〈フ・ダン・ギの温泉街〉いわき湯本温泉 ライバルとのタッグに転換

いわき市のいわき湯本温泉を拠点に3月中旬までの約60日間、「いわきフラオンパク」と題したイベントが続いた。プロダンサーのフラダンススクール、ジャンボメニューの食べ歩きツアーなど、住民と観光客らの多彩な交流・体験行事の見本市だ。
 フラはフラガール、オンパクは「温泉博覧会」を指す。3年目の今年のプログラムは112種で、2008年の第1回の2倍。観光客ら約1500人が参加した。「食」「文化」「芸能」「歴史」「工芸」など、地元資源を生かして交流人口を増やし、にぎわいづくりを狙う。
 実行委員長を務めたのは、旅館「古滝屋」若だんなの里見喜生さん(41)。「これまでは『待っていれば、旅行会社が客を連れてくる』という感じの経営者が多かった。旅館側から仕掛け、お客さんを呼ぶきっかけになれば」と期待する。
 湯本温泉は硫黄泉の泉質に加え、地の利がいい。JR常磐線湯本駅まで東京から特急で約2時間。車でも常磐道いわき湯本インターチェンジまで約2時間半だ。映画「フラガール」公開の効果もあり、06年の観光客はここ10年のピークとなる62万人に達した。
 観光客はその後減ったが、ポスト「フラ」に企画したのがオンパクだ。里見さんらは先進地の大分・別府八湯温泉などを視察し、ヒントを得た。地域ぐるみで成り立つ企画だけに「ハワイアンズのホテルや商店街の皆さんと、同じテーブルにつけたのがよかった」と振り返る。
 50年代半ばまで常磐炭鉱の町として栄えた。閉山後の66年に温泉リゾート「常磐ハワイアンセンター」(現スパリゾートハワイアンズ)が生まれた。ただ、温泉街と競合したため、両者の関係はよそよそしい時期も長く続いた。
 今は旅館経営者の若返りが進み、競合意識も薄れた。ハワイアンズ側も「観光産業として生き残るため、地域観光のひと役を担う」と温泉街との連携を強める姿勢だ。
 ハワイアンズ社員で、日本温泉保養士協会長の小野倫明さん(47)は旅館従業員らを温泉保養士に育てる取り組みを続ける。旅館宿泊者はショーやプールを2日間楽しめる格安入場券を手に入れ、共存共栄の動きが広がっている。
 若手グループ「dele助人(でれすけっと)ゆもと」はこうした動きに刺激され、商店や飲食店の町歩きのための「お散歩マップ」「B級グルメマップ」を作成。オンパクも支える土台になった。
 28館でつくる湯本温泉旅館協同組合理事長で、旅館「こいと」主人の小井戸英典さん(54)は「地元がおもしろがってオンパクをやることが大事。『やっても客が増えない』というが、5年、10年先を見てほしい」と話す。(佐々木和彦)
 ■いわき湯本温泉
 主な泉質:硫黄泉
 観光客数(2008年)57・9万人
 同前年比:+4・0%
 源泉総数:1
 湧出量(ゆう・しゅつ・りょう):4750リットル/分
 ■グラフでみる温泉地
 主要温泉地別に観光客数を見ると、2008年はスパリゾートハワイアンズが194万人と断トツに多かった。2位だった飯坂温泉の倍以上の集客力を持っている。観光客上位8カ所のうち、前年より増えたのは湯本温泉のみ。ほかの7カ所は前年比3~9%程度の落ち込みだった。
      ◇
 不景気(フ)、団体離れ(ダン)、業界不振(ギ)。春の観光期を迎えたが、温泉地を取り巻く環境は厳しい。ただ、地域の魅力を高め、生き残りを図る動きも広がる。県内は全国で5番目に温泉地が多く、多くの人が関連産業に携わる。地域一体となって地道に取り組む「普段着」の温泉街づくりの姿を5回に分けて報告する。
※「Channel ASAHI」にアップロードされている動画の改ざんや、朝日新聞社の許可なく商用・営利目的で利用することを禁じます。

Write A Comment

Exit mobile version