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最近は大半の映画を配信で見ることができる。新作が劇場公開からほんの数カ月で配信されることも珍しくなくなってきて、それほど強く見たいと思わない映画は、少し待てば配信されるだろうから、そのときまで待とうかと思ってしまうこともある。
そんななか、あえて配信やパッケージ化をせず、劇場でしか観ることができない作品も存在する。4月24~30日にアップリンク吉祥寺で上映されたアニメ映画「完全版 ザ・レンチキュラーズ a/b」もそうした1本で、再上映の予定がない現在、見たいと思っても見ることができない作品でもある。
「完全版 ザ・レンチキュラーズ a/b」は、TRIGGER制作のテレビアニメ「SSSS.GRIDMAN」などで知られる雨宮哲氏が監督・シリーズ構成・キャラクターデザイン・絵コンテ・演出・作画・色彩を一手に手がけるオリジナル作品。TRIGGERのYouTubeチャンネル「TRIGGER CHANNEL」で配信中のショートアニメシリーズ「ザ・レンチキュラーズ」に、未公開のエピソード「/b」(全8話)を追加して完全版と銘打っている。「a/」全8話で構成された「ザ・レンチキュラーズ」に、裏面にあたる「/b」を追加することで物語の全貌が分かるという仕掛けだ。「a/」「/b」はレコードのA面、B面になぞらえられていて、主題曲でメジャーな曲が多いA面、アーティストが自由に制作できる傾向にあって知る人ぞ知る名曲が隠されていることもあるB面という楽曲の性質が、ストーリーにも呼応している。
「ザ・レンチキュラーズ」自体は、高校を舞台にした甘酸っぱい恋愛模様が描かれる青春ラブコメディで、配信中から楽しく見ていた。物語は「a/」全8話できれいに終わっていたが、なぜかそのあとには黒い画面に環境音だけ流れる映像が延々と続き、最後には謎の少女が現れる。明らかに「何かある」と思わせる余韻を残す終わり方をしていたため、完全版で初披露される「/b」では何をやるのだろうと楽しみにしていたら始まって早々に「そうきたか」と驚かされた。これから見る人の興をそがないよう内容を具体的に書くのは控えるが、筆者は『ザ・レンキュラーズ』が完全版でやった仕掛けは、個人的に大好きなゲーム「街(まち)」のザッピングに近いと感じられた。
ゲーム「街」との共通点
チュンソフトのサウンドノベル「街 ~運命の交差点~」(1998年発売)は、実写による静止画や動画を駆使して、複数のキャラクターの人生を描いた群像劇のアドベンチャーゲーム。同じ時間軸上で、例えば午前9時から10時の間にAがあることをしている裏で、Bがあることで困っているシチュエーションが描かれ、テレビのリモコンでチャンネルを変えるように、特定のワードからBからAのストーリーにザッピングすることができる。そこでBが困っていることをAが解決することでBのストーリーが先に進められる。そのようにして各キャラクターのストーリーが連動し、プレイヤーは神の視点でそれぞれのキャラクターの進む道に介入しながら物語を楽しむことができる。
「ザ・レンチキュラーズ」の完全版で披露された「/b」は、実は「a/」にもほんの少し出ているあるキャラクターに焦点があてられ、「a/」の裏で進行していたもうひとつの物語が描かれていた。王道かつ上質なラブコメストーリーだった「a/」とは対照的に、ちょっとマニアックで見る人を選ぶテイストの物語にもなっている。
完全版の初日上映には雨宮監督による舞台挨拶があり、作品の成り立ちやメイキングについての詳細なトークがあった。そのトークによると、雨宮監督がもともとやりたかったキャラクターや物語は「/b」で、紆余曲折あって「a/」のメインキャラクターが生まれ、そこから「a/」と「/b」をザッピングさせる物語構成のアイデアも生まれたようだ。
舞台挨拶のトークで雨宮監督は、学生時代に手がけた自主制作アニメでも上映イベントを行うのがいちばん楽しかったと振り返り、いち観客としても時間を作って上映に足を運んで皆で時間を共有するのが自主制作作品の醍醐味でもあると話していた。筆者は「/b」もどこかのタイミングでYouTubeで配信するのだろうと思っていたが、トークでの話しぶりから想像するに「/b」は劇場上映オンリーで展開する予定のようだ(※編注)。
YouTubeで無料で見られる「ザ・レンチキュラーズ」(「a/」全8話)だけ見ても、良質なラブコメディとして十二分に楽しめるので興味がある方はぜひ見てほしい。そして、完全版が再上映される機会があったら足を運んで、「/b」で展開される物語に触れてもらえればと思う。
主体的に作品を選べているか
「完全版 ザ・レンチキュラーズ a/b」と同じように、劇場でしか見ることができない国内アニメ映画は他にもある。近年のものでパッと思いつくものを挙げると、三鷹の森ジブリ美術館で上映される短編(宮﨑駿監督の「毛虫のボロ」など)のほか、「ファイブスター物語」で知られる永野護氏が原作・監督を手がけた「花の詩女 ゴティックメード」(2012)、神風動画が自主製作した中編「COCOLORS(コカラス)」(17/横嶋俊久監督)、アニメ「鬼滅の刃」シリーズのufotableが自主製作した短編「桜の温度」(11/平尾隆之監督)などがある。ちなみに、ufotable制作の「桜の温度」は、同社が徳島で運営する映画館・ufotableCINEMAで開館以来、今にいたるまで毎日上映されていて、見たい方は徳島まで行けば明日にでも見ることができる。
配信やサブスクが主流になり、自宅で手軽に映像作品を見ることができるようになったのは便利だし、その恩恵は計りしえない。けれど、「いつでも見られる=いつまでも見ない」ことにもなりがちで、サブスクの場合、見たい作品が都度課金だった場合、見きれないほどの作品がある見放題作品のほうを優先して見てしまうことが筆者にはよくある。選択肢が広がったようにみえて、加入したサブスクで見られる作品のなかでしか選んでいないのは、主体的に作品を選んでいるとは言えなくて、TSUTAYAなどのレンタルビデオショップで1本1本、自分の目で選んでいた頃のほうが、豊かに作品を選べていたのではないかと思ってしまうこともある。
国内アニメも、高品質な作品が、蛇口を開けば水がでてくるようにテレビや配信で大量に見ることができる。そんななか、あえて劇場でしか見られない作品を世に送り出すのはビジネス的な面から見ればデメリットのほうが多いのかもしれない。それでも、あえて劇場でしか見られない作品を送り出すインディーズ精神が好ましく思うし、そうした作品があることがアニメシーン全体の豊潤さにも繋がるようにも感じられる。見る側としても「劇場に足を運ぶ」とセットになった鑑賞体験は心に残るし、パッケージや配信で見返すことができない一期一会の作品だからこそ感じられる喜びがあるのではないかと思う。(「大阪保険医雑誌」26年6月号掲載/一部改稿)
編注:「/b」の第1話「私が、やってしまう」は、8月22日から「TRIGGER CHANNEL」メンバーシップ向けの限定動画として配信されている(youtu.be/PYCwKLllxEw)。
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[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

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