なぜ人間は自殺を考えてしまうのか。自殺研究の第一人者である精神科医のクリスティアン・リュックさんは「ホモ・サピエンスから進化し続けてきた脳の発達が影響している」という――。(第2回)
※本稿は、クリスティアン・リュック『人はなぜ自分を殺すのか』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
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「自ら命を絶った」と言われるイルカの真相
イルカが自ら命を絶ったとされる有名な話が、『わんぱくフリッパー』というテレビ番組でフリッパーを演じ人気を博したキャシーというイルカだ。
賢いフリッパーに視聴者は夢中になったが、番組が終わるとキャシーはマイアミの水族館で前よりも自由のない暮らしを余儀なくされた。キャシーは病気になり、調教師だったリック・オバリーが呼ばれた。ドキュメンタリー『ザ・コーヴ』の中で彼はこう語っている。
「ひどいうつ状態だというのがすぐにわかった。見ればわかる。そしてキャシーは私の腕の中で自殺した。(中略)彼女は私の胸の中へと泳いできて、じっと目を見つめ、大きく息を吸った。そして呼吸を止めた。私が手を離すと、そのままプールの底へと沈んでいったんです」
オバリーも医師、発明家、精神分析家であるジョン・C・リリーのようにイルカ保護活動家となり、イルカの飼育に反対するようになった。2人がイルカのために貢献したのは事実だが、実際にイルカたちに何が起きたのかは疑問が残る。意図的に呼吸を止めて溺れたのだとどうしてわかるのか。どちらにしても死ぬ寸前だった、あるいは重い病だった可能性は? そのため底に沈んだということはないのだろうか。
本当に動物は自殺をするのか
レミングという北極に生息する長くやわらかい毛を持つネズミ科の動物も自殺をすると言われていた。しかも集団で自殺するという。
レミングの群れが高い崖から海に落ちていく光景がディズニー・プロダクション製作の有名なドキュメンタリー映画『白い荒野』で有名になった。レミングが集団自殺するという伝説を初めてカメラで捉えたとされたが、製作チームがレミングの群れを崖に追い詰めていたことが後に明らかになった。
レミングは確かに海に飛び込むことがあるがそれには単純な理由がある――レミングは泳げるのだ。約4年周期で数が激増し、そうすると一部が集団移住することがある。
神が存在しないという証拠がないように、動物が絶対に自殺しないということも証明はできない。しかし動物が人間と同じような頻度で自殺するとしたら、もっと報告が上がってきていていいはずだ。それも先述のイルカほど劇的ではないケースの報告が。
たとえばニワトリだけで200億羽を超えているし、アメリカだけで犬が8970万匹、猫は7380万匹いる。動物が自殺するものならばそういうニュースをしょっちゅう目にしていいはずなのだ。