和歌山県田辺市中辺路町近露をドライブ中に苔むした階段を上がった先の神社へ。
「え〜、夏の雨あがりでございますな。
空を見上げますと、雲はまだ、底を重たく垂らし…ま、いつまた降り出してもおかしゅうない、そんな色合いをしておりまして。
石段はと申しますと、長いこと人に踏まれ、雨に打たれ…角は丸うなり、段と段との間も、よう見ますと微妙にずれております。そこへ、苔が一面に這うておりましてな、その隙間からは、細い草が…雨を含んで、しっとりと伸びております。
両の狛犬──これもまた、全身を緑の衣で包まれたように苔むしておりますが、目の奥の彫りだけは深うて…そこからじっと境内を見守っているようでございます。
境内全体が、雨に洗われ、杉や檜の香りが立ちのぼり…足元には、ぽとり、ぽとりと、木の葉から水滴が落ちる音。
人の気配はないのに、不思議と寂しゅうはない。
むしろ、山も木も石も、そして狛犬までもが、声をひそめて何やら語り合うている…そんな、自然と共にある神社でございます。」
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