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時は永禄三年九月十八日。桶狭間の戦いで今川義元が信長に仕留められて四ヶ月が経過していた。

「殿、大殿の弔い合戦の下知を早く」
と朝比奈とかいう今川家の家老のおっさんが、俺に掴みかかるように言ってくる。
「と、時まだ至らず、皆の者しばし辛抱いたせええ」
 俺は独りカラオケで鍛えた美声を生かして叫んだ。ところが、オーディエンスの反応はショボかった。

「殿、大殿の弔い合戦の下知を早く」

朝比奈とかいう今川家の家老のおっさんが、俺に掴みかかるように言ってくる。
「と、時まだ至らず、皆の者しばし辛抱いたせええ」
 俺は独りカラオケで鍛えた美声を生かして朗々と言ったつもりだ。ところが、オーディエンスの反応はショボかった。

「……」

 今川侍全員が給料遅配の発表を受けたリーマンみたいに無言かつ不満顔をさらす。
「な、何ゆえ、今、合戦を起こさぬのですか」

 ヘタレなのかてめえはという目で、大河ドラマの一場面みたいに宿老一堂が俺を見つめる。
「あっちは調子乗ってるんだ。勢いに乗ってる奴には手を出すなってことだよ」

 どんどん評定の場のテンションが下がっていくのが分かった。あちこちからため息と私語が半端なく聞こえてくる。
「だが、無策でただ待つわけじゃないんだ、策はある」
 俺は慌てて言ってみた。さすがに、家臣団半分が明日にも寝返る事態は避けたい。

「ほう、どのような」
 二番家老の由比某という爺さんが聞いてきた。
「楽市楽座をやる」
「楽市、何ですかそれは」
「誰でも駿府で商売をすることを許す。特権商人の独占を改めて、それで駿府に人を集めて商業を活性化させる」
 私語はかなり減って、俺の声はその場に武将たちに届いていた。
「それで税収を増やして、銃を買い鉄砲隊を編成して信長に復讐する」

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