新年度が近づく3月は、家計の見直しや老後資金の準備を改めて考える人が増える時期です。

食料品や光熱費の値上がりが続くなか、年金を主な収入源とする高齢世帯の生活は決して楽とは言えません。

実際、統計を見ると70歳代の夫婦世帯でも毎月の家計収支が赤字になるケースがあることがわかります。

老後の生活を安心して送るためには、年金収入や貯蓄額、支出の実態を客観的なデータで把握することが大切です。

この記事では、70歳代の二人以上世帯の平均貯蓄額や年金受給額、毎月の家計収支、さらに高齢者世帯の生活意識について、統計データをもとにわかりやすく整理します。

1. 1. 【70歳代夫婦の資産状況】二人以上世帯の平均貯蓄額と中央値を確認

J-FLEC(金融経済教育推進機構)による「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」から、「70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)」について、グラフをもとに確認していきます。

※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。

「70歳代・二人以上世帯」の平均貯蓄額は2416万円となりました。ただし、この数値は一部の富裕層が大きく押し上げている側面があり、実態をより反映しているとされる中央値は1178万円となっています。

世帯ごとの貯蓄額分布は以下のとおりです。


金融資産非保有:10.9%
100万円未満:4.5%
100~200万円未満:5.1%
200~300万円未満:3.7%
300~400万円未満:3.9%
400~500万円未満:2.9%
500~700万円未満:6.4%
700~1000万円未満:6.7%
1000~1500万円未満:11.1%
1500~2000万円未満:6.7%
2000~3000万円未満:12.3%
3000万円以上:25.2%
無回答:0.6%

「貯蓄0円」の世帯が全体の10.9%を占める一方で、3000万円以上の資産を有する世帯は25.2%となっています。この結果から、70歳代・二人以上世帯の間では、資産状況に大きな差があることがわかります。

そのほか、100万円未満が4.5%、100~200万円未満が5.1%、200~300万円未満が3.7%と、貯蓄水準が低い層も一定数見られます。反対に、1000~1500万円未満が11.1%、1500~2000万円未満が6.7%、2000~3000万円未満が12.3%と、比較的余裕のある世帯も存在します。

老後の貯蓄額は、現役時代の働き方や退職金、さらには健康状態などによって大きく左右されます。年金についても、現役時代の働き方や加入状況によって受給額は異なります。

貯蓄が十分でない場合、年金収入だけで生活するのが難しいこともあるでしょう。老後を安心して過ごすためには、世帯ごとの事情に合わせた生活設計が欠かせません。

元気なうちは働く、不動産や投資による収入を考えるなど、早めの対策が将来の安心につながります。

2. 【厚生年金の受給額】平均月額・男女差・受給分布をチェック

厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金の平均年金月額を確認しましょう。

厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されていますが、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下、記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。

※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には国民年金の月額部分も含まれています。

2.1 厚生年金の平均月額|男女別の受給額


〈全体〉平均年金月額:15万289円
〈男性〉平均年金月額:16万9967円
〈女性〉平均年金月額:11万1413円

男女別の平均額には開きがあり、男性が16万9967円であるのに対し、女性は11万1413円となっています。

では、具体的にどのくらいの金額を受け取っている人が多いのでしょうか。月額階級別の受給権者数は以下のとおりです。

2.2 受給額の分布|月額階級別の受給者数


~1万円:4万3399人
1万円以上~2万円未満:1万4137人
2万円以上~3万円未満:3万5397人
3万円以上~4万円未満:6万8210人
4万円以上~5万円未満:7万6692人
5万円以上~6万円未満:10万8447人
6万円以上~7万円未満:31万5106人
7万円以上~8万円未満:57万8950人
8万円以上~9万円未満:80万2179人
9万円以上~10万円未満:101万1457人
10万円以上~11万円未満:111万2828人
11万円以上~12万円未満:107万1485人
12万円以上~13万円未満:97万9155人
13万円以上~14万円未満:92万3506人
14万円以上~15万円未満:92万9264人
15万円以上~16万円未満:96万5035人
16万円以上~17万円未満:100万1322人
17万円以上~18万円未満:103万1951人
18万円以上~19万円未満:102万6888人
19万円以上~20万円未満:96万2615人
20万円以上~21万円未満:85万3591人
21万円以上~22万円未満:70万4633人
22万円以上~23万円未満:52万3958人
23万円以上~24万円未満:35万4人
24万円以上~25万円未満:23万211人
25万円以上~26万円未満:15万796人
26万円以上~27万円未満:9万4667人
27万円以上~28万円未満:5万5083人
28万円以上~29万円未満:3万289人
29万円以上~30万円未満:1万5158人
30万円以上~:1万9283人

月額階級別の受給権者数を見ると、最も人数が多いのは「10万円以上~11万円未満」の層で、約111万人が該当します。

次いで「11万円以上~12万円未満」の約107万人、「17万円以上~18万円未満」の約103万人と続きます。

3. 国民年金の平均受給額は?男女差と最多受給層

厚生年金の加入期間がなかった人が受け取る、国民年金(老齢基礎年金)の月額について見ていきます。

3.1 国民年金の平均月額|男女別の比較


〈全体〉平均年金月額:5万9310円
〈男性〉平均年金月額:6万1595円
〈女性〉平均年金月額:5万7582円

平均年金月額には、男性と女性で約4000円の差が見られます。加入期間や保険料の納付状況の違いが、このような差につながっていると考えられます。

3.2 受給額の分布|どのくらいの金額を受け取っている?

1万円未満:5万1828人
1万円以上~2万円未満:21万3583人
2万円以上~3万円未満:68万4559人
3万円以上~4万円未満:206万1539人
4万円以上~5万円未満:388万83人
5万円以上~6万円未満:641万228人
6万円以上~7万円未満:1715万5059人
7万円以上~:299万7738人

国民年金の受給額は、6万円以上7万円未満の層が最も多く、満額に近い水準で受け取っている人が多いことがわかります。一方で、5万円未満の層も一定数おり、加入期間や保険料の納付状況によって受給額に幅がある点が特徴です。

国民年金は一律の金額ではなく、個々の加入履歴によって受け取る額が異なる仕組みとなっています。

4. 【リアルな家計】65歳以上・夫婦のみ無職世帯の平均収支

老後の生活費はどれくらいかかるのでしょうか。

総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」より、65歳以上・無職夫婦のみ世帯の平均的な家計収支を見てみます。

4.1 収入の内訳:平均25万2818円

うち社会保障給付(主に年金):22万5182円

4.2 可処分所得(手取り):平均22万2462円

(収入)25万2818円ー(非消費支出)3万356円=22万2462円

非消費支出:3万356円


直接税:1万1162円
社会保険料:1万9171円

4.3 支出の内訳:平均25万6521円


食料:7万6352円
住居:1万6432円
光熱・水道:2万1919円
家具・家事用品:1万2265円
被服及び履物:5590円
保健医療:1万8383円
交通・通信:2万7768円
教育:0円
教養娯楽:2万5377円
その他の消費支出:5万2433円

うち諸雑費:2万2125円
うち交際費:2万3888円
うち仕送り金:1040円

4.4 家計収支の結果:毎月約3万4000円の赤字


ひと月の赤字:3万4058円

※端数処理

毎月の収入(実収入)は25万2818円です。しかし、ここから税金や社会保険料などの「非消費支出(3万356円)」が差し引かれるため、実際に生活費に回せるお金である「可処分所得(手取り額)」は22万2462円となります。

一方、毎月の消費支出は25万6521円。 手取り額(22万2462円)からこの支出を差し引くと、毎月3万4058円の赤字となります。

この不足分を、現役時代に蓄えた貯蓄を取り崩して補っているのが現代のシニア世代の実情でしょう。

なお、この調査結果で住居費が1万6432円と極めて低いのは、多くの世帯が「持ち家」であり、家賃負担がないことを前提としているためです。

賃貸住まいの方や住宅ローンが残っている方の場合は、この住居費分がそのまま赤字額に上乗せされます。

老後の住まいをどうするかは、現役時代から十分に検討しておく必要があります。

5. 【生活実感のデータ】高齢者世帯の生活意識調査

厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」から、高齢者世帯(※)の生活意識に関するリアルな結果を見ていきます。

※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯

5.1 生活は「苦しい」が半数以上


大変苦しい:25.2%
やや苦しい:30.6%
普通:40.1%
ややゆとりがある:3.6%
大変ゆとりがある:0.6%

この調査結果からは、シニア世帯の暮らし向きが、経済状況によって大きく3つの層に分かれている様子が見えてきます。

まず、半数以上(55.8%)が「大変苦しい」「やや苦しい」と回答し、日々の生活に経済的な厳しさを感じています。

その一方で、「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」と回答した世帯は合計してもわずか4.2%。経済的な余裕を実感できているシニア世帯はごく一握りのようです。

そして、これら両者の中間にあたるのが、40.1%を占める「普通」と回答した層です。この割合は「苦しい」層には及ばないものの、「ゆとりがある」層を大きく上回りました。

経済的な余裕があるとは言えないものの、堅実に暮らす一定数のシニア世帯が、厚い中間層を形成している様子もうかがえます。

6. まとめ|データから考える「70歳代夫婦の老後家計」とこれからの備え

統計データを見ると、70歳代の二人以上世帯では平均貯蓄額が2000万円を超える一方で、家計収支は毎月約3万円以上の赤字となるケースも確認されています。

収入の中心は公的年金ですが、年金額には大きな個人差があり、生活状況も世帯ごとに異なります。

また、生活意識の調査では「生活が苦しい」と感じている高齢世帯が半数を超える結果もあり、物価上昇の影響が老後家計に及んでいることがうかがえます。

3月は新年度を前に家計や資産状況を見直すよいタイミングです。平均データはあくまで参考ですが、自分の年金収入や貯蓄額、支出のバランスを把握し、必要に応じて支出の見直しや資産の活用を検討することが重要です。

老後の生活設計をより安定させるためにも、定期的に家計の状況を確認しておくことをおすすめします。

※当記事は再編集記事です。

参考資料

齊藤 慧

著者

株式会社モニクルリサーチ メディア編集本部 編集長室

元・厚生労働省担当記者(社会保障専門紙)

中央大学法学部卒業。東証プライム上場IT企業での法人営業を経て、厚生労働省記者クラブに所属。 行政・自治体向けの社会保障専門紙(医療・国保・年金領域)にて、国民生活に直結する制度改正の舞台裏を最前線で取材。

「年金」「医療保険」などの公的制度と、「NISA」「iDeCo」などの私的資産形成をリンクさせ、「国に頼りすぎず、国を賢く利用する」ための家計防衛術を発信。 Yahoo!ニュース「経済ランキング」で1位を多数獲得するなど、現役世代からシニア層に向け、事実に基づいた記事を執筆している。

【経歴・専門性】

■ 官公庁取材で培った「制度解読力」

前職の専門紙記者時代には、厚生労働省本省および地方自治体(保険者)を対象に、以下の重要政策を取材してきた。

・公的医療保険・国保制度: データヘルス改革特定健診マイナンバーと保険証の一体化など、国のDX施策と医療費適正化の動き。

・診療報酬・介護報酬改定: 業界構造が変わる瞬間の政策決定プロセスや、地域医療構想の動向。

公的年金制度: 財政検証に基づく給付水準の変動予測や、マクロ経済スライドの影響分析。

これらの取材を通じ、「制度の複雑化が家計に与えるサイレントな不利益」を痛感。役所の論理で設計された難解な仕組みを、生活者の言葉に翻訳している。

■ IT企業出身の「データ分析」×「リアルな貯蓄論」

IT企業出身のバックグラウンドを活かし、総務省統計局「家計調査」や厚労省などの膨大な官公庁統計の読み解きを得意としている。

「老後2000万円問題」などの平均値の罠を数字で暴き、「実際のところ、みんな幾ら持っているのか?(中央値)」などの実態を論理的に解説。 NISAやiDeCoについても、投資推奨ではなく「制度上の税制優遇メリット」をデータに基づいて冷静に分析するスタイルを貫いている。

【主な執筆・担当領域】

・公的年金・給付金 「在職老齢年金による支給停止」や「年金生活者支援給付金の要件」など、知らないと損をする内容を解説。日本年金機構の最新発表や、定額減税・各種給付金の対象者判定フローなど、最新の行政情報を追い、届けている。

・医療・介護保険 医療保険制度の仕組みをベースに、万が一の時に「どこまで自己負担が必要か」の限度額(高額療養費制度など)や、公的保障のセーフティネットの範囲を分かりやすく図解する。

・資産運用(新NISA・iDeCo) 公的年金の不足分を補うための、リスクを抑えた長期積立投資の出口戦略。金融庁(NISA特設サイト)iDeCo公式サイト等の公表データを元に、制度概要を整理する。

・貯蓄、家計管理 統計データに基づいた年代別・世帯年収別の「貯蓄の正解」や、インフレ時代のリスク管理について、e-Gov法令検索などの一次情報を参照しつつ情報提供を行う。

【信条・ミッション】

「役所の論理ではなく、生活者の視点で」

複雑怪奇な社会保障制度の隙間で、知っていれば救われたはずの人が損をする現状をゼロにしたい。 そのために、一次情報(法律・統計)を徹底的に洗い直し、「自分と家族を守るための武器」となる記事を届け続けたいと考えている。

(2025年12月10日更新)

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