朗読劇『約束の鎮魂歌(レクイエム)』
―舞鶴から響く祈り、平和の尊さを伝える声の舞台―
2025年、京都府舞鶴市を舞台に、戦争の記憶と平和の尊さを未来へと語り継ぐ朗読劇『約束の鎮魂歌(レクイエム)』が上演されることが発表され、大きな注目を集めている。本作には、声優界の重鎮である緑川光さん、そしてアイドルグループSnow Manの人気メンバーであり、声優としても活躍する佐久間大介さんが出演。多彩な分野で活躍するキャストたちが、声だけで紡ぎ出す物語の力をもって、観客一人ひとりの心に平和のメッセージを刻み込む。
■ 舞鶴という地が持つ「記憶」と「祈り」
舞鶴市は、日本の戦後史において極めて重要な意味を持つ都市である。太平洋戦争終結後、シベリア抑留などを経て帰還してきた多くの日本人を受け入れた「引き揚げの港」として知られるこの地には、かつての戦争の爪痕と、それを乗り越えて生きた人々の想いが静かに息づいている。
舞鶴には「舞鶴引揚記念館」が存在し、現在も多くの資料や証言をもとに、戦争がもたらした悲劇や人間の尊厳について学ぶことができる。その歴史的背景を受けて、今回の朗読劇『約束の鎮魂歌』は、戦争で引き裂かれた家族の物語、帰還を信じて待ち続けた人々の記憶をもとに脚本が執筆されている。
■ 緑川光・佐久間大介という「声」の力
本作に出演する緑川光さんは、長年にわたって第一線で活躍する実力派声優であり、『SLAM DUNK』の流川楓、『新機動戦記ガンダムW』のヒイロ・ユイ、『Fate/Zero』のランサーなど、数々の名キャラクターを演じてきた。その透明感と芯の強さを兼ね備えた声質は、登場人物の心の奥底に潜む葛藤や祈りを丁寧に描き出す。
一方で、Snow Manの佐久間大介さんは、近年アニメ愛好家として知られるだけでなく、自身も声優としてアニメ作品に出演するなど多彩な表現力を発揮している。明るく柔らかな声を持ち味としながらも、真摯に役と向き合う姿勢が高く評価されており、本作では戦地に赴く若者や、平和を願う市民の心情を繊細に表現する役どころを担う。
この二人の声が交差し、ときに共鳴しながら紡がれる物語は、単なるセリフのやり取りを超えた“心の交流”を舞台上に立ち上げる。
■ ストーリー:ある家族の「約束」
物語は1945年、敗戦の混乱のなかで始まる。舞鶴の港に引き揚げ船が次々と到着し、日本中がようやく戦後の再出発を迎えつつあった時代。主人公・達也は若くして戦地に赴き、消息を絶っていたが、故郷である舞鶴に彼の母・澄江と妹の美咲が彼の帰りを信じて待っていた。
ある日、舞鶴の港に届いた手紙。それはシベリアの収容所から達也が書いたものであり、「必ず帰る。あの桜の木の下で、再び会おう」という言葉で締めくくられていた。手紙を受け取った家族は、希望と不安の入り混じる日々のなかで、彼との再会を信じて暮らしていく。
やがて、時は流れ、舞鶴の町並みも変わっていく中で、かつての「約束」は忘れ去られそうになっていた。しかし、その約束を胸に抱き続けてきた人々の想いが交差することで、再び“声”が蘇る。記憶をたどり、声を重ねる朗読劇は、戦争の終わらない記憶と、未来への平和の願いを静かに、しかし確かに届けていく。
■ 朗読劇という表現形式の魅力
朗読劇は、演者が台本を手に持ち、身体的な動きを最小限にとどめつつも、その“声”によって全てを描き出す芸術表現である。舞台美術や衣装が抑えられる一方で、観客の想像力を最大限に喚起し、登場人物の心情や情景をより深く“感じさせる”力がある。
『約束の鎮魂歌』では、音楽と音響が物語を補完する形で用いられ、場面転換や感情の起伏を鮮やかに際立たせている。観客は静寂と余白のなかに、かつてそこに生きた人々の息遣いや、日々の暮らし、そして別れの瞬間までもを想像し、追体験することになるだろう。
■ 「語り継ぐ」という使命
この朗読劇は、単なる芸術作品にとどまらない。そこには「語り継ぐ」という強い意志が込められている。戦争の記憶は、時間とともに風化していく。それを留め、次の世代へと受け渡す役割を、今を生きる私たち一人ひとりが担っている。
緑川光さん、佐久間大介さんという世代を超えたキャストが共演することで、本作は老若男女すべての観客に訴えかける普遍的なメッセージを獲得している。かつての悲しみや痛みを忘れず、平和の尊さを胸に刻み続けること。その想いが『約束の鎮魂歌』という形となって、今ここに甦る。
■ 最後に:未来へのレクイエム
“レクイエム”とは、本来死者の魂を鎮めるための祈りの歌である。しかしこの朗読劇では、それは単なる鎮魂にとどまらず、“生きる人々の心に火を灯す”希望の歌として響く。
戦争を知らない世代が多数を占める現代において、こうした舞台の意義は計り知れない。語られることで蘇る声、紡がれることで広がる想い。それが、この朗読劇『約束の鎮魂歌』の本質である。
舞鶴の桜の木の下に残された“約束”は、今を生きる私たちに託された。あなたはその声に、どう応えますか?
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