多くの人にとってペットは大切な家族だが、法律上は「物」として扱われる。ペットジャーナリストの阪根美果さんは「民法の規定によって、愛犬や愛猫が傷つけられても、飼い主の感情とはかけ離れた裁判結果が出てしまう。動物の法的地位を民法の枠組みから見直すべきではないか」という――。
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法律上、ペットは「物」に分類される
もし、愛犬や愛猫が、他人の過失によって突然命を奪われたら――。その悲しみは、単なる「所有物」を失った時の落胆とは、まったく質の異なるものでしょう。
多くの飼い主にとって、ペットはかけがえのない家族の一員です。しかし日本の法律では、ペットを含む動物は依然として「物」として分類され、故意に傷つけた場合は「器物損壊罪」に該当するなど、飼い主の感情や社会の実態に十分に応えられていません。
2025年、米国ニューヨーク州で、このギャップを埋める可能性のある画期的な判決が下されました。横断歩道で車にはねられて死亡した4歳のダックスフント「デューク」の死を目撃した飼い主が、車の運転手に損害賠償を求めた裁判で、裁判所はその犬を「直系の家族の一員(immediate family)」と認定したのです。
これは、法が社会の価値観の進化に歩調を合わせた歴史的な一歩でした。
※Brooklyn judge rules pet dogs are family members. Gothamist.
多くの人が家族の一員と思っている現実
歴史的な判断の舞台裏には、飼い主のナン・デブレイズ氏の悲痛な訴えと、法と社会通念の乖離かいりを埋めようとする専門家たちの粘り強い活動がありました。
原告が求めたのは、ペットの市場価値の補償ではなく、家族を失ったことによる耐え難い精神的苦痛に対する損害賠償(Negligent Infliction of Emotional Distress, NIED)でした。
これに対し、被告側はニューヨーク州の長年の判例を盾に「動物は法的には『動産(chattel)』、つまり所有物であり、財産の喪失から生じる精神的苦痛への賠償は認められない」と訴えの却下を求めました。たしかに、これまでは米国でも、人間の家族に関する損害賠償のみ認められてきました。しかし、この主張は、現代社会の感覚とはあまりにもかけ離れたものです。
この法廷闘争で重要な役割を果たしたのが、動物の法的地位向上を目指す団体「非人間的権利プロジェクト」(Nonhuman Rights Project, NhRP)です。同団体は、現代社会において犬はもはや単なる「物」ではなく、家族の一員として扱われている現実を、法が直視すべきだと訴えました。
キングス郡最高裁判所のアーロン・D・マスロー判事は、この主張を広範に引用し、「融通の利かない判例に固執することは、社会規範と法の一致を妨げる」と指摘。犬を「直系の家族の一員」と認め、社会規範の進化に合わせ動物の法的地位も進化するべきだと判断しました。