世界から見た紀州犬の魅力と未来への願い
〜スウェーデンの紀州犬オーナー・Helenaさんからのメッセージ〜
Facebookで公開された最新の動画を見て、私は深く心を動かされました。
日本の天然記念物である紀州犬が、今、絶滅の危機にあるという現実に、胸が締めつけられる思いです。
もちろん、犬種登録のルールや輸出入の制限など、複雑な事情があることは理解しています。
でも、結局のところ――この犬種を未来へ残すために必要なのは「需要」ではないでしょうか?
日本国内でその需要が減っているならば、海外に広げていくしかありません。
紀州犬は確かに、誰にでも向いている犬種ではありません。
しかし、狩猟だけがこの犬の魅力ではないのです。
もっと多くの人に、その多才さと可能性を知ってもらいたいと、私は心から願っています。
私はスウェーデンに住んでおり、こちらのケネルクラブに登録されている紀州犬はたった2頭しかいません。
ノルウェーやデンマークにはゼロ頭。フィンランドには40〜50頭ほどいるようです。
紀州犬は、人間に対して選り好みをする傾向があるため、いわゆる「ショードッグ」には向かないと思われがちです。
でも、実際にはドッグショーにも出場できるし、タイトルを獲得することも可能です。
私の愛犬も、審査員全員に好かれるわけではない中で、いくつかのチャンピオンタイトルを獲得しました。
フィンランドにいる彼の兄弟に至っては、なんと60以上のタイトルを持っています。
それだけの功績があっても、まだまだ「この犬種のPR」は足りていないと感じています。
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スウェーデンのブラッドトラッキングという文化
スウェーデンには「ブラッドトラッキング(血跡追跡)」という、犬と人が協力して行う特別な競技があります。
この競技は単なる遊びではなく、自然との共生・動物福祉・伝統的狩猟文化を結びつける、象徴的な存在です。
狩猟文化と動物福祉の融合
スウェーデンでは狩猟が盛んですが、撃たれた獲物が逃げてしまった場合、その動物を苦しませないために、素早く見つけて止めを刺すことが求められます。
ブラッドトラッキングは、この「負傷した動物を探し出し、苦痛を最小限にする」という使命から生まれました。
犬は嗅覚を最大限に活かし、人と共に野山を歩きます。
スポーツとしての広がり
狩猟をしない家庭でも、この競技は人気があります。
血液の跡を人工的に作り、その匂いをたどってゴールまで導くというシンプルなルールのため、
誰でも自然の中で愛犬と一緒に挑戦することができます。
犬にとっては嗅覚を使う作業は非常に満足度が高く、精神的にも健康を保つ効果があります。
法律的・資格的な意義
スウェーデンでは、狩猟犬として活動する犬の一部に、この競技での能力証明が求められる場合があります。
試験に合格すれば公式のチャンピオンタイトルが与えられ、
その犬の能力と価値を社会的に証明することにもつながります。
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紀州犬とブラッドトラッキング
Helenaさんの紀州犬は、このブラッドトラッキング競技で大きな成果を挙げています。
最初の4回の試験で一発合格し、スウェーデンでチャンピオンとなりました。
おそらく世界で初めての「ブラッドトラッキング・チャンピオン紀州犬」です。
現在は子犬の雌犬を育てており、彼女もこの競技に挑戦予定です。
スウェーデンでタイトルを獲得した後、フィンランドやノルウェーへ渡り、国際チャンピオンを目指します。
この称号もまた、世界初の紀州犬による達成になる可能性があります。
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紀州犬の未来のために
紀州犬は確かに原始的で、少し気難しい面を持つ犬種です。
しかし、その本能と知性を活かせば、狩猟だけでなく多くの分野で輝くことができます。
私たち一人ひとりが、この犬種の魅力を発信し、世界に伝えていくことが必要です。
そうしなければ、近い将来、本当にこの素晴らしい犬が地球上から姿を消してしまうかもしれません。
紀州犬が、これからも人と共に生きる未来のために――私たちは今、動き出す時です。
— Helena(スウェーデン在住・紀州犬&アメリカンアキタのオーナー)
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日本との価値観の違い、そして共感
ブラッドトラッキングは、**「自然との共生」「動物福祉」「伝統的狩猟文化」**を一体として捉えるスウェーデンならではの文化です。
これは、現代日本の「動物愛護」の考え方とは少し異なるかもしれません。
しかし私は、このスウェーデンの考え方に強く共感します。
【動物の命を大切にし、その本能を尊重しながら共に生きる】
この姿勢は、紀州犬の未来を守るための大きなヒントになるはずです。