コラム:小松菜奈やティモシー・シャラメはなぜ「アンニュイ」なのか? ポッドキャスト連載:考えたい言葉 vol.19

日本語では、「アンニュイ」はミステリアスな魅力、こなれ感や物憂げな雰囲気を意味し、表情や感情だけでなく、ファッションやビューティーのスタイルの1種としても定着している。語源であるフランス語の”アンニュイ(ennui)”は、疲労、倦怠、退屈や不満を意味し、迷惑を意味する英語の”アノイ(annoy)”とは共通のラテン語のルーツを持つ。英語にも外来語として”アンニュイ”という言葉は存在し、フランス語同様、ポジティブなニュアンスで使われることはほとんどない。

日本では褒め言葉で、メディアでも多用される。ファッションでは、襟付きのシャツなどクラッシーさを残しつつ、ゆったりとしたシルエットでこなれ感を演出するスタイルやくすんだニュートラルカラーの使用などが例に挙げられる。メイクでは、ムーディーな下まぶたのアイシャドウやファッション同様のくすみカラーの使用やそばかすを書き足して抜け感を演出することなどが特徴だ。ほかにも、無造作に見せるためウェーブを作るヘアスタイルや色素を薄く見せるカラコンなどが、「アンニュイ」なビューティとして知られている。いずれもこなれ感や抜け感を故意に作る、”あえて”の美学が根底にあるといえる。しかし、言葉自体がフランス由来であるように西洋的なインスピレーションは明らかで、そばかすやウェーブヘア、色素の薄い瞳など西洋人的な特徴を模倣したいわゆる”外国人風”の一面があることは否定できない。さらに、「アンニュイ」は身につけたものや一時的な感情や表情だけでなく、個人のスタイルや雰囲気を形容するためにも使われるようになっている。セレブリティーでは、小松菜奈やティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)、モトーラ世理奈らの名前が挙げられる。

「アンニュイ」は日本独自の発展を遂げたため、単語自体は存在するフランス語圏や英語圏でも通じないが、近いアイデアは存在する。”サッド・ボーイ(sad boy、sad boi)”は、哀愁や気だるさをファッションや音楽などのライフスタイルで表現する人々を表す。ネガティブな感情を、美しさやオシャレとして解釈をするプロセスは「アンニュイ」に通ずるものがあるが、”〇〇系男子”のように男性のみに使われることが多い。これは、伝統的に積極性や強さが求められてきた男性が、逆にメランコリックな雰囲気で魅力的になっているからだろう。イギリスのバンド、ザ・スミス(The Smiths)のモリッシー(Morrissey)は、ニヒルな歌詞、文学的趣味やソフトなシルエットのファッションから”サッド・ボーイ”のイメージが若い頃にあったほか、「アンニュイ」で名を挙げたティモシー・シャラメも表情や「君の名前で僕を呼んで(Call Me By Your Name)」などの登場作品から同様のイメージがあると言える。また、英語の”エフォートレス(effortless)”は、日本語の”抜け感”のような意味で、「アンニュイ」の脱力感のあるオシャレに近いニュアンスを持つ。

コラム全文は @wwd_jp プロフィールのリンクから

「WWDJAPAN」ポッドキャストシリーズはSpotifyやApple Podcastsでもお聞きいただけます。

#アンニュイ#NanaKomatsu#TimotheeChalamet#Morrissey#小松菜奈#ティモシーシャラメ#モリッシー#トレンド#ファッション

WACOCA JAPAN: People, Life, Style.