プロeスポーツ選手、ストリーマーを合わせて100人を超えるメンバーを抱える「ZETA DIVISION」。人気が高いメンバーと彼らが抱えるファンコミュニティーを基盤に、企業向けパートナー施策の充実も図る。eスポーツチームとして企業とどうつながっていくのか、運営会社であるGANYMEDEの執行役員で事業開発部部長の千葉哲郎氏に話を聞いた。

GANYMEDE(ガニメデ、東京・港)執行役員事業開発部部長の千葉哲郎氏

GANYMEDE(ガニメデ、東京・港)執行役員事業開発部部長の千葉哲郎氏

▼関連記事
ZETA DIVISIONを成長させた eスポーツとストリーマーの好循環

コロナ禍で変化した企業との関係性

――2018年ごろにeスポーツチームの取材をしていると、チームの価値をどうやって企業に認めてもらうかで各チーム、苦労していました。ですが、新型コロナウイルス禍以降は、企業とeスポーツチームの関係性が変わり、コンスタントに大会に出続けていたり、しっかりした配信者を抱えていたりすると、企業側からアプローチがあるという話も聞きます。

千葉哲郎氏(以下、千葉氏) 確かに、「eスポーツとは何か」を根本から説明する機会は大きく減りました。2022年6月の『VALORANT』日本代表決定戦「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 – Playoff Finals」の際、さいたまスーパーアリーナに2日間で2万6000人の観客を動員して以降、その熱狂や価値を映像で見せられるようになったこともプラスに働いています。

 ストリーマーによるライブ配信は、コロナ禍で大きく伸びた分野の一つです。芸能人がゲーム実況を始めたり、プロゲーマーではないアーティストがオンラインのeスポーツ大会に出場したりしたことで、それまであまり興味がなかった人にもeスポーツやゲームのコミュニティーが持つ熱量が可視化された面もあると思います。

――その後、コロナ禍がある程度落ち着くと、オンラインに閉じ込められていた熱がリアルイベントの盛り上がりに一部転化した印象も受けました。

千葉氏 リアルで人が集まれるようになったことが、さらなる爆発力を生んだ感じはありますね。イベント会場に集まったファンを見ているとみんな楽しそうですし、ネットでしかつながっていなかった人とリアルで出会って初対面の挨拶が始まるような景色もよく見ました。

 リアルイベントは、選手やそのプレーを見て楽しむだけでなく、ネットでつながった人たちと出会い、コミュニケーションする場にもなるんですよね。ファン同士はもちろん、観客として来場しているストリーマーや選手たちをも巻き込んで、会場の至るところでオフ会や撮影会をしているような状況です。

――撮影会があちこちで起こるのは、非常に“今っぽい”です。

千葉氏 僕はこの業界に入る前は芸能プロダクションに在籍していたのですが、それと比較するとファンとの距離が近すぎてちょっとどきどきします。(笑)

 でもそれこそがゲームやeスポーツならではなんだと思います。ゲームコミュニティーではファン参加型のイベントも多いですし、今のところそれがとても良い方向に作用しています。若い世代とのコンタクトポイントを模索している企業にとって、こうしたイベントとファンの距離感も魅力ではないかと思います。

企業参入の障壁を下げる新施策

――2025年1月には、新たな企業向けの施策「ZETA DIVISION BUSINESS CLAN」も始めました。

千葉氏 eスポーツに興味を持ってくれる企業や、ゲームと関係がなくともZETA DIVISIONの名前を聞いたことがあるという企業が増えてきました。企業からの問い合わせには、「eスポーツに興味はあるし、共に何かをやりたいという気持ちもある」というものも増えています。

 ですが、パートナー企業として1年を通じて何らかの取り組みをするとなると、費用もかかりますし、(各企業が)社内で承認を得るのも大変。いい感触で話ができていても、着地点を見いだせないケースも多いんです。

 そこで、互いのリスクを下げ、新規参入企業にも入りやすいプランとして考えたのがZETA DIVISION BUSINESS CLANです。

2025年1月から企業向けの施策「ZETA DIVISION BUSINESS CLAN」を開始

2025年1月から企業向けの施策「ZETA DIVISION BUSINESS CLAN」を開始

 少し話はそれますが、僕はスポーツ観戦が趣味で、家族とよく行くんです。例えば、バスケットボールのBリーグの試合を見に行くと、大きなパネルにパートナー企業のロゴがずらりと並んでいる。地元の中小企業も賛助会員のような形で名を連ねているようです。

 ファンからしてみると、自分たちが好きなチームを応援してくれる企業がこれだけたくさんあると実感できて、とても価値が高いなと思います。

 同じように、せっかくZETA DIVISIONに興味を持ってくれたなら、できる範囲で一緒に取り組める仕組みをつくり、より多くの企業とチームを盛り上げていきたいと考えています。

――通常のパートナー契約とはどう違うのでしょう?

千葉氏 いろんな企業にeスポーツに触れてもらう、参入してもらうためにも、料金をかなり安く設定しています。

 また、企業内でeスポーツを広めるためのお手伝いや、クランに賛同してくれた企業同士のネットワークづくりを促すようなメニューを考えています。

――なるほど。eスポーツ自体を知ってもらうような取り組みを考えているんですね。

千葉氏 そこを評価してもらえたのか、eスポーツとは全く関係ない企業にも参加してもらえました。

eスポーツが持つ採用活動での訴求力

――料金をかなり安くしたとのことですが、具体的にはどれくらいなのでしょうか?

千葉氏 「S」「A」「B」と3クラスあり、Sクラスが月額20万円(限定4社)、Aクラスが月額10万円、Bクラスで月額5万円(いずれも税別)です。

 Bクラスでも、ZETA DIVISIONのWebサイトに企業ロゴを掲出できるので、ファンに向けた自社のブランド訴求は可能です。加えて、eスポーツ業界でビジネスチャンスを探したいという需要にも応えられるようにしていきたいと考えています。

 Sクラスになると、eスポーツに関する勉強会や社内eスポーツ大会のプロデュースといったことも含みます。そこに魅力を感じてくれる企業も多くて、手応えを感じています。

――対外向けのプロモーションだけでなく、企業内コミュニケーションにもeスポーツを利用しようということですね。

千葉氏 そうです。企業側の利点としては、人材採用活動での効果も重視しているんです。採用に課題を感じている企業が多い中、新卒世代に対して「ZETA DIVISIONを応援している」というアピールができることを目的にクランに興味を持ってくれる企業は結構多いです。

 採用に特化したアクティビティーはまだ明確な形にできていませんが、若い世代にどんな会社であるのかを知ってもらう効果はあると思います。Z世代への訴求にeスポーツを活用するケースは増えていますが、その中でも採用(に貢献するような活動)は今後一層ニーズが高まってきそうです。

――少子化が進み、人材確保が一層難しくなる中、若年層にアピールできるeスポーツを無視できなくなっているのかもしれません。

千葉氏 eスポーツへの参入をきっかけに応募が伸びたという話はよく聞くので、採用に作用するアクティビティーをつくり出せたら、業界全体にもいい影響を与えられると思います。

 僕たちも、eスポーツやZETA DIVISIONが好きという人が多い会社は応援したい。まずは企業としてeスポーツにポジティブな気持ちを育んでもらって、さらにはZETA DIVISIONを好きになってもらって、それで一緒に何か新しいカルチャーをつくっていけたら最高です。そうした仲間を少しでも多くつくるための施策がZETA DIVISION BUSINESS CLANなんです。

(写真/中村宏、写真提供/ZETA DIVISION)

NGM

続き:

企業参入の障壁を下げる新施策

ビジネス視点からのゲーム情報を発信
日経Gamingニューズレター(メルマガ)

 国内外を問わず、ゲーム市場の最新動向、企業の経営・マーケティング戦略、AI(人工知能)やネットワーク、システム運用といった技術の最前線、著名な経営者やクリエイター、プロゲーマーのインタビューなどの情報をお届けします。また、東京ゲームショウをはじめとする国内外のゲームイベントについてもリポートします。登録は無料!

 ぜひ、ご登録ください!

[画像のクリックで別ページへ]

Write A Comment

Exit mobile version