みなさんは「介護をされる人」の本音を聞いたことはあるでしょうか。

ニャンちゅうの声を30年演じていた津久井教生さんが6年かけてつづった書籍『ALSと笑顔で生きる。~声を失った声優の「工夫ファクトリー」~』が4月27日に発売となります。

本書は2019年3月に大きく転んだことを機に「歩きにくい」ことに気づいた津久井さんが、同年9月にALS(筋萎縮性側索硬化症)を告知されてから今までを伝える一冊です。そこには「介護される側」の本音や工夫のやり方が盛りだくさんなのです。

ALSとは感覚があるままに体が動かなくなっていく難病です。津久井さんは最初は足が動かなくなり、翌年に手が動かなくなっていきました。しかし声は一切影響がなく、告知後もニャンちゅうをはじめとした声の仕事を続けていたのです。

そんな津久井さんが恐れていたのが、ALSの症状がのどの方に現れることでした。球麻痺といって、舌や呼吸器官から症状がでる方もいらっしゃり、そういう場合は呼吸困難に陥ることが多いため、気管切開の手術を早期にするか否かの決断を迫られるからです。気管切開とはのどに穴をあけて呼吸を確保するため、「ニャンちゅうの声」を出すのは難しいと言われていました。

しかしなんとそれから2022年10月まで、津久井さんの声はニャンちゅうを演じ続けることができました。現在は羽多野渉さんが引き継いでニャンちゅうを生きています。

書籍の発売を記念して、津久井さんが新たに視線入力で執筆した原稿をお届けする連載第68回では、2022年12月に呼吸困難となり、気管切開をしたときのエピソードをお伝えしています。

前編では51対49で気管切開をしない選択をしようと思っていた津久井さんが、気管切開を決めた経緯や、手術後に目覚めたところをお伝えしました。後編では「呼吸がしやすい」「痛くない」と驚いた津久井さんが抱いた「違和感」をお伝えします。

気管切開の「もう1つの違和感」とは?

そしてもう一つ、意識がはっきりしてくるほど感じて来た違和感がありました。

最初のうちは、確かに手術する直前に比べて呼吸が楽になったと感じていました。ところが楽になったと思っていた呼吸する事自体にどんどんと変な感覚が被さって来たのでした。自分のしている呼吸を意識すればするほど、その変な感覚が違和感として広がっていく感じでした。

それは、「今呼吸をしようとしている自分の他に、もう一人の誰かが呼吸している」という感覚です。それがどういうことなのかと言うと、「もう一人の誰か」とは呼吸器のことだったのです。その時の私は痰が絡み、呼吸筋も低下している上に右の肺が真っ白になるくらいの肺炎を起こしていました。当然ながら、そんな私にたいして呼吸器の設定は強制的に空気を送りこむようになっていたのです。

意識を取り戻して通常の自分の呼吸に戻ろうとしている私と、設定されている呼吸を続けようとしている呼吸器が合わなくてぶつかりあってしまったのです。これが違和感の原因でした。私がしたいと思っている呼吸のリズムと呼吸器のリズムが違うと、確かに息はしているのですが、なぁんか微妙〜に気持ちが悪いのです。呼吸器のおかげで楽になっていることはわかっていても、できれば解消したい違和感なのでした。

呼吸器は設定で、「一分間に何回」というふうに、呼吸回数とその時に送りこむ空気の量が決まっています。そうなのです、ファジーではないのです。決まったリズムで呼吸を喉の穴から送りこんでくるのです。自分の呼吸のリズムなんて考えたことなんかなかった私にとっては、自分が呼吸していて吐こうとした時に空気が入ってくる感覚があると「えっ?」という感じになってしまうのでした。

残念ながら、集中治療室にいる間は呼吸器が優先のようでした。肺炎も含めた手術後の治療をしていたので、呼吸器の設定に身を任せるのが得策だと思いました。設定も私の状況に合わせて変えてくれたようでもあります。何よりもこれから呼吸器にお世話になる事はわかっていましたし、仲良くなって、呼吸器がどんなやつなのかを知りたい好奇心が勝っていたのだと思います。

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