ゲーミングヘッドセットは、ついに「平面磁界駆動」に手を伸ばした オーディオファンも注目のASUS「ROG Kithara」という挑戦

イベント会場で撮影。スペックパネルには「Planar Magnetic Driver/100mm/16Ω」の文字が並んでいます

 台湾ASUS(エイスース)のゲーミングブランド「ROG」から登場したヘッドフォン「ROG Kithara(キサラ)」は、クラウドファンディング(Green Funding)での支援価格が約4万5000円。ゲーミングヘッドフォンとして見れば「高い」と感じるのは当然です。しかし、このヘッドフォン、パッケージをよく見ると「POWERED BY HIFIMAN」という文字が刻まれているのです。

 HIFIMANといえば、平面磁界駆動ヘッドフォンの世界では知らない人がいないブランドです。しかも、ドライバーサイズは100mm。平面磁界駆動で100mmといえば、オーディオの世界でも上位クラスに位置するサイズです。

 そのHIFIMANの100mm平面磁界駆動技術が4万5000円台で手に入る。この時点で、オーディオを知っている人なら「値段がバグってる」と気づくはずです。ゲーミングヘッドフォンとしては、確かにちと高い。でも、平面磁界駆動ヘッドフォンとして見ると、この価格はおかしい(安い)のです。

●平面磁界駆動と「音漏れを許容した者が勝つ」という真実

 一般的なドライバーとは違い、平面磁界駆動型は薄いフィルム状の振動板全体を面で駆動します。これにより、音の歪みが極めて少なくなり、どこまでもクリアで解像度の高い音を実現できるのです。

 耳元にスピーカーをかけているような解放感、頭の中に音がこもらない自然な音場、そして圧倒的な解像度。言うまでもなく音漏れはします。というか、実質スピーカーなので、基本的に室内で周囲に音が出ても問題のない環境で使うことが前提です。その条件さえクリアできれば、これ以上の音響体験はなかなか得られません。

 しかし長らく、この体験はハイエンドオーディオ愛好家のものでした。平面磁界駆動ヘッドフォンで満足な音質を求めるなら、とりあえず10万円持ってこいという世界でしたから。そこにROGがゲーミングヘッドセットという形で同等の技術を約4万5000円で持ち込んできた。これが今回の挑戦の本質です。

●ガジェット魂を揺さぶる「証明書」

 製品を開封して最初に目を引くのが「SOUND SIGNATURE CERTIFICATE(サウンドシグネチャー証明書)」です。

これは、単なるカードではありません。一つ一つ工場出荷時にサウンドチェックを受け、シリアルナンバーと共に、その個体固有の周波数特性のグラフが記載されているものなのです。

 ハイエンドオーディオの世界では見かけることもありますが、ゲーミングデバイスでここまで徹底した品質管理をアピールする製品は稀です。このカードがどれほどガジェット好きの心をくすぐる“本気の証”であるかは、言うまでもありません。

 スペックについても確認しておきましょう。ステルスマグネット設計を採用したHIFIMAN製100mm平面磁界駆動ドライバーを搭載し、周波数特性は8Hzから55kHzという超広帯域をカバー。そして重要なのが、インピーダンスが16オームと非常に低く抑えられている点です。通常、平面磁界駆動ヘッドフォンは鳴らしにくく、専用の強力なヘッドフォンアンプが必要になることが多いのですが、ROG Kitharaはスマホやゲーム機のコントローラーに直挿ししても十分に鳴らせる設計になっています。この「扱いやすさ」も、ゲーミングデバイスとして非常に優秀なポイントです。

 実際にゲームプレイで試してみると、その違いは歴然でした。環境音、BGM、アクション音、そしてパーティキャラの声が、それぞれ非常にバランスよく分離して聞こえてきます。音がまとまらず、それぞれの音が“どこから鳴っているか”という定位感が抜群に良いため、まさにそのフィールドで自分が動いているかのような臨場感が増します。

 接続性の多様さも特筆すべき点です。付属のケーブル類が非常に充実しており、3.5mm、4.4mmバランス、6.3mm変換アダプター、さらにはUSB Type-C接続のDAC内蔵アダプターまで同梱されています。プラグの交換はネジを回すだけでなく、ロック機構も備えているため、使用中に緩んで外れてしまう心配がありません。この細部へのこだわりも、ゲーミングデバイスとしての信頼性を高めています。

 特に、ゲーミングデバイスに4.4mmバランス接続ケーブルが標準付属するのは珍しいです。バランス接続は、左右の音の信号を独立して伝送することで干渉ノイズを抑え、音質を向上させるヘッドフォンの駆動方式で、もともとは放送機器で使われていた技術でした。それが1970年代以降に家庭用オーディオで使われるようになり、ポータブルオーディオでも2000年代から高級機を中心に使われるようになっています。使用するには対応するヘッドフォンアンプを用意する必要があるものの、これに最初から対応しているということは、ROG Kitharaがゲームだけではなく、オーディオ製品として設計されている証拠といえるでしょう。

 さらにMEMSマイクは着脱式です。ボイスチャットが必要なゲームプレイ時はマイクを付けてゲーミングヘッドセットとして使い、音楽や映画を楽しむ時はマイクを外す。外してしまえば、外見も性能も完全に「10万円クラスに肉薄するリスニングヘッドフォン」に早変わり。この二面性もROG Kitharaならではの強みです。

●音楽・映画での体験:プライベート映画館の誕生

 映画視聴では「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」や「劇場版・幼女戦記」、そして「超かぐや姫!」などの音響にこだわった作品を視聴しました。100mmドライバーが震わせる空気の層が、まるでスピーカーで聞いているかのような奥行きを再現します。音が自然に広がり、音響が良いとされている劇場で映画を見ているかのような感覚に陥ります。

 音楽視聴においても、その実力はいかんなく発揮されます。スマホとUSB Type-C接続でAmazon Musicなどのストリーミングサービスを試聴しました。SD音質とUltra HD音質の差がはっきりと分かるのは当たり前で、ワイドな音はよりワイドに、タイトな音はよりタイトに。「生っぽいものはより生っぽく、デジタルな音はよりデジタルに」聴こえる臨場感は、まさに圧巻。例えば「ドラムというのはこんなにいろんな音が出ているのか」とびっくりする人もいるかもしれません。そして、その多層的な音が臨場感を強化してくれるのです。

●やはり価格がバグってる

 冒頭で投げかけた問いに戻ります。ある程度の音質の音響セットを組もうとすれば、スピーカー本体、アンプ、ケーブル、設置スペースと、それなりの予算と場所が必要になります。ROG Kitharaは、その体験を、この価格でデスクの上に持ち込みます。ゲーミングヘッドセットとしては値段が高めなのは確かですが、自宅にこのレベルの音響環境を作る投資として見れば、この価格は明らかに安すぎるのです。

 そして、もう一つの意味にも触れておきましょう。ゲーミング市場が、ついに平面磁界駆動レベルの音質を求め始めたということなんですね。しかも、それは単に高音質を求めたということではなく、今時の3D空間のゲームでは、高音質であることは、実際にプレイ体験を左右する要素でもあるのです。これは、ゲーマーとオーディオマニアの境界線が消え始めた瞬間と言っていいかもしれません。

 ROG Kitharaは、ゲーマーに“本物の音”を、オーディオファンに“最新の利便性”を突きつけます。手に入るのは、単なるヘッドセットではありません。100mmの膜が震えるたびに、PCのデスク上が映画館になり、ライブ会場になるデバイスなのです。

 最後に、個人的な感想を少し。私は自分の作業環境に、それなりの音響システムを組んでいるので、正直なところこの製品はなくても生きていけます。それでも、試聴した時から欲しくてうずうずしている状態です。それほど、これは音好きにはたまらない製品なのです。

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