「人間らしい」アートの代表例を挙げろと言われたら、ジブリアニメの作品名を答えるのは悪くない選択だ。スタジオジブリは日本のアニメ制作会社で、84歳の伝説的な監督、宮崎駿が設立した。手描きの絵やみずみずしい質感のある色彩、壮大なストーリーを特徴とし、幼い頃の曖昧な感情と大人になるまでの紆余曲折を思い起こさせる作風で知られている。

米国のミレニアル世代は、まさに成長する過程で翻訳された英語版に触れる機会に恵まれた。そのため、『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』といった作品はこの世代にとって子ども時代の共通の思い出となっている。ジブリ作品の映像、そして死にゆく森の生き物や湯屋の強欲な幽霊たち、それらとの失われたつながりという宮崎作品のストーリーラインは、わたしたちに楽しくノスタルジックな思い出と震えるような悲しみを喚起させる。

ChatGPT-4oの波紋

だが残念なことに、大量のジブリ風画像に遭遇すると、そのような感動はすぐに蝕まれてしまう。2025年3月下旬、まさにそうした事態がネット上で起こった。原因はOpenAIのChatGPTの最新版にある。

最新版は「GPT-4o」と呼ばれ、これまでのツールよりも再現度の高い画像を生み出すことができる。しかも、GPT-4oのチャットウィンドウでそれが可能だ(いまのところ、利用できるのは有料アカウントのみ)。

24年の時点では、OpenAIの画像生成AI「DALL-E 3」を使うと、不気味な手の画像や意味不明な文章が生成されることが多かった。信頼性の低い生成物を元に、同じような画像をコピーしようとしていたのだ。これに対し、新しいモデル(GPT-4o)は的確な文章を書き、複数の画像で一貫した主題を生み出すことができる。手描き風から写真のようにリアルな絵まで、クリエイターの画風を忠実に再現する。

3月25日にGPT-4oのデモを公開した際、最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマンをはじめとするOpenAIのスタッフは、自撮りの集合写真を「アニメフレーム」に変換させた。すると、精緻な線で描かれたアニメ風の画像が生成された。セル画のような画風を特徴とし、背景にはイチジクの葉も細かく描かれている(4本指の人物もいるが、誰も気にしていない)。

OpenAIの最高経営責任者(CEO)サム・アルトマン

OpenAIの最高経営責任者(CEO)サム・アルトマン

PHOTOGRAPH: Sebastian Gollnow/picture alliance via Getty Images

グラント・スラットンというエンジニアは、デモを見た後、「ジブリアニメに変換した」という家族写真をXに投稿した。自分と妻がペットのコーギー犬と海辺にいる画像だ。宮崎作品でおなじみの輝く瞳やふさふさとした髪、軽くしわの寄った服が描かれている。この画像は、不気味なほどの説得力をもたらした。欠陥もあるが(例えば、あごひげはピクセル画のようになってしまっている)、注意して見ないとわからない。スラットンの投稿は5,000万回近くも閲覧され、それに触発されて「ジブリ化」された画像が次々と登場した。

なかには、暗殺されそうになった際に強気で拳を突き上げるドナルド・トランプや世界貿易センタービルに突っ込む飛行機など、宮崎ワールドにおよそふさわしくないものもある。この流行は3月27日に最悪の状態を迎えたのかもしれない。この日、ホワイトハウスの公式Xアカウントに、ドミニカ共和国出身のドラッグ密売人とされる人物が泣きながら逮捕される姿が、ジブリ風の画像で投稿されたのだ(驚くことではない。この政権は以前、強制送還される人々のASMR映像を投稿したこともある)。

サーバーが「メルトダウン」

OpenAIがデモでジブリ風画像を使ったのは意図的だった。「新しい技術を紹介するときは、最初の事例にたくさんの考えを詰め込む」と、アルトマンは後日Xに投稿した。それ以降、GPT-4oの需要によって自社のサーバーが「メルトダウン」していると誇らしげに述べている。

WACOCA: People, Life, Style.

Exit mobile version