日本人の平均寿命は女性が87.13歳、男性が81.09歳(2024年平均)。女性の平均寿命は、平均寿命の統計を取っている国の中でもっとも長く、40年連続で1位になった。
長寿なのは人間だけではない。日本の犬猫の平均寿命は、どんどん延びる傾向にあり、2024年のアニコム損保の発表(※1)によると、2022年度の平均寿命は犬は14.2歳、猫は14.5歳だった。寿命の延長の背景には、動物医療の進歩、フードや室内飼育などの飼育環境の改善などが挙げられているが、いずれにせよ、ペットが長生きする時代が到来したことは間違いない。
その一方で、飼い主には「ペットの老いや死にどう向き合うか」という新たな責任が生まれている。犬猫ともに寿命が延びたことによって、心臓の病気や腫瘍など、人間も高齢になると増える病気が犬猫でもよくみられるようになった。そして、動物においても、闘病、介護、看取りや亡くなった後のケア=「エンゼルケア」が、重要なテーマとなりつつある。
今回は、獣医師の立場から、死後のケアである「エンゼルケア」について基本的な知識と心構えを獣医師で作家の片川優子さんに詳しく解説していただく。
愛するペットの最期について考えたくはないが慌てないために考えることも必要だ。photo/iStock
※1:アニコム「家庭どうぶつ白書2024」
<4ページ目に、片川さんの御実家の愛犬のエンゼルケア後の写真が2枚掲載されています>
ペットのエンゼルケアとは
そもそも「エンゼルケア」とは、本来は医療や介護の領域で用いられる用語であり、死亡直後に行う身体的・心理的ケアを指す。明確な定義はないが、亡くなった方が少しでも生前に近い姿になるように行われる処置全般を指し、大きく分けると下記の3つの目的のもとに行われる。
・ご遺体を整え、旅立った命の尊厳を守る
・感染症予防
・遺された家族が死と向き合い、死を受け入れる環境を整える
人間のケースで説明すると次の通りだ。病院で亡くなった場合は、主に看護師がエンゼルケアを行う。介護施設などで亡くなると、介護施設の職員が行うケースが多い。自宅で亡くなったときには、葬儀社に依頼することも可能だ。
動物においても目的は同じで、エンゼルケアを行うにあたり、特別な資格は必要ない。例えば、動物病院で亡くなったときには、エンゼルケアは動物病院で行うケースがほとんどだ。実際、米国獣医医師会(AVMA)も、「動物の死後における繊細な扱いは、獣医師実務の重要な側面である」と明言している(※2)。
最期を自宅で迎えるケースも少なくない.写真はイメージです。photo/iStock
ただ、ペットの看取りは、自宅のケースも少なくない。そうなると自分で対処する可能性もある。もちろん、愛する猫や犬のいつか訪れるその日のことは「できる限り考えたくない」と思うのが、共に暮らす人の心情なのは間違いない。しかし、やるべき事柄を頭の片隅に入れておくだけで、いざというときに途方にくれず対処できることもあるので、詳しく紹介していきたいと思う。
※2:A veterinarian’s role in pet after-death care
