ネコは、イヌと並んで人間に最も身近なコンパニオンアニマルである。その鳴き声といえば「ニャー」が一般的だろう。人間に食事を要求したり、注意を引いたり、ときには不満を訴えたりと、ネコは「ニャー」と鳴くことで人間と活発にコミュニケーションをとっている。

ところが、実は「ニャー」という鳴き声よりも、のどを鳴らす「ゴロゴロ」という音のほうが、個体を識別するための情報をはるかに多く含んでいることが、このほどドイツとイタリアの共同チームによる最新の研究で明らかになった。つまり、ネコがのどを鳴らす音は個体ごとに固有の”声紋”のように機能しているというのだ。

「人間にとってネコの鳴き声といえば『ニャー』でしょう」と、フェデリコ2世ナポリ大学教授で動物生態学を研究するダニロ・ルッソは説明する。「しかし、音響構造的には均一でリズミカルな『ゴロゴロ』という音のほうが、個体を識別するための手がかりとしては優れています」

ルッソらの研究チームは、ベルリンの一般家庭や動物保護施設で飼育されている27匹のネコの音声を録音し、このうち14匹から得た276件の「ニャー」という鳴き声と、21匹から得た557件の「ゴロゴロ」というのどを鳴らす音を分析した。そのうえで、人間の音声認識にも使われるメル周波数ケプストラム係数という特徴量を調べたところ、「ゴロゴロ」の個体識別精度が85.5%に達したのに対し、「ニャー」は64.4%にとどまっていたのだ。

家畜化が変えた声の柔軟性

のどを鳴らす「ゴロゴロ」という音が個体識別の特性を安定して保持している理由は、その発声メカニズムにある。この音は低周波で定型的であり、声道の形態的特徴に由来する個体差が現れやすいのだ。

これに対して「ニャー」という鳴き声は、文脈や感情に応じて変調されるという。このため、一貫した個体識別の音響的特徴が弱まっていると考えられている。

さらに研究者たちは、ネコの家畜化が鳴き声に与えた影響を調べるために、イエネコの「ニャー」を5種類の野生のネコ科動物(アフリカヤマネコ、ヨーロッパヤマネコ、ジャングルキャット、チーター、ピューマ)と比較した。その結果、イエネコの「ニャー」は野生種よりも音響的な変動性が著しく大きいことが判明した。

これは人間との共生が、ネコの声に柔軟性をもたらしたことを示唆している。人間は飼い主ごとに生活習慣やネコに対する反応が大きく異なる。こうした多様な人間と暮らす環境では、状況に応じて「ニャー」という音を柔軟に調整できるイエネコのほうが有利だったと考えられる。

実際、ネコと飼い主のペアごとに「ニャー」の音響特性が異なることから、連想学習の過程で形成される信号である可能性が高いという。つまり、「ニャー」という鳴き声は個体識別よりも、人間から特定の反応を引き出すことに特化した適応性の高いコミュニケーション手段といえるわけだ。

一方、「ゴロゴロ」とのどを鳴らす音は、なでられているときや馴染みのある人と密接に接触しているときなど、リラックスした状況で発せられる。また、出産直後の母親と子猫の間のコミュニケーションにも使われることから、親和的な信号として機能している。

低振幅で短距離用の信号である「ゴロゴロ」は、通常は嗅覚や触覚、視覚が優位な近距離で発せられる。しかし、環境条件によっては他の感覚が効きにくい場合もあることから、音声による個体識別が補完的な役割を果たしている可能性がある。

「ゴロゴロ」の頻度を決める遺伝子

ネコが「ゴロゴロ」という音を発する頻度には、遺伝的な要因もかかわっていることが、過去に発表された別の研究結果で明らかになっている。

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