詩人 谷川俊太郎×小川彩佳 「生きる」が注目される理由

「生きる」「二十億光年の孤独」など、教科書に取り上げられた詩や「スイミー」「スヌーピー」の翻訳でも知られる詩人・谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)さん。89歳になった今も精力的に詩作に励む谷川さんに小川キャスターが生きる意味や平和について、話を聞きました。

詩人・谷川俊太郎さんの自宅。リビング兼書斎には、スヌーピーが乗る飛行機が飾られています。

小川彩佳キャスター:
スヌーピーはご自身にとっては切り離せない存在?

谷川俊太郎さん:
もう家族みたいなもんですけどね。

十代の頃から詩を紡ぎ、12月に90歳を迎える谷川俊太郎さん。これまでに詩集140冊、絵本や童話など160冊以上を世に送り出してきました。多くの詩は、どのように生まれるのでしょうか。

谷川さん:
僕は“湧いてくる”って思う方なんですけど、地面の下から足を通って来るみたいな。でもそれは単なるイメージですけどね。

小川キャスター:
私の中では谷川さんの詩を読んでいる時というのは音楽を聞いている時の感覚に近い。

谷川さん:
そういうふうに取ってもらえてすごく嬉しいですね。僕は音楽が理想なんですよ。でも言葉はどうしても意義があるから音楽になれないでしょ。だから意味のある言葉使って意味のない音楽のような美しさを作りたいっていうのは今のところの理想で、それは無理な理想なんですけどね。

一方で、詩は「商品」だと考えている面もあるといいます。

谷川さん:
いっぺん、僕はもう詩やめようと思ったこともあるんですけどね。でもほら、原稿料もらわないと食えないわけだから、いやでも書き続けるわけですよ。その原動力は大きいですね。

小川キャスター:
冷静にビジネスとして捉えていらっしゃる?

谷川さん:まったくそうですよね。ビジネスたる一面がありますね。大学にも行かないで、要するに生活する道がなかったわけだから、とにかく書くしかなかったわけですよ。だからそういうところで自分ははじめから何か資本主義社会の中で、一種商品として詩を送り出してるんだという側面があるということは、はじめから自覚してましたね。

2021年に入ってから、11冊の著書が、再版や新たに出版され、創作意欲は益々旺盛です。最新作では、SNSなどで言葉があふれる今の世の中に対し“あること”を意識し、詩を書いたといいます。

谷川さん:
今の世の中、すごく言葉が氾濫するようになっちゃって。しかもフェイクニュースとかね、そういうものが何か認められていれば、それも現実だ、みたいになってますよね。だからできるだけ少ない言葉で詩を書いてみたいっていうのが「虚空へ」の基本だったんですけどね。

最新の詩集「虚空へ」。“できるだけ少ない言葉”で紡がれた詩とは・・・

問いが
そのまま
未来の
答え

言葉が
出来ないことを
音楽は
する

魂が
渇く
この数小節

調べとともに
輪廻する

(新潮社「虚空へ」 問いがそのまま より)

谷川さん:
日本人ははじめから割とそういう点では、俳句の国民なんだから、少ない言葉で何か言うってことは大事だと思ってたと思うんですけどね。ずいぶん前から僕は“言葉のインフレ”ってことを考えてたんだけど、今はまさに本当にインフレがだんだんひどくなっていって、量ばっかりあってね、質がどんどん薄くなってるっていう感じがしますね。

半世紀前の作品「生きる」は、東日本大震災を機に、再び注目されました。

小川キャスター(朗読):
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木漏れ日がまぶしいということ
ふっと或るメロディを
思い出すということ

(福音館書店「生きる」より)

「生きる」が注目されたのは、「何も主張していない」ことだと分析します。

谷川さん:
「生きる」っていうのは何か人に訴える力があったとみえて、教科書なんかにも載ってたし、すごく抽象的で何も主張してないんですよね。1か所ぐらいしか。ただ生きているっていうことを言っているだけで、その例としてね、なんかいろいろちょっと具体的なことが並んでいて、“かくされた悪を注意深くこばむこと”っていうところだけ何か自分の意見が入ってるっていうような感じがするのね。人に何もこう教えようとしないし強制しようとしなくて、ただ言葉がそこに中立的にある、その言葉の選び方でみんな読んでくれたのかなという気がするんですけどね。

谷川さんは、平和と戦争についての詩も詠み続けています。

小川キャスター(朗読):
へいわのボク
せんそうのボク
へいわのワタシ
せんそうのワタシ

左右のページで全く異なる情景が描かれた絵本の中に、同じ画に見える場面が出てきます。

小川キャスター(朗読):
みかたのあかちゃん
てきのあかちゃん

(ブロンズ新社「へいわとせんそう」より)

生まれたときは、皆同じ。なのに戦争は起こる。平和とは何か。谷川さんは、今も問い続けています。

谷川さん:
とにかく戦争がなくならないんですよね。僕はいつかはなくなるんじゃないかなと思ってたんだけど。大きな国と国との間の戦争はなくなりつつあるわけですけども、テロっていう新しい戦争がでてきたわけでしょ。ただ平和だけが素晴らしいのかっていうと僕ちょっとそう思えなくてね。

小川キャスター:
どういうことですか?

谷川さん:
だって、みんな平和の世界で、気候変動もあるし、格差も生まれるし。

小川キャスター:
確かに平和であるからこそ、人は欲望を追求したりですとか。

谷川さん:
そうですよね。平和は素晴らしくて戦争は悪だみたいな。2つに分けちゃってどっちかを取るわけでしょ。でもそういう二分法っていうのは人間の頭脳の欠点だと僕は思ってるのね。なんか善か悪か、美か醜かみたいなね、2つに分けちゃう。若い人たちが本当に自覚して、例えば政治を変えていくみたいなふうに動けばいいんだけど、日本はあんまり動かないんですよね。政治の形とか気候変動なんてまた別の問題なんだけど、だから戦争っていうのも、僕は人間の発生のときから持ってる自然の何かがあるんじゃないかというふうに思うようになりましたね。

自然は
語らない
歌わない
生きるだけ

ヒトは
混沌にいて
秩序を
求め

言葉を孕み
意味に
惑う

草木と
空に
背いて

(新潮社「虚空へ」自然は語らない より)(16日00:05)

42 Comments

  1. 正直な方。以前絵を売って生きていた頃、私もそう考えていた。イラストレーターでしたから、特にですが。

  2. 詩は忙しく日常生活をしていたら忘れてしまうようなシンプルな問いを考えるきっかけを与えてくれます。💭📖
    割と詩人が必要とされる世の中なのかも。

  3. 89歳にして、これほど豊かな表現で意思を表出できる。すごい事だなと思います。詩作を通して、思考と表現に一生かけて向き合ってこられたからかなと感じました。どうかお体を大切に、これからも私たちに素敵な詩を届けていただけたらと思います。

  4. 谷川先生を知ったのは教科書。
    幼心に印象に残り本を買いました。今でも時々読みます。もう90歳!先生お元気で!小川さんも頑張って下さい😊

  5. 問1、『隠された悪』とは何を指すか
    20字以内で答えよ。

    正答例、安倍自民党

  6. 動画に関係ないけど、息子さんの親の七光りの自虐ネタが面白いです。

  7. 昨日、ずっと待っていたのに、ちょっと眠くなってウトウトしたら終わってしまっていて(泣)
    Youtubeに上げて見せてくださってありがとうございます。

  8. 苦しみは、生きる、平和は死なんだな、今よりあっとうてき恵まれずありかたにも差別があったのにあっとうてき柔軟性があるんだな、人間は本当にすべて理屈とはんたいになりますね、きっと平和って嫌な事があるから人がほしいものなんでしょうね。

  9. 誰かが薬師寺の五重塔は、凍れる音楽だ、と言ったが、詩は言葉の音楽ですよね。作曲家のマーラーが李白等の漢詩から着想を得て、♫にしましたよね。不易流行の芭蕉も李白や杜甫の漢詩に影響されていましたよね。生きる?若い時は生きる意味を問うたが、歳を取っても、永遠に謎だな。学生時代は世界の詩集を読み、自分でも書いたが、その後はグローバリズムの中の企業戦士になったので、最近やっとフランス詩集を読み始めた。風立ちぬいいざ生きめやも。風が起きた生きる意志を持たなければ。ヴェレリーの海辺の墓場より。詩想をもって行きたいものですよね。手に振るる野花はそれを摘み犯と自らを支え歩みを運べ。(長崎諫早出身の伊藤静雄詩集より)。

  10. 谷川氏の口から漏れる「戦争」とは何か?
    たぶん「武力による戦争」だと思われるが、「武力による戦争」は「戦争」のごくごく一部に過ぎない。「目に見えない戦争」がいつの世にもある。情報戦争なんて紀元前からあるはずだ。それなら「武力による戦争」や「武力によらない戦争」がどうしたら無くなるのか。人間が絶滅しない限り絶対に無理。
    また、絵本の中に「食卓に食べ物が無い」絵が登場するが、日本に食糧を輸出している国々が日本への輸出を止めたらどうなるか。自動的に多くの日本人は餓死に追い込まれる。このことを彼は頭に入れているのだろうか?
    それから、谷川氏は「格差」という言葉をよく取り上げられるが「格差」の何が問題なんですか?人には歴然とした能力の差がある。その人がどれだけ勤勉か、どれだけ誠実か、どれだけ外見が美しいか、どれだけ運動(スポーツ)ができるか、、、これらの事柄はピンからキリである。子供の頃からコツコツ努力して仕事に就いて、それで給料が安いなんて、そんなのないよね。

  11. 非常に滑舌も良いし、聞き取りやすい。
    とても90近くには見えません。2Fより聞き取りやすい。

  12. 地面から足を伝って言葉が出て来る・湧き出すと言うのを聞いて、
    ウォルト・ホイットマンを思い出した♪

  13. 入学した高校の校歌が、谷川先生の作詞でした。
    校歌を歌うたびに、考えさせられたり感動した事を今でも覚えています。

  14. 谷川先生へ、数々の素晴しい詩をありがとうございます。そして、今後も長生きして下さい。私も頑張りたいと思っておりますので、宜しく御願いします。

  15. 現代日本の国語や音楽を支えている大先生!国民に栄誉な方で本当にお世話になっております🙇‍♂️長生きして下さい🙇‍♂️

  16. 谷川俊太郎さんの詩等を色々鑑賞しましたがいいと思えるものに巡り合えなかった。

  17. 言葉が美しいし、感性が研ぎ澄まされている。今の時代、活字離れが騒がれる中で谷川さんの詩集は人々の心に新しい気づきを与えてる気もする。

  18. 小川彩佳さんのきっかけで❣️ニュース番組をみる習慣になり今では❗️news 23を見てから〜就寝するのが日課です🙇‍♀️🙇‍♀️

  19. 不可思議の「生きる」から原詩がある事を知りました。
    とても大好きな曲です!!

  20. かなりお年を召されましたね。でもとても元気そうで良かったです♪この方の言葉は本当に心に響く。これからももっともっと少しずつ谷川さんの詩集などを集めていこうかと思ってます。自分の中でいつまでも長生きしていただきたい人ナンバーワンですね。

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