
イングランド戦で指示を出す森保監督(C)共同通信社
ワールドカップイヤーに突入して、サッカー日本代表の戦い方が変わった。正確に言えば、選手の起用法を含めた森保一監督のさい配が変わった。スコットランド、イングランド両代表をともに1−0で撃破した、3月下旬の国際親善試合2連戦における収穫のひとつと言っていい。
敵地グラスゴーのハムデン・パークへ乗り込んだ3月28日(日本時間同29日)のスコットランド戦。そして、ロンドンの聖地ウェンブリー・スタジアムで対峙した31日(同4月1日)のイングランド戦でも、指揮官は<3−4−2−1>システムで選手たちを送り出した。
森保監督は2024年の6月シリーズから、それまでの<4−2−3−1>システムをスイッチさせていま現在に至っている。きっかけはロングボールを徹底的に放り込まれた末に、イラン代表に逆転負けを喫してベスト8で敗退した同年1、2月のアジアカップにあった。
「世界のトップ基準にいる日本の選手たちを、ベストの形で起用できるのは<3−4−2−1>システムだとアジアの戦いで思わされた、というのがありました」
システム変更の意図を明かした森保監督は、昨年3月に当時の世界最速でワールドカップ北中米大会出場を決めてからも<3−4−2−1>を継続させた理由をこう語っている。
「再び世界と戦うときに、再び4バックに戻す必要はもうないのかな、と」
森保ジャパンの<3−4−2−1>は、通常のそれと大きく異なる。森保監督が「攻撃的なウイングバックと呼ばれていますけど」と言うように、左ウイングバックに三笘薫や中村敬斗、右には堂安律や伊東純也と攻撃的な選手を配置してきた。その上で指揮官はこう続けていた。
「みんなの守備能力がものすごく上がっているんですよ。非常にうれしいことですけど、これまでの日本の戦い方はおそらくすべて分析されて対応される。その意味でも、相手のさらに上を行くための戦術的な次の一手は用意しておかなければいけない」
次の一手とは何か。答えはスコットランド戦の後半33分以降に明らかになった。
日本は選手交代を機にシステムを<3−1−4−2>へと変えた。ボランチは鎌田大地だけで、鎌田の前方に左から中村、三笘、堂安、伊東と4人のアタッカーが並び、さらに最前線は上田綺世の1トップから今回のシリーズで初招集された塩貝健人との2トップになった。
両チームともに無得点の状況で、リスクを背負ってでもゴールを奪いにいく。慎重居士で知られる森保監督が選択した、まさに“ギャンブル”と表現してもいい布陣は6分後の同39分に、自陣から9本のパスを繋いだカウンターから伊東が決めた先制&決勝ゴールを生み出した。
試合後のフラッシュインタビューで、森保監督はシステム変更をこう語っている。
「これからワールドカップを戦う上で違うシステムを、攻撃でさらに圧力をかけながら守備のバランスも崩さない、という戦い方を終盤になってチャレンジしました」
背景にはコスタリカ代表の堅い守備を崩せないまま終盤に1点を失い、そのまま敗れたワールドカップ・カタール大会グループステージ第2戦へ、いまも強く抱く反省の念がある。
さらにイングランド戦の後半35分からは<3−4−2−1>システムのまま、左に鈴木淳乃介、右に菅原由勢とウイングバックにディフェンダー登録の選手を配置した。
攻撃的と呼ぶゆえんだったウイングバックを、左右ともに守備的な選手が務めるのは導入後で初めてと言っていい。サッカー王国ブラジル代表から歴史的な初勝利を挙げた昨年10月の国際親善試合でも、左は中村から相馬勇紀と最後まで攻撃的な選手が務めていた。
同じくフラッシュインタビューで、指揮官は残り10分の戦い方にこう言及した。
「理想的じゃなくても、みんなで辛抱強く戦って勝つ、ということを実践してくれた」
イングランドが波状攻撃を仕掛けていた終盤で、前半23分に三笘が決めた先制点をなりふり構わず死守する。あわや同点のシュートを頭で弾き返した菅原のブロックも飛び出したなかで試合はそのまま終了し、通算4度目の対戦でサッカーの母国からも初勝利をもぎ取った。
ワールドカップイヤーを前にした昨年末に、森保監督はこんな思いを明かしていた。
「カタール大会では、それこそ10回戦って一度勝てるかどうかの試合をしようと思っていました。たとえばボール保持率で言えば20%対80%くらいだったなかで、それでもドイツとスペインに勝てた。じゃあカタール後の4年間でボール保持率を含めて、強豪国と呼ばれる国に対してすべてを逆転できたかと言われればそれは不可能です。五分五分と言いたいところですけど、正直、まだそこまでも行っていない。それでも実際に戦って、勝つか負けるかがわからない、という勝負にはもっていける、というところまでは来ていると思っています」
カタール大会ではラウンド16に進みながら、PK戦の末にクロアチア代表に敗れた。4度目の挑戦でまたもベスト8の悲願を成就できなかった悔しさを糧に、代表チームに関わるすべての選手がヨーロッパの舞台を中心に成長を遂げてきた4年間を、指揮官はこのように受け止めていた。
「カタール大会後は絶対にチーム力が上がっていくと確信していました」
選手たちが成長している一方で、指揮官が旧態依然のままならチームは進化しない。明らかに以前と異なるさい配を振るった森保監督は「でも、このままじゃダメだと思っています」としっかりと足元を見つめながら、残り2カ月半でさらなる勝利へのシナリオを描いていく。
(藤江直人/ノンフィクションライター)

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