2026年7月18日、千葉・LaLa arena TOKYO-BAYにて「GAME MUSIC JAM – Level 1」が開催された。本公演は単なる音楽イベントの枠を超え、プレイヤーが画面越しに体験した「記憶」を呼び覚ます聖域のような空間となった。スクウェア・エニックスの歴史を彩る名作群から、世界中を熱狂させたインディー作品まで、選び抜かれた楽曲たちがバンドアンサンブルとピアノの旋律によって再構築された。

 同社の音楽専門レーベル『SQUARE ENIX MUSIC』は2005年から展開されているが、その頃から夢見てきた景色なのではないだろうか。あまたのゲーム音楽が今日までにリミックスやアレンジを施され、さまざまなジャンルのサウンドスケープが表現されてきた。タイトルの垣根を越えて、バンドだけでなくピアノの独奏まで披露された本公演はまさに新機軸にして集大成。本レポートでは、辣腕のミュージシャンたちが再現した「旅」の模様をお伝えする。

まさに「タイムレス」!オープニングアクト、アルトラ・フェイブルが示したアレンジの可能性

 人気ゲーム実況者・おついちと、祖堅正慶(『ファイナルファンタジーXIV』サウンドディレクター/THE PRIMALS)のMCのあといよいよライブは開幕へ。

 開演を告げたのは、アルトラ・フェイブルによるボーカルステージ「SQUARE ENIX Vocal Covers – Timeless Classics」だ。1曲目の『ファイナルファンタジーXIII』の「サンレス水郷」は、メインテーマ「誓い」のハウスアレンジ。同作における人気曲だが、本楽曲が流れる自然保護区“サンレス水郷”はクリア後に訪問不可になる。その不可逆性がまた、1回限りのライブの尊さのようなものを思い出させた。

 続く『ゼノギアス』の「SMALL TWO OF PIECES ~軋んだ破片~」は、エンディングで流れる至高のバラードだ。ゲーム音楽としてスクウェアが生んだ初めてのボーカルトラックというだけあって、まさに“Timeless Classic”のコンセプトにふさわしい選曲である。今回披露されたアレンジは『SQUARE ENIX Vocal Covers – Timeless Classics』の同名アルバムVol.2に収録されているが、4つ打ちのアップビートなフレンチエレクトロに仕上げた河上雄道の手腕も称えられてしかるべきだろう。

 そして『ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ』の「Endwalker」へと続く。THE PRIMALSのセクションで持ってくるかと思いきや、アルトラに託された。客席からも「え、まじで?」などの声があがっていた。このアレンジも「Timeless Classics」仕様。硬質なビートにアルトラのストレートな歌唱が乗って、サム・カーター(Architects)が歌う原曲とは異なる魅力があった。

 Vol.1の『SQUARE ENIX Vocal Covers – Timeless Classics』も含め、本作が素晴らしいカバーアルバムであることを改めて証明してみせたステージだった。将来的には、アルトラももっと長い尺で観たいところ。

『クロノトリガー』、時空を超えた旅の追体験

 GMJ SPECIAL BANDによる『クロノ・トリガー』のステージは、まさに「時を超える旋律」そのものであった。バンドマスター&ギターの後藤貴徳、ギター担当の岩井陽祐、ベース の鈴木智、ドラムを叩いた平川象士、キーボードを奏でた川治恵美と田中咲希、ヴァイオリン の伊藤友馬は、いずれも鬼気迫る演奏をみせた。

 冒頭の「風の憧憬」はフィールドBGMとしてあまりにも有名だ。これまでにオーケストラでもジャズでも再現されてきたが、バンドセットではまた異なる味わいがある。原曲が持つノスタルジックなニュアンスは少しも損なわれることなく、スクリーンで展開されるゲーム画面には否応なく郷愁に駆られる。

 「カエルのテーマ」では、かつて人間の騎士サイラスを失い、呪いによって姿を変えられたグレン(カエル)が、自らの過去を乗り越え、伝説の剣グランドリオンを掲げる名シーンが脳裏をよぎる。よぎるというか、実際にスクリーンには該当場面が映し出されていた。

 「ロボのテーマ」は原曲からしてリック・アストリーの「Never Gonna Give You Up」(1987年)っぽいところがあるのだが、バンドではさらに80’sグルーヴが耳を引く。当時のシンセの音色はまさしく未来的なサウンドであり、『クロノトリガー』の荒廃した未来観を表現するのに打ってつけだったように思う。ディストピアの中で輝く、ロボの良心。そのアンビバレンスな存在が、切ないメロディの中で際立っていた。

 そしてハイライトのひとつである「時の回廊」。エキゾチックな旋律は、時空の狭間を旅するプレイヤーに、この世界の壮大さと儚さを同時に突きつける。シタールのような響きと、スティールパンを想起させる音色。古今東西のサウンドモチーフを破綻なく成立させた光田康典の手腕には、もはや畏怖の念すら覚える。

 続く「ラストバトル」では、星を喰らうものラヴォス(厳密にはラヴォスコアだが)との最終決戦が再現された。過去・現在・未来の全てを救うための戦いの緊張感が、激しいドラムとギターの応酬で表現され、観客はクロノたちと共に星の運命を背負って戦っているかのような錯覚に陥いる。途中で入る“ギョイーン”という音が、子供の頃本当に怖かったことを思い出した。

ダンガンロンパ:打ち込みサウンドをバンドで実践!

 続く『ダンガンロンパ』ステージは、独特の「サイコポップ」な空気感が会場を支配した。メインテーマ「DANGANRONPA」が鳴り響いた瞬間、モノクマによる不条理な学園生活の幕開けが想起される。ブレイクビーツ的な手触りのリズム感は、一気にスタイリッシュなミステリーの世界に引き込む。

 個人的に最もテンションが上がったのは「議論 -HEAT UP-」で、原曲のトランシーなニュアンスを完璧に再現していた。ゲーム音楽はプレイヤーによって途切れるタイミングやシーケンスが異なるが、それゆえにリフレインするフレーズが印象的だ。この曲は最たる例で、シンセのメロディが絶えず盛り上げる。それがライブで表現されると、ここまでグルーヴを伴って聞こえるのかと驚いた。キーボードの両名に大拍手の瞬間であり、さながらフェイスレスのシスター・ブリスのようだった。

 「Welcome DANGAN IsLand!!」では、『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』の舞台であるジャバウォック島の、欺瞞に満ちたリゾート気分が表現された。

 「V3議論 -SCRUM-」も印象的だった。ミステリーでありながらネタバレなど一切気にしない映像がスクリーンで展開され、『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』の緊張感あふれる議論の模様が映し出される。よりEDMライクな作りになった本作のBGMは、2010年代前半のティエストの香りが漂う。「議論 -HEAT UP-」と同じく、打ち込みの楽曲をバンドで再現する凄みがあった。

NieR:Automata:上がり切ったハードルを越える2人のディーヴァ

 エミ・エヴァンスとジュニーク・ニコールの双璧による『NieR:Automata』のステージは、圧巻のディーヴァショーだった。「遺サレタ場所 / 斜光」が奏でられると、人類が去り、植物に覆われた廃墟都市の静謐な情景が広がった。エヴァンスとニコール両氏による“のびやか”な歌声は、これまでの『NieR』シリーズのコンサートでも披露されてきたが、その実力は健在。バラード主体のセクションながら、ゲームと同様に沸々とこみ上げてくるものがあった。

 「遊園施設」では、かつて人間が楽しむために作った場所が、狂った機械生命体たちの楽園と化した皮肉な情景が浮かび上がる。美しくも歪んだワルツは、作中で戦うことしか知らない2Bや9Sの運命の残酷さを際立たせる。

 「美シキ歌」は、愛を渇望するあまり怪物へと変貌した機械生命体ボーヴォワールのテーマだ。オペラ的な歌唱が特徴的な楽曲だが、オーケストラでない編成ではまた異なる表情を見せる。ボスキャラであるボーヴォワールの迫力や執念のようなものがソリッドに表現されていたように感じた。何せ、彼女は“美しくなりたい”という執着から他の個体を食べ続けた巨大な雌型ボスである。そうした血生臭い感触が、本公演では前面に出ていた。

 セットリストの順番にも白眉があり、その直後には「パスカル」が置かれていた。機械生命体でありながら平和を愛し、村を守ろうとしたパスカルの優しさは、前段のボーヴォワールとコントラストを生んでいたような気がした。『NieR』シリーズでは重要な対比が随所で描かれるが、今回のライブではそれが強調されていたように思う。

 そして、締めくくりはもちろん「Weight of the World」。本公演のセットリストの中では、恐らく最も予想が容易な楽曲だったのではないか。そう言ってしまえるほど、このバラードは『NieR:Automata』にとってあまりにも存在感が大きい。そしてこの2人は上がり切ったハードルを毎回超えてみせるのだった。あまたのアレンジやリミックスが施され、歴史が積み重なってきた中でも、むしろそのプレッシャーを楽しむ余裕すらありそうだ。日本語で謝意を示すMCにも、ディーヴァとしての矜持が垣間見えた。

UNDERTALE:ピアノが奏でる「決意」

 森下唯による『UNDERTALE』のソロステージは、ピアノ1台でこれほどまでに感情を揺さぶることができるのかという驚きに満ちていた。ライブに移る前に、同氏はMCにて「何でもひとりで作ってしまうトビー・フォックスさんに敬意を表して、私もソロという形でピアノを弾かせてもらいます」と述べる。その熱い決意に裏打ちされた、素晴らしいパフォーマンスだった。

 「心の痛み」は、遺跡の守護者トリエルとの別れ、あるいは戦いを象徴する。優しくも厳しい彼女の愛情と、そこから旅立たなければならない子供の孤独が、鍵盤の上で繊細に表現された。森下氏は、スクウェア・エニックスから発売された『UNDERTALE』の10周年記念ピアノアレンジアルバム『UNDERTALE Piano Arrangement Album – Echoes Beneath』にもアレンジャー/奏者として参加しており、この日彼が弾きこなした楽曲はいずれも本作に収録されている。

 「正義の槍」では、英雄アンダインの猛攻と、彼女が背負うモンスターたちの期待が力強い打鍵で奏でられた。チップチューンでも印象的なフレーズは、ピアノの旋律に変貌することによりさらに瑞々しい趣に感じられた。

 「あきらめないで」は、ゲームオーバー画面で流れる、プレイヤーの「決意」を促す楽曲だ。死を繰り返してもなお立ち上がるプレイヤーの意志を支えるこの曲が、森下氏の情熱的な演奏によって、会場全体に勇気を与えた。

 そして「MEGALOVANIA」。言わずと知れたサンズ戦のテーマだ。先述のアルバムでは下村陽子との共同編曲で、もちろんピアノの独奏だ。しかしこの日は完全に“フェス仕様”。暗転からバンドが演奏に参画する。ゲーム音楽のアンセムと言うべき楽曲は、ロック調の激情的な内容に仕上がっていた。『ダンガンロンパ』の「議論 -HEAT UP-」がフェイスレスならば、「MEGALOVANIA」はサカナクションの「ミュージック」的なカタルシスがあった。

FINAL FANTASY XIV:完全にヘッドライナーだったTHE PRIMALSと、光吉猛修の衝撃

 トリを飾ったTHE PRIMALSのステージは、まさに「祭り」であった。客席のオーディエンスは立ち上がり、壇上の面々はひたすらロックをかき鳴らす。「ローカス」や「メタル」といったアレキサンダー関連の楽曲は、スチームパンクな世界観と精密なギミックを攻略するプレイヤーの記憶を刺激する。軽快なデジロック的ニュアンスの「ローカス」から、祖堅氏のトランペットが印象的なスカパンク「メタル」の流れで、このバンドのできることの多さを改めて知らしめる。

 「千年の暁 ~朱雀征魂戦~」では、「ファンフェスティバル」を含むさまざまな名場面をバンドと共に作ってきた南條愛乃が登場。たゆたうようなボーカルと情熱的なバンドの演奏が“朱雀とテンゼン”という悲恋の物語を情熱的に彩る。南條氏はヒロインである朱雀のVCも担当していることから、ライブではいつも“本人登場”感がある。

 続く「忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~」でも南條氏が壇上に残り、“英詩で”歌い上げる。これまで英語で書かれた曲を歌ってこなかった同氏にとっては、チャレンジングな試みだ。本人も自信がない様子だったが、全くの杞憂だった。「もう後戻りはしない」「あきらめない」と覚悟を決めていく歌詞のフレーズは、自身と重なる部分があったようにも見え、大変ドラマチックに映った。

 そのあと、『FINAL FANTASY XIV』におけるハイライトが待っていた。THE PRIMALSが演奏を始めたのは、スクウェア・エニックスの楽曲ではなく、セガの伝説的レースゲーム『DAYTONA USA』の「Let’s Go Away」。ステージに現れたのは、そのオリジナルシンガーであり、「日本一歌のうまいサラリーマン」として知られる光吉猛修氏だ。

 「デイトーナー」というあの突き抜けるようなハイトーンが響き渡った瞬間、会場の雰囲気はいよいよフェスに近づく。メーカーの垣根を超え、ゲーム音楽という共通言語で結ばれたこの瞬間こそ、本イベントが掲げる「JAM」の真髄であった。光吉氏の圧倒的なパフォーマンスは、かつてのゲームセンターの熱狂をアリーナに持ち込み、THE PRIMALSの重厚なサウンドと見事に融合した。法被に半股引(はんだこ)という出で立ちの光吉氏は、ホットパンツ感も相まってアクセル・ローズのような八面六臂ぶりを発揮した。

 続く「エスケープ ~次元の狭間オメガ:アルファ編~」でもセガのロックスターは健在。『DAYTONA USA』の楽曲を披露した次は『FINAL FANTASY XIV』の楽曲をということで、疾走感のあるロックナンバーを光吉氏が歌い上げる。ゲームの中にも非日常はあるが、この日に我々が目撃したスペシャルな空間は作中からも逸脱した祝祭的なものだった。そこでは“音楽”が鳴っていた。

 その後は「ライズ ~機工城アレキサンダー:天動編~」、「過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~」、さらには「ロングフォール 〜異界遺構 シルクス・ツイニング〜」と続き、FFXIVの歴史を作ってきた名曲たちが怒涛の勢いで演奏された。全10曲の演奏を終えたとき、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

 昨年9月には初の武道館公演を成功させたTHE PRIMALS。日本における“ロックの殿堂”と言うべき聖地を踏破した彼らには、もはやたどり着けない場所などない。そう思わせるには十分な圧倒的ヘッドライナーだった。

終演:Level 1の先へ

 約3時間半にわたるステージが終了。各楽曲が持つゲーム本編での意味、プレイヤーがその曲を聴きながら流した涙や手に汗握った記憶。それらが一流のアーティストたちの手によって新たな命を吹き込まれ、大音響の中で共有されたこの時間は、参加した全ての者にとって「ゲームを愛していて良かった」と思わせるに申し分ないものであった。

 「Level 1」と銘打たれたこのイベントが、今後どのような進化を遂げていくのか。光吉氏というサプライズを含め、ゲーム音楽の境界線を軽々と飛び越えてみせたこの夜は、間違いなく新たな伝説の始まりであった。『SQUARE ENIX MUSIC』が紡いできた音楽の全貌は、その一端も見せていない。その意味では、まさしく「Level 1」なのである。

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6月8日と9日、東京国際フォーラムにて、キョードー東京主催『Distant World music from FINAL FAN…

リアルサウンド テック部

Yuki Kawasaki


Yuki Kawasaki

都内のラジオ局で番組制作に従事した後、音楽ライターへ転身した。BARKSやReal Sound、Spincoasterなどに寄稿。元Mixmag Japanのチーフ・エディターで、Underworldが永遠のヒーロー。実家は「テイルズ オブ リバース」です。

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