あの『The Elder Scrolls V: Skyrim』を初めて遊んだときのような感覚は、もう二度と味わえないのだろうと、諦めていたこともあった。だが『Kingdom Come: Deliverance II』は勇猛な騎馬のように現れ、背中に乗った私は本作の虜となった。すばらしい出来の近接戦闘では、プレイヤースキルも重要となる。圧巻で壮大な中世の物語は、まるでハリウッドの大作映画のようだ。本作は続編であると同時に、前作から存在していた構想を完全な形で実現できた作品でもあり、例えればCD PROJEKT REDにとっての『ウィッチャー3 ワイルドハント』、Spidersにとっての『Greedfall』だろう。このような非常鬼大きな規模の作品では仕方がないが、技術的な短所もないわけでない。またリニアな物語をオープンワールド上で展開しているために、主人公であるヘンリーの心中と同じくらいにゲームシステム内で衝突が生じてしまうこともある。それでも、『Kingdom Come: Deliverance II』が偉大な作品であることは明確だ。

この悲劇の物語は、2018年発売の前作『キングダムカム・デリバランス』の終わりからほぼ直接つながるものとなる。だが話の大筋はわかりやすいものであり、前作で起こった出来事に注目があたる際にははっきりと説明されるため、必ずしも前作を遊ばなければいけないわけではない。鍛冶屋の息子でしかなかったヘンリーは、紆余曲折の末に戦士となった。貴族たちの政治闘争や戦争に彼は巻き込まれることとなり、そこではさまざまな人物が登場して複雑に絡み合っていく。あのうるさい落ちこぼれの領主の息子はまた登場するし、ネタバレは避けるが史実の人間たちもインパクトが実に強い形で登場してくる。

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広大なボヘミアの野原の中でいちばん輝いている場所は、やはりクッテンバーグの街だろう。控えめに言おうとしても、この街は現代のRPG作品のロケーションの中で一二を争うほどにすばらしい。他作品でも中世の街並みを歩くことはできるが、ここまで精密な描写で、規模も巨大で、本当に人々が生活しているかのように感じられる中世の都市はないだろう。

クッテンバーグの街並みは、現代でも現存している現実の都市をもとにしている。ここの一部は、現実の街の街路パターンとほぼ同じになっているくらいだ。ただ散策するだけでもこの街は最高だし、街ならではの冒険やクエストも多く用意されている。たとえば2つの剣術学校のいがみ合いを解決したり、不気味な連続殺人鬼を捕まえるものなど。ただ、同じ声優によって複数のNPCの声が当てられているのが一目瞭然なこともあり、同じ顔を共有しているNPCたちも多い。重要なNPCでもそれは同じであるため、気になってしまうポイントだ。それでも、この街の虜にならないようにするのは至難の業だ。私は本作を120時間ほどプレイしたが、この街にたどり着いたときにはすでに40時間ほど経過していた。その後はゲーム内の時間で何日も街で過ごし、現在の所持金で買える最高のアーマーや衣服などを買うのに夢中になっていた。もし地方の中でいちばん栄えている首都に来たのなら、買い物をしないわけにはいかないだろう!

クエストの多様さには本当に驚かされたし、これはクッテンバーグ以外の場所でも同様だ。ただ賊を殺すだけ、あるいは近くの町へと品物を配達するだけのような、単純なクエストはほとんどない。たとえ単純な内容に最初は見えても、予想もできない展開、大きく葛藤を覚える瞬間、あるいは重要な決断の機会が後に待っている。クエストの総数は100ほど存在し、私はそのほとんどを完了した。あらゆるクエストが記憶に残るようなものであり、より規模の小さいRPG作品であれば特に盛り上がるシーンとして掲げてもよいほどの出来だ。

一方、構想自体はよかったが実装がイマイチなクエストもないわけではない。偶然発見したクエストでは地下奥深くへ向かうことになり、中世の冒険がまるでホラー映画へと一変してしまうのだが、すにクリアできてしまうものであったため恐怖感を味わうには尺が短すぎた。一部に不満はあったとしても、本作でサイドクエストをこなすのが面倒に感じることは一切なかった。ひとつひとつのクエストの物語がおもしろく、独自の目標が設定されてあるため、「ヘンリーの壮大な冒険」というテレビドラマがあったとすれば、1つのクエストで1エピソードを構成できるだろう。『Kingdom Come: Deliverance II』では冒険に120時間を費やしたが、終わるまでに長すぎると感じたことは一度もない。つねに強い印象を残してくれる本作のクエストの存在があれば、それも当然だろう。

2つの広大なオープンワールドマップには、息を呑むほど美しい風景が山ほど用意されている。この中世後期のボヘミアは、徹底的な取材や調査から作り出されたものだ。さまざまなタイプの地形があるわけではなく、木々が生い茂る丘や草原がほとんどであるが、ボヘミア地方は現実でもこのような風景なのだ。非常に広いために迷うこともあるだろうし、村々と自然の境界線がはっきり分かれていることにより風景にもバリエーションが生まれる。なお、実際に中へ入ることができる教会がほぼ存在しないのは気になった。もし自分が15世紀のヨーロッパに観光する計画を立てるなら、絶対行きたい場所リストのトップになるであろう場所なのに。

もしサイドクエストがドラマの1エピソードだとすれば、メインクエストはセリフ・感情表現・作品規模など、あらゆる面で妥協しない出来の戦争映画だ。キャラクターを励ましたくなる場面もあれば、実際に泣いてしまう場面もあった。だいたいのビデオゲームの悪役とは異なり、ヘンリーの最大の敵は本当に憎たらしいキャラクターだ。最終決戦はこれまでの遊んだゲームのなかでも本当に心に残るものであり、ここにたどり着くまでの自分の冒険が本当に正しいものだったかとよく考えることもした。本作は大人向けの作品であるが、悪趣味な形にはなっておらず、どの部分をみても時代考証がはっきりとしている。そして物語の中では、人が英雄となる、そして悪人となる条件とは何かと、プレイヤーへと突き付けられることもある。

『Kingdom Come: Deliverance II』の物語はほとんどリニアな形式であるが、本作はオープンワールド形式のゲームでもある。この2つは必ずしも相性が良い要素ではないため、そこは残念な点だ。ネタバレはできるだけ避けて説明するが、特に悪かった例を挙げよう。それは、ハンガリー軍の野営地である。

ゲームの後半では、軍隊の野営地が出てくる。邪悪な征服者ジギスムント国王によって設置されたもので、前作の最序盤からプレイヤーが敵対している相手だ。私はもちろん、こいつらの野営地を発見した途端に襲撃したのだが、すぐに惨敗する結果に。だがそれから40時間ほどのプレイの中、私はこいつらに復讐を遂げるために全力を費やした。最強の戦士になるという動機が、ここでの敗北から生まれたのだ。すべての最強の剣士から剣術を教わり、弓の使い方も学び、最高の鎧を買うために貯金もした。ボヘミア一の切れ味を誇る剣も自ら鍛造した。次に私がハンガリー軍の野営地に向かったとき、結果は異なるものになった。

ハンガリー軍の野営地に再び訪れた私は、ランボーのように暴れてあらゆる兵士を殺害した。料理人や服屋は見逃したし、ムサも殺さなかった。ムサはクールな奴だからだ。ともかく、私は30から40人の武装した兵士を殺害できた。これは本当にうれしく、爽快感を得られた瞬間であり、ここまでプレイヤースキルを試された激しい戦闘は初めてだった。私の冒険の中でも最大に盛り上がった場面に違いない。そして念のため言っておくが、私が殺したのはあくまで敵兵士だ。ゲーム側でも想定されている行為だろうし、卑劣で邪悪な犯罪でもないはずだろう。

その後、私は同じ野営地へとスパイとして潜入する任務を託されたのだが、そこであの興奮は冷めてしまうことになった。ヘンリーは以前にここの兵士どもを一掃したと話すようなことは一切なく、即処刑レベルの賞金首であるから見つかれば罰金や収監どころでは済まないと漏らすこともなかった。これは絶対行う必要のあるメインストーリーのクエストであり、ほかの手段を選ぶことはできないため、これまでの主人公との行動と辻褄が合わず滑稽すぎる。クエスト目標のNPC(絶対に殺すことはできない)にコソコソ近づいては会話を何度も行ってカットシーンを再生し、次にはそのNPCが私を発見して衛兵を呼び始める。

また、私のほぼ完全無欠の評判も、例の行動によって台無しになった。この国を侵攻している敵兵士たちを殺害したのは、たとえジギスムントの軍隊に抑圧されている平民たちでも許せない犯罪行為だったようだ。あらゆる街のあらゆる人間たちも、私を敵視し始めた。100時間以上の冒険ではつねに没入感を得ることができたが、ここだけは大きな例外であった。

残念な出来事こそあったが、ヘンリーとその仲間たちと過ごすのはいつも楽しい体験だった。戦略的に立ち回る必要があり、プレイヤースキルも大切な剣での戦闘は、前作の時点で完成度の高かったシステムがさらに改善されたものだ。高レベルの戦いでは、能力値とプレイヤースキルのバランスが崩れ、前者の方が大事になりすぎるきらいはあったが。前作とは異なり、プレイヤーが剣の扱いにそこまで慣れることができなくとも、エンディングまでは到達することができるだろう。それでも、戦闘ははっきりしたものとなり、バラエティは増えて、よりなめらかに進められるようになった。弓を使った戦いも、前作と比べるととても改善されている。

本作には鍛冶のミニゲームがあるが、これはあまり楽しいものとは言えず動きもぎこちない。とはいえ、自分が鍛えた剣を戦闘で使うことができるのはとてもうれしい。錬金術に関しても、より直感的に行えるようになった。

本作の新たなパークシステムでは、レベルが上がるごとにはっきりと効果をもたらす強化を選択できる。前作のシステムでは、多くのパークは純粋な強化とは言えないものが多かった。たとえば野外で寝れば睡眠の質が上がるが、ベッドで寝てしまうと質が下がるものなど。続編でも同名のパークはあるが、メリットのみが残りデメリットは消滅した。苦労して得たスキルポイントを使いパークを得るのであり、ゲームの最初で選択する特徴とは違うのだ。前作の僧侶クエストほどにゲームが一変するようなクエストはないものの、学問スキルを上げることでクエストの解決方法が増え、ヘンリーは敵を剣だけではなく言葉でも倒せるようになるのはおもしろい。

私は4070 Tiを搭載したPCで本作を遊んでいたが、グラフィックを最高設定にして、4K解像度にした状態でも、ゲームはなめらかに動いていた。前作『キングダムカム・デリバランス』は発売から7年経つが、同じPCでも最高設定では動かせない。つまり、本作のPC向けの最適化はとても優れたものである。バグに関しては割とあるが無害なものがほとんどであり、ほかの大規模なRPGと同じように見かけたらスクリーンショットを友達に送って笑い飛ばせるようなものだ。ゲームを実際に阻害するようなバグはごく一部だった。

プレイヤーの行動にしっかり応えてくれる一人称視点のRPG。近年のベゼズダはより広い購買層にアピールするため、この系統の作品を作らなくなってしまった。『Kingdom Come: Deliverance II』はさまざまな面で、ベゼズダが落としたバトンを引き継いだ作品と言える。「The Elder Scrolls」が絶好調だったときでも戦闘面はイマイチだったが、本作ではすばらしい近接戦闘もついてくる。人物像がはっきりとした主人公が展開の決まった冒険をするゲームにしたいのか、それとも数々のバラエティ豊かなサイドクエストを楽しめる非常に動的なオープンワールドゲームにしたいのか、不明瞭になっている部分はあるし、それによって没入感を破壊してしまう展開になることもある。だがほとんどの場面では要素同士が衝突することは少なく、プレイヤーはさまざまなサブクエストなどをこなしていける。そうしてプレイヤーが最後にたどり着くのは、実に考えさせられ、本当に興奮する物語のフィナーレだ。この世界で迷い歩くのは実に楽しい物であり、本作で語られる特別な物語は忘れがたいものとなるだろう。

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