氷点下12度。結氷した野付湾を望遠レンズを持って歩いた。氷上に刻まれた足跡を地吹雪があっという間に消し去る。360度、見渡す限り真っ白い氷の大地が広がっていた。
 根室海峡に突き出た北海道東部の野付半島。全長26キロのエビの尻尾のような形をした半島は、砂嘴(さし)と呼ばれ海流が運んできた土砂によって形成された「砂の半島」だ。大半は草原や湿地だが、地盤の沈下による海水の浸入で、トドマツやミズナラの森が立ち枯れた「トドワラ」「ナラワラ」が、荒涼とした最果ての景観を作り出している。
 ここでは環境省のレッドリストに指定される希少な動植物を観察できる。野付半島ネイチャーセンターの専門員、後藤真美子さんは「ここはひと月ひと月、花や鳥の見ごろが変わり、早送りで自然を見ているようですよ」と話す。
 ほおを突き刺す冷たい風が容赦なく吹きつけるこの時期、観光客の姿はまれ。それでも海外からのバードウオッチャーが増えている。世界一美しいとも言われるオオワシをはじめ、オジロワシ、コクガンなどの冬鳥を見ることができるためだ。9歳からバードウオッチングを始めたという英国人女性、イレーン・クックさんは「ずっと、北海道にオオワシを見に来たかったんです」と感激した様子だ。
 厳しい環境の中で懸命に生き抜く動物たちの凛(りん)とした姿が人々を惹(ひ)きつける。(写真報道局 奈須稔)

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