大地震の可能性が高まったときに発表される南海トラフ地震の「臨時情報」。運用が始まって、まもなく3年も一般の認知度は高いとは言えません。生活に大きな影響もある「臨時情報」についてまとめました。
今年1月22日の午前1時過ぎ、大分県と宮崎県で震度5強を観測した、マグニチュード6.6の地震。
実は、東海地方に住む人たちの生活にも大きな影響を与える可能性がありました。
「南海トラフ地震の想定震源域内で発生した地震ですが、南海トラフ地震との関係を調査するマグニチュードの基準未満の地震です」(気象庁地震津波監視課 束田進也課長 1月)
想定の最大死者数が約23万人とされる、南海トラフ地震。今後40年以内に発生する確率が90%程度とされています。
今回地震が起きた日向灘は、南海トラフ地震の想定震源域の西の端。この震源域でマグニチュード6.8 以上の地震などが発生した場合、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を出して、専門家による検討会を開くことにしています。
南海トラフ地震の発生する可能性が特に高まっている場合「南海トラフ臨時情報(巨大地震警戒)」という続報が発表され、津波からの避難が間に合わない住民に対し1週間の事前避難が呼びかけられます。
臨時情報の運用が始まってまもなく3年 認知度の低さが課題
1月の地震の際の気象庁の会見では、記者との間にこんな質疑がありました。
Q「震源が同じ場所でM6.8以上だったら臨時情報発表に至るような地震だったのか?」
「はいそうです。それ以上ですと評価検討会が開かれることになります」(束田進也課長 1月)
マグニチュードがあと「0.2」大きければ発表されていた「南海トラフ地震臨時情報」。
東海地方の沿岸部に住む人たちに知っているか聞いてみると…
「臨時情報?ちょっと存じ上げない」(愛知県田原市民)
「何となく…でも知識としてはしっかり入っていない」(三重県四日市市民)
三重県尾鷲市で、昭和東南海地震の津波を経験した女性は…
『(1944年当時)『津波が来る』、『早く逃げなかん』という声が聞こえて、何も持たずに逃げた」(昭和東南海地震を経験した尾鷲市民)
Q.臨時情報を知っていますか?」
「あまりはっきりわからない」
臨時情報の運用が始まってから3年近く経ちますが、専門家は、認知度の低さが課題となっていると話します。
「実際に発表されると『どんな情報なのか』と身近になるが、まだ発表されたことがないので多くの方が知らない。すべての防災対策は、ひとりひとりがしっかりと知っていることが重要になる」(南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会委員 愛知工業大学 横田崇教授)
YouTubeで見られる「発表時の大規模シミュレーション」
この臨時情報への理解を深めてもらおうと、2月名古屋で行われたのが臨時情報の発表を想定した、大規模なシミュレーションです。
「南海トラフ地震臨時情報調査中を発表し、今回の四国沖の地震と南海トラフ地震との関連性についての調査を開始しました」(名古屋地方気象台担当者 2月のシミュレーション)
気象庁や総理大臣の模擬会見が行われ、プロジェクションマッピングで巨大な地図も映し出されました。
自治体やインフラの担当者などが参加し、発表時の対応を議論しました。
この模様は、YouTubeの『あいち・なごや強靭化共創センター』で公開されています。
「現状認識を語り合うことで、残る課題は何かみんなで確認できたことは大きな一歩だと思います」(ワークショップを企画した福和伸夫教授 2月)
対応を委ねられるのは各自治体 住民への周知は道半ば
臨時情報が発表されたその時。対応を委ねられるのが、各自治体です。
「豊橋市の災害対策本部室です。警察など関係機関が集まり、臨時情報の発表を想定した訓練が行われています」(記者 1月の訓練)
豊橋市では、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された場合、市内3103世帯6735人に事前避難を呼びかけます。
豊橋市は事前避難の対象地域を指定した2021年2月以降、各地域で説明会を行っていますが、住民への周知は道半ばです。
「コロナ禍で説明会がなかなか開きにくい状況。臨時情報が出た時に、どんな行動を取らなければいけないのか周知が難しい。知らないと行動が取れないので、地域の皆さんで考えていただきたい」(豊橋市防災危機管理課 藤田進主幹)
巨大地震警戒の臨時情報出たら沿岸部などは1週間の「事前避難」
想定震源域の中で、マグニチュード6.8以上の地震が発生するなど、南海トラフ地震の発生する可能性が高まったとされた場合、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」という発表を出して、南海トラフ地震と関連するかどうか、専門家を集め調査を始めます。
その調査の結果は、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」「南海トラフ地震臨時情報(調査終了)」の3パターンがあります。
中でも気を付けたいのが「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」です。南海トラフ地震が発生する可能性が高まっているとして、発生後では津波からの避難が間に合わない地域では、1週間の事前避難が求められます。
この1週間という期間は、科学的に決められたものではなく、1週間程度なら健康を害せず避難生活を送れるだろうという社会的な考え方で決められたものです。
臨時情報に「解除」はなく、1週間が経てば地震の心配をしなくていいというわけではないため、その後も警戒を続けることが必要になります。過去の南海トラフ地震では、次の大きな地震が2年後に発生したケースもあります。
愛知と三重で14万人以上が「事前避難」の対象に
「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された時、具体的にどの地域で事前避難が必要なのか、各自治体で検討が進められています。東海地方の事前避難対象地域の指定状況です(3月11日時点)。
【愛知県】
※県が事前避難を検討すべきとした自治体(津波や液状化による堤防沈下で、地震の発生から30分以内に30cm以上の浸水を想定)
■事前避難対象地域を指定済み ※()内は対象人数
名古屋市(2万4540人)豊橋市(6735人)田原市(4886人)碧南市(446人)
刈谷市(具体的な人数は算出できず)西尾市(2500人)東海市(192人)高浜市(具体的な人数は算出できず)あま市(37785人)大治町(3054人) 蟹江町(5550人) 飛島村(800人)
■検討の結果指定の必要なし(30分以内に30cm以上の浸水が想定される地域に人が住んでいないなどとして)
南知多町、半田市、豊川市、安城市、常滑市、知多市、東浦町、美浜町、武豊町
■検討中
蒲郡市(3月までに指定を目指す) 弥富市(4月以降に公表予定)
愛西市(指定時期未定) 津島市(指定時期未定)
【三重県】
※国が南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域として指定した自治体(桑名市は特別強化地域外)
■指定済み ※()内は対象人数
桑名市(16585人)四日市市(5000人)鈴鹿市(8263人)松阪市(2000人)
明和町(2820人)大紀町(1500人)鳥羽市(10人)志摩市(1940人)
紀北町(12000人)尾鷲市(4824人)熊野市(1375人)御浜町(266人)
紀宝町(3294人)
■検討の結果指定の必要なし(後発地震発生後の避難でも間に合うとして)
津市、伊勢市
■検討中
川越町(3月までに指定を目指す)
南伊勢町(6月までに指定を目指す)
三重県は「沿岸部だけでは避難所が足りない」という自治体からの声を受け、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された場合、県内すべての県立高校や図書館などを1週間休業して、避難所として活用する方針です。
【岐阜県】
海に面していない岐阜県でも、地震による浸水リスクがあります。長良川と揖斐川に挟まれた海津市の一部地域では、地震の揺れで堤防が沈み込むことにより、30cmの浸水が最短30秒で起こると想定されています。
海津市は、事前避難対象地域は指定していませんが、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が出た場合、浸水リスクのある住民に対して避難を呼びかける方針です。
「事前避難」が必要な人がいる一方で「社会活動を継続」
事前避難対象地域では1週間の事前避難が必要ですが、それ以外の地域では、土砂災害や家屋倒壊のリスクがある住民を除き、原則避難の必要はありません。鉄道なども平常通りの運行となり、通常の社会活動が継続されますが、巨大地震の発生の可能性が高まっているとして、日頃の備えを再確認することが求められます。
日頃の備えとは、「避難生活に備えた備蓄を確認する」「家族などと安否確認の手段を決める」「避難場所と避難経路を確認する」「家具を固定する」といったことが挙げられます。
臨時情報は、地震の予知情報ではなく「普段と比べて巨大地震が起きる可能性が高まった」という不確実な情報です。臨時情報が出た時に慌てることなく、いかにこれを活用して命を守る行動を取れるかが私たちに求められています。
(3月11日 15:40~放送 メ~テレ『アップ!』より)
#南海トラフ地震臨時情報 #南海トラフ #臨時情報 #津波 #事前避難
WACOCA: People, Life, Style.