
えさを食べ進めるうちにトラスケの中に入っていく猫(「ねこから目線。」提供)
ノラ猫・保護猫を中心に専門サービス事業を展開し、本紙夕刊に連載記事を執筆中の「ねこから目線。」(大阪市)が、猫のための「世界で一番やさしい」捕獲器を開発した。捕獲時の負傷リスクを極限まで排除しようと、新潟・燕三条の職人らと約2年がかりで作り上げた国産品。300台限定で予約販売を始めると問い合わせが相次いだため、急遽300台を追加するなど好評で、「猫にやさしい保護」が広がり始めている。
「ねこから」では、猫を捕獲、不妊手術をして元の場所に戻す「TNR」や多頭飼育崩壊世帯などで年間1500匹以上の猫を捕獲。猫に負担がかからないようさまざまな捕獲器を取り寄せて使ってきたが、扉が閉まった際に脚や尾を挟み、致命的な負傷につながるケースもあったという。
代表の小池英梨子さん(35)は、試しに約10台ほどの捕獲器の扉に自分の指を挟んでみたところ「めちゃめちゃ痛かった」。危険だと感じたときは手を引いたが、出血などのけがをし、改めて危険性を痛感。「安心して使え、お薦めできる捕獲器を作りたい」と考えたという。
小池さんによると、一般に販売されている捕獲器は「害獣駆除」を前提に作られており、中に入った動物が踏み台などを踏むと勢いよく扉が閉まる。米国の老舗メーカー「トマホーク社」の製品は猫の保護が目的とされ「最高品質の人道的な動物管理製品」をうたうが、社のロゴは害獣として駆除されるアライグマだ。小池さんには「駆除が前提の製品とともに猫の捕獲器が並ぶことに違和感があった」。
ものづくりといえば−と大阪の複数の会社に相談したが、「図面もないものは作れない」といった反応で難航した。
そんな中、経営に参画する社員に紹介されたのが、ステンレス製業務用調理器具などを製造する一菱金属(新潟県燕市)の江口広哲さん(49)だった。構想を熱く語る小池さんに、江口さんは燕三条を実際に案内しながら、金属加工業や洋食器製造の町工場が多数集積する燕三条でのものづくりを説明した。
江口さんの紹介で開発に協力したのが、大正15年創業の金属加工業、ササゲ工業(新潟県長岡市)の捧大作社長(48)だ。「小池さんの中に『正解』がなかったので、僕はやりやすいと思った」と話す。
最もこだわった「安全な扉」は、てんびんの要領を使って閉まる自然落下式の折り畳み構造に。踏み板の角は丸く加工、内部にフックやチェーンなどケガにつながる物はすべて排除した。猫の捕獲に関する知識がゼロだった捧さんは、ネットでいくつもの動画を閲覧し、猫の動きを研究したという。
要望を聞き取りながら作った試作機は9種50台近くに上った。「世界のどこにもない、猫に一番やさしい捕獲器を、という熱意にこちらも燃えた」と捧さんは話す。
完成した捕獲器「トラスケ」はステンレス製。猫が入りやすい30センチ四方の間口で、奥行き63センチ。保護猫活動に取り組む大半が女性であるため軽量化を図り、重さは2・7キロ。国産ながら1万6500円と価格も抑えた。
「猫にやさしい捕獲」を形にした小池さん。その先に目指すのは「やさしい捕獲が広がり、殺処分がゼロになり、すべての猫が惜しまれて命を全うする」社会の実現だ。「今後は子猫や大型の猫など、バリエーションも増やしたい」と話した。(木村さやか)
 
						
			