和歌山県田辺〜みなべを少し散歩 #行ってみよう #景色 #和歌山 #田辺市 #みなべ #散歩
朝、校舎へ向かう坂道の先で、海はもう起きていた。
私たちよりもずっと早く、今日という一日を引き受けるみたいに、
同じ音を、何度も何度も繰り返していた。
あの頃は、それが特別だなんて思っていなかった。
学校があって、友達がいて、
行き場のない気持ちが少し溜まると、
そこに海がある。
ただそれだけのことだった。
海が近くにある学生生活は、
輝かしい出来事で満ちているわけじゃない。
むしろ、覚えているのは、
何も起きなかった日のほうだ。
テスト前の、理由のない焦り。
部活で負けた帰り道の、言葉が出てこない時間。
あの沈黙を、海は一度も追い返さなかった。
昼休み、笑っているふりをしながら、
心の奥ではずっと、何かを探していた。
将来のことも、自分の輪郭も、
何ひとつはっきりしていなかったのに、
なぜか不安だけは、今よりずっと小さかった。
たぶん、逃げ場があったからだ。
黙って立っていられる場所が、ちゃんと用意されていたから。
放課後、制服のまま海を見ると、
少しだけ大人になった気がした。
何者でもない自分を、
それでも否定せずにいられた。
「今は途中でいい」
誰にも言われていないのに、
海だけは、そう扱ってくれていた。
卒業して、遠くで暮らすようになってから、
あの時間の名前を知る。
守られていた、という名前だ。
弱さも、未完成も、
あの場所では、咎められなかった。
海のそばで過ごした学生生活は、
思い出として整えられる前に、
身体の奥に沈んでいる。
疲れ切った夜、
理由もなく胸が苦しくなるとき、
ふいに思い出してしまう。
あの波の音を。
もう戻れない。
それが分かっているから、涙が出る。
でも同時に、
あの場所で生きていた自分が、
今も確かに、ここに息をさせている。
海はきっと、今も変わらずそこにあって、
名前を忘れた私たちのことを、
何も言わずに、覚えている。
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