コンピュータエンターテインメント開発者を対象とした、ゲームに関する技術や知識を共有する国内最大級のカンファレンス「CEDEC 2025」にて、フロム・ソフトウェアの3Dグラフィックセクション所属、佐藤秀憲氏と片平怜士氏による講演「背景レイアウトから読み解く、『ELDEN RING』の世界」が行なわれた。

 本講演では、印象を強化する背景レイアウトを作るための手法と、多数の活用事例について解説。強い印象の背景グラフィックにするためにレイアウトを重視して制作されたというアクションRPG「ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE」と「ELDEN RING NIGHTREIGN」を例に様々なテクニックが紹介されたので、本稿ではその一部をお伝えする。

 なお、「CEDEC 2025」での講演はオンライン配信も実施されている。リアルタイムで視聴ができなかった人でも、受講登録を済ませている人であればタイムシフト配信を利用可能。タイムシフト配信はセッション終了の後日に公開され、会期終了後でも8月4日10時まで視聴できるので、ぜひ利用していただきたい。

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左:片平怜士氏 右:佐藤秀憲氏視線誘導や違和感の配置で背景の印象を強烈にブラッシュアップ。光の当て方なども工夫

 「背景レイアウト」とは、画面内の複数の要素を配置し、それらを組み合わせて絵を構築すること。ここで言う要素は物体だけでなく、色や光なども含まれており、その要素をどう使っていくかで背景の印象が大きく変化していく。

 「ELDEN RING」はダークファンタジーな世界観ということもあって全体的に暗いイメージだが、その中でも細かなテクニックにより、ユーザーがずっと飽きず、シームレスに進んでいくフィールド上でエリアの移り変わりなどをしっかり感じられるようになっているのだ。

 「背景レイアウト」の悪い例として挙げられたのは、単調な部分が多い、視線誘導が不安定といったこと。例えば、配置されたオブジェクトの形が似たようなものが並んでいたり、明度、色相の変化が少なかったりすると、ゲームをプレイしていく中で単調だと感じてしまう。

 特に重要視している要素としては、ユーザーの視線誘導について。目的地をはっきりとさせたり、注目させたい場所に敢えて違和感を加えることで強烈な印象を与え、ワクワク感や驚き、感動を演出しているというわけだ。

好き勝手な制作はNG。様々な制限下での工夫も必要

 上記で抑えたポイントを参考にしていけばOKかというとそんな単純な話ではなく、ゲームにおける背景制作では、様々な制限があることが多いという。世界観に沿ったものにしなければならないというのは大前提だが、そのほかに作業コストや色んな要件が絡んでくるため、好き勝手に制作できる機会というのは少ないようだ。

 例えば、「ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE」における墓地平原というエリアでは、「近景に大きなパーツを配置しないこと」が要件だったが、それだとどうしても平坦なフィールドになってしまい単調になりがちだったため、ここでは遠景に要素を詰め込むという手法を用いたという。

 直線的だった部分に複雑なシルエットを入れたりライティングなどを調整。最終的にはランドマーク周辺に黒いベールのようなエフェクトを付け強烈な印象にすることで、近景の単調さを打ち消すような仕上がりになったようだ。

 制限下のもとでの背景制作については、「ELDEN RING NIGHTREIGN」でのボスエリアの事例も紹介。ゲームをプレイした人であれば何度も訪れるであろう、あの空と地面しかない空間。ただし、実は各ボスごとの特色に合わせた様々な工夫が行なわれており、さらに戦闘が進んでいくごとに変化していく要素などもあり、かなり念密に制作されていることがわかった。

 ボスは体力の削られ具合により行動が変化していく。これに合わせ、背景なども目まぐるしく変化しているのだ。また、ボスの攻撃方法などによっても細かな調整や配慮が行なわれており、例えば「闇駆ける狩人(フルゴール)」は地面から放たれる技があるため、地面にはエフェクトやパーツの配置は控える、といったことなど。

 実際、プレイ中は夢中になり過ぎて背景に注目することはなかなかできないかもしれないが、機会があればぜひその変化もぜひ楽しんでみてほしい。

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