飼い主は犬のそばを歩くことすら恐怖
動物支援団体「ワタシニデキルコト」代表・坂上知枝さんのもとに届いた、一本の切実なダイレクトメール。
それは、2歳6ヶ月の小型犬ポチ(仮名)と暮らす飼い主からの、助けを求めるものだった。ポチは嫌な刺激や緊張がかかる場面で本気咬みや威嚇、フードアグレッシブといった行動を示す。
そして、遊びの最中に噛まれたをきっかけに、飼い主は犬のそばを歩くことすら恐怖を覚えるようになってしまった。
坂上がこれまでの経緯を丁寧に聞き取ると、ポチは生後3ヵ月でペットショップから迎えられ、9ヵ月頃から咬みつきが始まったこと、さらにそれまでほとんど散歩に出ていなかったという事実が明らかになった。
運動量や社会化などの経験不足、誤った情報の積み重ね――問題は一つではなかった。
保護活動の現場を伝える連載の後編では、愛犬を「咬む犬」に変貌させた恐怖の「しつけ」について、詳しくお伝えする。
子どもの頃から捨て犬や捨て猫を見過ごせず、保護しては世話をし、新しい家族につなげてきた坂上知枝さん。2020年9月に、動物支援と保護を目的とする一般社団法人「ワタシニデキルコト(以下、ワタデキ)」を立ち上げた。
本連載は、東京・千葉・福島などの保健所や愛護センターと連携し、数名のボランティアメンバーとともに、犬や猫の救助、ケア、里親探しに奔走する日々を、ワタデキで坂上さんとともに活動するメンバーの視点から伝える。
前編「9ヵ月くらいから…飼い主が恐怖で怯える『人を咬む犬』ペットショップで言われた驚愕のこと」を読む。
実は飼い主は問題行動を治そうと、これまで1年半にわたり複数のトレーナーの指導のもと、相談者主体でトレーニングを行っていた。トレーニングの内容に疑問を持った坂上は、詳しく聞いた。
「1歳前から訪問型のトレーナーさんに依頼して、ガシャガシャと音の鳴る缶で怯むまで怒りつける方法を教えられました」
しかしこの方法では改善されず、1、2ヵ月が過ぎる頃には缶を見ると逆上するようになったという。そのため相談者は別のトレーナーに依頼をした。
「次のトレーナーは、咬みつきや発狂が治らないと、リードで首輪ごと吊り上げて首吊りの状態にしたこともありました」
おそらくポチは「手が怖い」のだ、と坂上は思った。このような躾をされたことで、人間に対する不信感を持ってしまったのだ。

「大型でシニアなので譲渡が難しそう」という理由で、殺処分対象だったシニアの大型犬の「ホルフ」。外飼いだったのか、トイレも上手くできず、未去勢で睾丸には腫瘍も。ワタデキで引き出し、治療後、預かりさん宅に。写真提供:ワタシニデキルコト
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