設は、世界インフラを支える最先端チップの安定供給を維持するための生命線といえる。

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