「白状するとね、式。わたしって特別なものが好きなの。
っていうより、禁忌と呼ばれるものに惹かれる質みたいなんだ」
少女がそう、と自覚したのは、既に深く実の兄を本気で真面目に愛してしまっていた時だった。
けれどなぜか、その大切なきっかけを忘れていた。
聡明かつ可憐にて謙虚さを纏い、故に非の打ち所無く、
ともすれば無敵だったかもしれなかった彼女の、それは出発点だった。
計画は完璧。
粛々と進行中。
兄に妹として認識される前に遠く離れ、己を磨き、一人の女性として出逢う……
しかして、その幼気な願いは、しごくあっさりと両儀式という存在によって打ち砕かれる。
今、不本意な事に彼女は、式を駆逐する為、
自ら蒼崎橙子を師と仰ぎ魔術の修行身を投じたコトが思いっきり裏目に出て、
とある事件を追いかけ当の本人と行動を共にする羽目に。
かくして、持ち前の生真面目さと利発さから、余計なことにうっかり本質に近づき過ぎてしまったり。
その相手がどんなモノかも知らぬまま。
その危うさと情熱と無防備さが彼女の最大の魅力だと、果たして自身は気づいているのだろうか。
決して嫌いではない式、けれど兄を奪い、あまつさえ危険な目に晒してしまう式。
その式を大切にする兄。
複雑な思いを抱えた彼女は、事件を得て、複雑に生きているのは自分だけではない、
という至極当たり前の事を知る。
同時に複雑だからこそ、あえて純粋に単純にどこまでも普通であろうとする彼の、深い孤独をも知る。
登場するのは妹と兄、彼女と教師と女生徒と妖精。
彼らが紡ぐのは、誰かを思う、という糸で縛られていく、刹那の物語
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