ブルービーチ那智で、涼んだ後に那智駅に少し立ち寄る。
[音楽] 夜の 中 まだ眠れない 心 君への思い こんな夫婦に誰も 誰かのことで 胸を焦して 眠りにつくの [音楽]
ブルービーチ那智を背に、夏の夜道を駅へ。
袖にはまだ潮の香りが残っておりますが、もう波の音はここまでは届きません。
那智駅に着けば、柔らかな灯りが、夜の静けさに点々と浮かんでおりました。
改札は口を閉ざし、待合の椅子はきちんと並び、時刻表の数字だけが淡く息をしている。
耳に入るのは、蛍光灯のかすかな唸りと、草むらで鳴く虫の細い声。床面の冷たさが足裏からそっと伝わってまいります。
賑わいの駅では見過ごしてしまう細やかなものが、この那智駅ではしっかりと目にとまる。静けさが、かえって駅そのものの声を聞かせてくれるようでございます。
貼り紙の角が少し巻き、古い掲示板の画鋲が鈍く光り、券売機の表示が夜気に薄く滲む。
誰もいないのに、物たちがそれぞれの居場所で、きちんと夜を守っている──そんな気配でございますな。
プラットホームへ出れば、遠い国道の気配もほとんど消え、線路はただ黒く、まっすぐに。
空気は重たく、しかし澄み、呼吸のたびに胸の中のざわめきが静まってゆく。
今夜の那智駅は、声高に語らず、余白で語る駅でございました。
旅の心にそっと刃を当て、余分を削り、輪郭だけを残してくれる──その、静かな切れ味こそが、ここの「味」なのでございます。
#和歌山 #那智勝浦 #駅 #田舎の風景