Street Walk Story🚶♂️Amber Resonance
野辺地駅の跨線橋(こせんきょう)は、まるで過去と未来を繋ぐ細いチューブのようだった。
凍てつくような一月の風が、下北半島の付け根にあるこの駅を吹き抜けていく。かつて北前船が往来し、銅や米で賑わったこの地も、今は静寂が支配している。青い森鉄道の車両がホームに滑り込む音だけが、時折、冷たい空気の膜を震わせていた。
「ねえ、あの看板の色、少しだけ薄くなったかな」
隣を歩く結衣の声が、長い通路に小さく反響した。天井から吊るされた黄色や赤、青の案内板。それは、かつて特急「はつかり」や「白鳥」がこの地を颯爽と駆け抜けていった時代の名残だ。色褪せた原色が、かえってこの無機質な通路に、祈りにも似た温かさを添えている。
窓の外を見れば、陸奥湾から吹きつける雪が、防雪林の松の枝を白く染めている。遠くに見える烏帽子岳は、深い雲の向こう側にその身を隠していた。
私たちは、ただ歩いた。
床に敷かれた灰色の滑り止めが、一歩ごとに微かな摩擦音を立てる。左側の丸窓から差し込む冬の日差しは、鋭く、そしてどこまでも透明だ。その光が通路の端に長い影を落とし、まるで五線譜のように私たちの足元を横切っていく。
「ここにしかない青があるよね」
結衣が足を止め、窓の外を指差した。
そこには、空とも海ともつかない、冬の北東北特有の深い藍色が広がっていた。
駅の放送が、まもなくやってくる列車の到着を告げる。
私たちはこの通路を渡り終えれば、それぞれの日常へと戻っていく。だが、この数分間の静寂と、看板の原色、そして丸窓から差し込んだ琥珀色の光は、きっといつまでも私の胸の底に沈殿し続けるだろう。
雪国の駅の、何でもない跨線橋。
そこは、私たちが交わした言葉以上に、多くの記憶を雄弁に語り続けていた。