猫は笑わないというと愛猫家は反論するかもしれないが、少なくとも人間のようには笑わない。そんな笑わない猫さえ笑うことがあるとしたら、どれほど面白いことがあったのだろうか。

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 英語では、そんな発想をそのまま表現した「(enough) to make a cat laugh」というイディオムがある。

■(Enough) to make a cat laugh

 「(enough) to make a cat laugh」というイディオムは、「猫でさえ笑うほどおかしい」「滑稽でたまらない」という意味だ。

 ただし純粋に面白くてたまらない、というばかりではなく、文脈によっては嘲笑を示すために用いられることもある。たとえば、「ばかばかしくて笑ってしまう」「笑止千万だ」という含みを帯びるような例だ。

 要は、猫は笑わないという前提を踏まえた誇張であり、おかしさの度合いを極端に高く(あるいは低く)表現したイディオムである。

■由来

 このイディオムの成り立ちには、いくつかの説がある。

 有力なのは、イギリスの劇作家であり古美術研究家でもあったジェイムズ・ロビンソン・プランシェが、フランス童話の『長靴をはいた猫』を翻案して、1837年に上演したバーレッタ(喜歌劇)だ。

 この劇に「Enough to make a cat laugh」というセリフが使われているが、これがこのイディオムが印刷物で確認できる最初期の例である。

 19世紀なかばには俗語として普及し、1893年の喜劇『Charley’s Aunt』には「It makes a cat laugh」が宣伝文句として用いられていた。これもこのイディオムの普及に寄与したと考えられている。

 その後、辞典類にも採録が進み、たとえばエリック・パートリッジの『A Dictionary of Slang and Unconventional English』(1937)では、このイディオムは「extremely funny, droll, ludicrous(非常におかしい、ひょうきんな、滑稽な)」 と定義されている。

 現在、それほど日常的に用いられるイディオムではないが、ネイティブなら目にしたり耳にしたりすれば、そのニュアンスがすぐに伝わるだろう。肯定的にも否定的にも使えるため、イギリス風のレトロな響きで、誇張や皮肉を強調したいときに生きる表現だ。

 例文

 ・That routine was enough to make a cat laugh.

 (あの出し物は猫でも笑うほどおかしかった)

 ・His excuse would make a cat laugh.

 (彼の言い訳は、猫でも笑ってしまうくらい馬鹿げている)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)

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