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「なかなかの出来栄えだね」
 わざわざ駿府にやってきた義昭が瑠璃の保健事業パンフレットとして作成した、屏風絵を見て感嘆の声をあげた。
「ちょっと露骨過ぎねえか」
思わず俺はつぶやく。
戦死した家族に小判が届けられて大喜びする、わかりやすい内容。”保険入ってて良かったねえ”なメッセージは、ちょっと安直に思えた。討死した旦那がちと哀れに見える。

「駿河さん、宣伝に分かりやすさって大事よ」と義昭。オマエは代理店の営業マンか。将軍は俺の事を駿河さんと呼ぶ。駿河守だかららしい。
「将軍様は転生前は何をしてたんだべ」
 天下の将軍様に褒められても、物怖じせずにインタビューしちゃう瑠璃さん。
「前世は都内で農業高校の教師やってました」
将軍はあっさり正体を明かしてくれた。
「ええ、俺も元教師だよ、社会科の」
非正規であることは、駿河守の面子にかけて言わないことにする。
「おお、おたくもそうなの。奇遇だねえ。で、こいつが教え子で今の嫁」
将軍はいきなり近習の男子を隣に引き寄せて言った。
「え、少年好き?」
「僕は男じゃないよ」
近習の子は頬を赤らめて言った。
「こいつ元教え子で、こっそり福島に二人で旅行してたら地震にあってさ」
「悪い教師だねえ」
 現役のJKと旅行なんてふてえ野郎だ。教育委員会にチクりたくなる。
「卒業したら結婚するつもりだったんすわ」
義昭がちょっとおどけて言った。それにしても若衆頭が似合うなかなかの美少女で将軍のセンスに感心する。
「実は瑠璃も転生者で元教え子なんよ」
「おやおや、これはこれは」
将軍は本物の仲間を見つけたって、感じで薄気味悪い笑みを浮かべた。でも、その時の俺の頭は瑠璃に男装させてエッチするナイトプランで一杯だったんだけど。

「ええ、あっしがこの格好するんすか」
宴も終わって義昭とボクっ娘があてがわれた屋敷の一室に引き上げていくと、俺は早速瑠璃の手を握って寝室に連れていく。そこにはサムライの装束が、布団の上にひっそりと置かれていた。勿論俺が用意させたものだ。
「瑠璃のほうが目鼻立ち整ってるから、絶対似合うべ」
俺はそれを瑠璃にウキウキしながら渡した。
「なんか風俗みたいで嫌だべ」
「先生、風俗なんて優等生の君から聞きたくなかった」
「何いうんだか、エロ先生の癖に」
瑠璃は苦笑して几帳の裏で着換え始めた。それにしても着物の着換えの時のサラサラという衣擦れの音は本当にエロい。洋服にはない着物の素晴らしさだ。スマホがあれば録音して、ドライブしながら聞いていたい程だ。
「うわあ、時代劇しとるわあ、どう似合うべか」
ほっそりとした腰が少年っぽくて、瑠璃の若侍の格好はすこぶる似合っていた。
「よつん這いになってみて」
「やだよ、恥ずかしいべ」
瑠璃は顔を赤くして抵抗する。
「後で牛ステーキおごるから」
「まじけえ」
 瑠璃は渋々俺に向かって尻を向けて、服従のポーズをとる。
「めんこい腰だべなあ」と俺が彼女の下半身をイヤラシく触ると
「氏真さん、石碑のことちゃんとせんといかんべ」
瑠璃が真面目な顔で振り向いて言った。
「な、なんだよ、いきなり」
「あの地震と原発事故で福島大変なことになったんだから」
「分かってるって」
俺は瑠璃を横抱きにして、強く抱擁する。
「なら、好きにしてええよ」
元教え子は覚悟して目を閉じる。転生して信長を屈服させて調子コイテルのを、最愛の瑠璃に見透かされたようで俺はドギマギする。予想通り、その後あんまりエッチは楽しめなかった。男はバカでかつ繊細な困った生き物である。

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