Interview&Text:沖さやこ
Photo:堀内彩香

 Saucy Dogが8thミニアルバム『ニューゲート』を完成させた。2024年にリリースした4曲のデジタルシングルに新曲3曲を加えた同作は、Saucy Dogの音楽に対するポリシーが突き詰められている。

 メンバー3人が好きな、聴いていて心地のいい音楽であり、表現したい情景や感情を歌詞と音で丁寧に表現した楽曲群は、新鮮でありながらもどこか懐かしさが漂う。その理由をメンバーは「これまでやってきたことをブラッシュアップさせた」からだと語った。意識的なものではなく、自然と結果的にそういう作品になったという。それはバンドとして作品と歴史を積み重ねてきたからこそ実現できることだろう。音楽家として新たなフェーズへと踏み出した『ニューゲート』は、どのようにして生まれたのか。2024年を振り返りながらその背景を探った。

2024年は好きなものをちゃんとやってこれた実感がある

――8thミニアルバム『ニューゲート』、Saucy Dogの本質と現在位置が反映された作品だと思いました。7曲中4曲が2024年にリリースされたデジタルシングル曲ですが、その第1弾である「この長い旅の中で」は、イントロから新鮮な印象を受けました。シューゲイザーをポップに昇華したような。

石原:そういうサウンドを目指したというよりは、映画『52ヘルツのクジラたち』の主題歌なので、作品の情景を表現したかったから結果的にこういうサウンドになったんですよね。ギターのフレーズごとに海の中の波の揺れや細かい粒を表現したり、コーラスワークはクジラの声を表現してみたり。

せと:もともと『52ヘルツのクジラたち』のエンディングで流れる曲を作ることが決まったとき、メンバー3人が想像していた曲の雰囲気が近かったんです。だから(石原が)最初に持ってきたイントロのギターも想像していたニュアンスだったし、最後まで3人のイメージに差異がなく作れました。

秋澤:そういうときはとにかくスムーズに進むので、そんなに話し合いもないまま完成するんです。ひずみを踏んでいくのも最初のイメージ通りでした。このアルバムの中でもかなり好きな曲なので、ライブでもめちゃめちゃ気持ちが入ります。

せと:わたしもドラムのフレーズはスルッと作れたので、叩くのすごく楽しい。

石原:この曲のギターは難しいんですよ……。ギターが2本持てたらいいのに!(笑)

――(笑)。スリーピースバンドならではの悩みですね。

石原:俺は自分に甘いんですけど、やっぱりナメられたくはないんですよ。だからしっかり演奏したい。「この長い旅の中で」はやることや気を使うところが多くて最初ライブで苦手意識があったけど、なんとかバッキングギターとリードギターを同時に弾けないかな……と模索して今のライブアレンジにたどり着いて、演奏するのも好きになりましたね。ここからさらに音作りも磨いていきたいです。

▲「この長い旅の中で」

――「この長い旅の中で」から約2か月後にリリースされた「poi」は、Saucy Dog初のテレビアニメソングであり、ダーティーなイメージのある曲で、こちらも新鮮でした。

石原:ゲネプロか何かで「こんな感じの曲作りたいんだよね」とギターのイントロのリフを弾いてみたら、ふたりが「いいんじゃない」と言ってくれたんですよね。Saucy Dogっぽくない曲だけど、ゆいかのコーラスと俺のボーカル、和貴のベースが入ったらSaucy Dog“っぽい”という意味と、“POI(point of interest=目的地)”を掛けて「poi」という曲名にしたんです。でもそういうのも後付けで、「このイントロで曲作りたいな」という動機から始まりましたね。

――となると、音でどれだけ表現するかが大事な曲が『ニューゲート』には多いんですね。

石原:たしかにそうですね。今回はパッとリフが頭に浮かぶことが多かったです。「この長い旅の中で」も音で表現したいイメージがあったし、「よくできました」のイントロもそういう感じで。最後に音を固めていったのは「くせげ」くらいかも。自分が直感的に気持ちいいなと感じる音から生まれた曲が多いですね。だから本当は「poi」にも和楽器を入れたかったんですけど……。今でも俺は絶対入れたほうが良かったと思ってるんですけど(笑)。

――秋澤さんとせとさんの許可が下りなかった(笑)。

秋澤:案はいいと思うけど、単純にこの曲に和楽器入るのはちょっとちゃうなあ……って。

せと:曲に合うんやったらSaucy Dogで和楽器使うのも全然ありやけど、「poi」ではシンプルに合ってなかった(笑)。

石原:笙と神楽鈴と、全部合わせて4、50万したんですよ……!?

秋澤:なら「コーンポタージュ」はクリスマスソングやし、そこで神楽鈴使えば良かったんちゃうん? 鈴の音なら合いそうやし。

石原:それはだめだって。俺、やっぱり楽器や物の文化とかも大事にしたいから。クリスマスと神楽鈴は文脈が全然違うじゃん。

秋澤:……ちょっと提案しただけです(笑)。

石原:笙と神楽鈴はいつか別で使います(笑)。俺は基本的に思いつきですぐ行動しちゃうので、思いついたことは片っ端から提案するんですよね。それがふたり的にOKだったら取り入れて、Saucy Dogの曲はできあがるんです。ふたりから和楽器を却下されて、今は新しく広げるチャレンジをするフェーズじゃないのかもなとも思って。それこそ『ニューゲート』というタイトルも、そういう背景からつけたんです。

――と言いますと?

石原:2021年に「シンデレラボーイ」をリリースして以降、バンドとしてもう1段階進化しないとなというフェーズに入って、さらに新しいSaucy Dogを見せていこうとしていたんです。でも今年に入ってからできる曲は、どれも今までのSaucy Dogのやってきたことをブラッシュアップできている感覚があったんですよね。

――そのブラッシュアップは、意識的に取り入れたんですか?

石原:いや、毎度のことながら「こういうふうにやろう」というのはないですね。結果的にそうなった。思い付きの人間なので、結構その場のノリとか空気感で曲ができていくんです。こういうタイアップをいただいたからこういう曲作ろう、こういうフレーズが思いついたからここから曲を広げていこう……って感じでできたのがこの7曲というか。

――なるほど。今のSaucy Dogが純粋な気持ちでタイアップ作品や音楽と向き合った結果、今までやってきたことをブラッシュアップした楽曲が揃った、ということですね。

石原:そういう意味での新しさがあるなと思ったから『ニューゲート』というタイトルにしたんです。「くせげ」はまさにそれを象徴する曲になったかなって。

――たしかに「くせげ」は誰もが抱える切ない感情を巧みな言い回しで的確に綴った歌詞、その感情や空気感を丁寧に落とし込んだサウンドやコードワークなど、Saucy Dogが初期から大事にしていたものが詰まっている楽曲だと思います。なかでも《記憶の端に折り目を付けてしまった》という歌詞は鮮やかすぎて。

石原:あれは俺も思いついたとき「おっしゃ!」と思いましたね(笑)。

――タイアップ作品のドラマの題材がキャンパスライフなので、教科書などの端に折り目をつけること、折り目を付けたらどうしても跡が残ってしまうことに、忘れられない記憶という意味合いをリンクさせている。

石原:記憶というと日記かなと思って、記憶の端に折り目をつけたら自分の気持ちの記憶にも折り目がつくなと思ったんですよね。高校の頃の記憶やいま感じること、未来感じるであろうことを想像しながら書いていきました。タイアップ曲を書き下ろすと、作品のイメージから着想を得て、自分の中に眠っていた記憶やアイデアで曲が作れるんですよね。これまでにいろんな新しいことにはチャレンジしたから、「くせげ」を筆頭に『ニューゲート』ではSaucy Dogの確立された普遍的なものを見せられたらいいなとは思っていました。

▲「くせげ」

――その結果、各曲タイプは異なって、カラフルな1作になっているのも面白いです。そうなったのはこれまでSaucy Dogがいろんな挑戦をし続けてきたからでしょうね。

石原:コーラスワーク然り、存在感があるベースラインやバンドだからこそ表現できる音作り然り、ずっとSaucy Dogが大事にしていたものを発揮できたと思いますね。ここ最近は曲を切り取ることが当たり前で、切り取ったら誰の曲かわからない曲も溢れてる。でもどこを切り取ってもSaucy Dogだなとわかるような7曲になったと思います。

秋澤:今年はいろんなジャンルのバンドのフェスに出演したり、対バンをしたり、海外のフェスにも出演させてもらって、どんな場所でもSaucy Dogで表現したいもの、Saucy Dogが好きなものをちゃんとやってこれた実感があるんですよね。そういうのがアルバムにも表れていると思います。

せと:常にその曲がいちばん輝けるアレンジになればいいかなと思っているから、同期を使うときは使えばいいと思うし、3人ともライブが好きやからライブで輝く音が好きなんかなとも思う。3人が好きなもの、求めるものが曲やアレンジには自然と反映されていますね。

リリース情報

「jk」

アルバム『ニューゲート』
2024/12/18 RELEASE

Saucy Dog 関連リンク

Write A Comment