ついに映画「岸辺露伴は動かない」シリーズの第2作『懺悔室』が公開されました。短編である原作を、どのように膨らませたのでしょうか。

再現度高すぎな「ポップコーン」の場面も見どころ
映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』岸辺露伴のキャラクタービジュアル (C)2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』岸辺露伴のキャラクタービジュアル (C)2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 荒木飛呂彦先生による大人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ「岸辺露伴は動かない」シリーズの記念すべき第1作目を実写化した映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が、2025年5月23日(金)から公開中です。2020年からのドラマシリーズ、2023年の映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』に引き続き、「スタンド」使いの漫画家「岸辺露伴」を高橋一生さん、彼の担当編集者「泉京香」を飯豊まりえさんが演じています。

 ルーヴル美術館でロケを行った映画前作に続き、今回は邦画史上初の全編ヴェネツィアでのロケが実現した点も注目を集めていました。そして、あくまでも短編である原作「懺悔室」に、大幅に話が足されている点もポイントです。

※ここから先は映画のネタバレに軽く触れています。

 原作の48ページの短編は、「週刊少年ジャンプ」1997年30号(集英社)に掲載されたもので、荒木先生は編集部から『ジョジョ』のキャラは使わない縛りを受けていたものの、どうしても話の聞き手として露伴を出さざるを得なくなり、そこから露伴本人はあまり物語に深く介入せず(動かず)怪異に巻き込まれる、このスピンオフシリーズが始まりました。ちなみに、荒木先生は「懺悔室」の舞台をヴェネツィアにした理由を、はっきり覚えていないそうです(劇場パンフレット参照)。

 映画は取材でヴェネツィアにやってきた露伴が教会で神父と間違えられて、ある男の恐ろしい過去に関する懺悔を聞く、という点は同じです。その男が、かつて食事を求めてやってきた浮浪者(映画では「ソトバ」という名前 演:戸次重幸)に厳しい態度をとったことで結果的に殺してしまい、その浮浪者に「幸せの絶頂になったとき、絶望を味わう」という呪いをかけられ、その後数々の「幸福が襲ってくる」のも原作通りでした。

 序盤では、愛娘の存在によって幸せの絶頂を感じてしまった男(映画では「水尾」という名前 演:大東駿介)が、ついに現れた浮浪者の霊に「3回連続でポップコーンを広場のランプより高く投げて、口でキャッチすれば助かる」という試練を課される、原作最大の見せ場も再現されています。娘の舌に浮かび上がる浮浪者の顔のおぞましさや、原作のコマ割りや画角を意識した緊迫感あふれる演出、大東さんの名演など見どころたっぷりです。

 しかし、今回の映画版のストーリーはむしろここからで、金で雇って整形で自分と顔を交換した召し使い「田宮(演:井浦新)」として生き延びた男と、ヴェネツィアの仮面職人の女性「マリア(演:玉城ティナ)」に関する物語が始まります。また、スタンド能力「ヘブンズ・ドアー」で田宮の記憶を読んだ露伴が、「幸せになる呪い」に巻き込まれてしまうのも、物語のポイントです。

 実写「岸辺露伴は動かない」シリーズの脚本を手掛けてきた小林靖子さんは、原作終盤の顔を変えさせられた召し使いの霊が放つとあるセリフから、今回の物語を作り上げました。また最後の露伴の「怨霊に取り憑かれてもあきらめず孤独に人生を前向きに生きる男」「彼は悪人だと思うがそこのところは尊敬できる」というセリフも活かされており、ラストにより皮肉に響く構成となっています。

 また、原作にはいない京香が、天然で「真の絶望とは何か」を問う重要な役割を果たしているほか、基本的に正義感や同情心で動かない露伴が、とある理由で漫画家として「怒って」物語に深く介入するのも見どころです。

 本作には、公開初日から「あの話をこんなに広げて、ブラッシュアップさせた小林靖子さん本当にすごすぎる」「メインキャストがほぼ日本人という理由付けが自然」「ちゃんと最後まで『嫌な話』として貫いているのが原作リスペクト感じる」「ヴェネツィアの負の歴史の要素の盛り込み方がうまい」「高橋一生はもちろん、井浦新や大東駿介の演技も抜群に良かった」と絶賛が相次いでいます。

 ちなみに、映画版『岸辺露伴は動かない 懺悔室』に作者の荒木先生が大きく関わった点としては、過去回想の「水尾の死に方」があります。原作では首を切られるという描写でしたが、映画でははっきりとは見せないようにしつつ、また別の残酷な死が待ち受けていました。荒木先生は、このシーンのために簡単なネームまで書いたそうで、ファンの方は要注目です。

(マグミクス編集部)

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