Zotacが、同社第二世代となるポータブルゲーミングPC「Zotac Zone 2」(仮称)の新たな情報を公開した。最大の注目点は、従来のWindows路線から大きく舵を切り、全く新しい「Manjaro Linux」ベースのOSを採用する点だろう。最新のAMD Ryzen AIプロセッサーと鮮やかな有機ELディスプレイを搭載し、Computex 2025(5月20日~23日、台北にて開催)でそのアップデートされたプロトタイプが披露される見込みだ。これは、ポータブルゲーミング市場におけるZotacの新たな挑戦であり、Linuxゲーミングの可能性を押し広げる一手となるかもしれない。
Windowsからの大胆な転換:Manjaro Linuxで切り拓くZotacの新たな道
Zotacの初代「Zotac Zone」は、AMD Ryzen 7 8840Uを搭載し、2024年9月に市場投入されたものの、ASUS ROG Allyのような競合機種からは約1年半遅れての登場となった。 この反省を踏まえてか、Zotacは次世代機でOS戦略を大きく転換するようだ。
同社がComputex 2025に関するプレスリリースで明らかにしたところによると、新型Zoneは「ポータブルPC向けに特別設計された、全く新しいManjaro LinuxベースのOS」で動作するという。 これは、多くのポータブルPCが採用するWindowsや、Valve社がSteam Deckで成功を収め、最近ではサードパーティ製デバイスへの提供も開始したSteamOSとは異なる、Zotac独自の道を歩むことを意味する。
なぜZotacはManjaro Linuxを選んだのだろうか? Manjaro LinuxはArch Linuxをベースとしており、SteamOSと同様の出自を持つ。 そのため、ValveのProton互換レイヤーを通じて多くのWindowsゲームが動作する可能性は高い。また、Windows OSが小型スクリーンでの操作性に課題を抱えていること、そしてSteamOSが現状ではSteamプラットフォームに最適化されているのに対し、Zotacはよりオープンで、複数のゲームランチャーへのアクセスが容易な環境を目指して、Manjaro Linuxを選択したのかもしれない。 興味深いことに、ManjaroのWebサイトでは、同じくManjaro Linuxを搭載予定のポータブルPC「Orange Pi Neo」が紹介されているが、こちらは1年以上「近日発売」のままとなっている。 Zotacとの協業が、このポータブル向けManjaro OSの開発を加速させる起爆剤となるか注目される。
Ryzen AI 最新APUと有機ELディスプレイが織りなす次世代のゲーミング体験
OSの刷新に加え、Zotac Zone 2はハードウェアスペックも大幅な進化を遂げる見込みだ。
Zotac Zone 2の予想される主なスペック:
APU: AMD Ryzen AI 9 HX 370
Zen 5アーキテクチャに基づく12 CPUコア
16 RDNA 3.5 GPUコンピュートユニット
高性能NPU (ニューラル・プロセッシング・ユニット)
ディスプレイ: 7インチ 有機ELディスプレイ, 120Hzリフレッシュレート
メモリ: LPDDR5X
ストレージ: M.2 2280スロット (PCIe 4.0 NVMe SSD対応)
無線通信: WiFi 6E & Bluetooth 5.2
ポート類: USB4ポート x2, ヘッドフォンジャック, microSDカードリーダー
バッテリー: 48.5 Wh
入力系統: デュアルアナログスティック, デュアルトラックパッド, D-Pad, アクションボタン, ショルダー トリガー
特筆すべきは、APUにAMDの最新世代「Ryzen AI 9 HX 370」(開発コードネーム:Strix Point)を採用する点だろう。これは、初代ZoneのRyzen 7 8840U(Hawk Point)からCPUコア数(8コア→12コア)、GPUコンピュートユニット数(12 CU→16 CU)ともに増加し、アーキテクチャもZen 4/RDNA 3からZen 5/RDNA 3.5へと進化。大幅なパフォーマンス向上が期待される。 NPUの強化も、今後のAIを活用したゲームやアプリケーションにおいてアドバンテージとなる可能性がある。
また、7インチの有機ELディスプレイは、より鮮やかでコントラストの高い映像表現を実現し、120Hzの高リフレッシュレートは滑らかなゲームプレイを提供するだろう。 デュアルトラックパッドの搭載も、Steam Deckユーザーには馴染み深く、戦略ゲームやFPSなど、マウス操作をエミュレートしたい場合に有効だ。
ポータブルPC戦国時代、Zotac Zone 2の勝算とLinuxゲーミングの未来
現在、ポータブルゲーミングPC市場は群雄割拠の様相を呈している。Steam Deckの成功以降、ASUS ROG Ally、Lenovo Legion GoなどがWindowsベースで追従し、MSIも Claw で参入。Valve自身もSteamOSの外部提供を開始し、Lenovo Legion Go SなどがSteamOSプリインストールで登場する可能性も報じられている。 さらにMicrosoftも、ASUSと共同でXboxブランドを冠したROG Allyを開発し、Xboxライクな新しいWindowsインターフェースを投入するのではないかとの観測もある。
このような状況下で、ZotacがManjaro Linuxという独自の選択をしたことは、非常に興味深い。Windowsのライセンスコストを抑えられる可能性や、OSレベルでのカスタマイズによるゲームパフォーマンス最適化といったメリットが考えられる。しかし、SteamOSほど確立されたエコシステムや膨大なユーザーフィードバックを持たないManjaro Linuxで、どこまで快適なゲーミング体験を提供できるかは未知数だ。Protonの互換性は日々向上しているとはいえ、全てのWindowsゲームが完璧に動作するわけではない。ZotacとManjaroがいかにしてユーザーフレンドリーなインターフェース、安定した動作、そして幅広いゲーム互換性を実現するかが、成功の鍵を握るだろう。
初代機の市場投入タイミングでやや出遅れた感のあるZotacだが、今回のZone 2では、最新鋭のAPUとOLEDディスプレイという強力なハードウェアに加え、Manjaro Linuxというユニークなソフトウェア戦略を打ち出してきた。これが吉と出るか凶と出るか。 Computex 2025での詳細発表、そしてその後の市場の反応が楽しみだ。
Sources
WACOCA: People, Life, Style.