Street Walk Story🚶♂️The Rail of Distant Echoes
The Rail of Distant Echoes
〜奥多摩の静寂と中央本線の鼓動〜
多摩川の急流が刻んだ深い峡谷、V字谷の険しさが残る奥多摩町。その終着駅である奥多摩駅のホームには、冷涼な山気が漂っていた。青年・蓮は、青梅線のE233系電車を下車し、コンクリートの階段を一段ずつ踏みしめる。背後では、かつて石灰石輸送で栄えた奥多摩工業の氷川工場の巨大なプラントが、威圧的な沈黙を守りながら聳え立っていた。
蓮の目的地は、さらにその先、奥多摩湖を形成する小河内ダムの近傍にある。かつてダム建設の資材搬送に供された東京都水道局専用線、通称「水根貨物線」の廃線跡を辿ること。それが、鉄道写真家であった亡き父の遺志を継ぐための、彼なりの儀式であった。
青梅街道に沿って歩を進めると、眼下には白丸ダムの調整池が、エメラルドグリーンの光を反射させている。鳩ノ巣渓谷の奇岩群を横目に、蓮はカメラを構えた。シャッターを切る瞬間、ファインダー越しに、現役時代のED16形直流電気機関車が重連で坂を登る幻影が見えた気がした。
「次は立川、立川です。中央本線、南武線、多摩都市モノレールはお乗り換えです」
車内放送の残響が、蓮の脳裏に蘇る。彼は数時間前まで、新宿の喧騒の中にいた。特急『あずさ』や『かいじ』が頻繁に発着する新宿駅の巨大なターミナル。そこから特別快速に揺られ、多摩川を渡り、日野断層を越えて、武蔵野の平坦な台地から山岳地帯へと足を踏み入れたのだ。
羽村の取水堰を過ぎ、青梅で車両編成が短くなるにつれ、電車の走行音は軽快なリズムから、急勾配に抗う重厚なモーター音へと変化した。沢井や御嶽の駅名標が通り過ぎるたびに、高度が上がっていくのを感じる。
日が傾き始めると、山々の稜線は深い藍色に染まり、秩父多摩甲斐国立公園の原生林がざわめき出した。蓮は、ポケットから一枚の古い切符を取り出した。それは父が大切に保管していた、かつての国鉄時代の硬券であった。
鉄道は、単なる移動手段ではない。それは、この関東平野の西端から甲府盆地へと続く、文明の動脈である。たとえ線路が途切れたとしても、そこに刻まれた記憶は、地形や地名と共に永遠に残る。蓮は、茜色に染まる空を仰ぎ、次のシャトル列車を待つために、再び駅の階段へと向かった。
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