トランプ大統領とピート・ヘグセス国防長官(2025年1月7日、写真:ロイター/アフロ)

 米ニュースサイトのアクシオスが3月21日に報じたように、トランプ政権はイランとの和平交渉に向けた初期的な検討・協議を進めているとされる(編集部注:イラン外務省は米国との協議の事実を否定)。

(編集部注:アクシオス「Trump’s team game planning for potential Iran peace talks」)

 同報道によれば、トランプ政権は将来的な交渉に備え、イラン側に対し、ウラン濃縮の停止、ミサイル計画の凍結・制限、主要核施設の解体、遠心分離機などに対する厳格な外部監視、さらに代理組織への支援停止などを含む条件を検討しているという。

 これらが事実だとすれば、そこから読み取れるのは、体制転覆でも全面戦争でもなく、いずれも「核・ミサイル能力を一定ライン以下に抑え込む」ための管理項目である。

 つまり、米国はイランの能力を完全に排除するのではなく、「能力を閾値(しきい値)以下に押し戻す」管理戦略へと舵を切りつつあるとみられる。

 これは、3月1日にJBpressに掲載された拙稿「米国とイスラエルのイラン攻撃は『モグラ叩き戦略』、決して終わらない『限定戦争』の構造」で提示した「能力閾値管理」仮説、すなわち叩く→押し戻す→交渉→また叩くという限定戦争サイクルの再稼働を示唆するものだ。

「能力閾値管理」とは何か

 筆者が以前に提示した「能力閾値管理」とは、イランの核・ミサイル能力が、米国とイスラエルが「危険ライン(閾値)」とみなす水準に近づいた時のみ軍事的に打撃を加え、短期間で一定レベル以下に押し戻したのち、交渉を経て停戦に至るという、管理型の限定戦争である。

 目的は体制転覆ではない。能力をゼロにすることでもない。あくまで危険ラインの手前で抑え込むことである。

 今回、米国が提示したとされる諸条件は、この能力管理の考え方と整合的である。

当初は例外に見えたイラン攻撃

 米国とイスラエルによる今回のイラン攻撃は当初、この能力管理の枠内に収まる行動には見えなかった。

 攻撃の規模は大きく、とりわけハメネイ最高指導者を含む首脳中枢への致命的打撃は、「能力を閾値以下に押し戻すための限定措置」というより、体制転覆をも視野に入れた本格的軍事行動のように映ったからである。

 さらに、攻撃直後の報道では、

・イラン国内の重要拠点を複数同時に攻撃

・イスラエルが単独でエスカレーションを主導した可能性

・攻撃の意図や最終目標が不明確

 といった情報が錯綜し、「今回は閾値管理ではなく別の戦略が動いているのではないか」という印象を強めた。

 しかし、その後の米国の動きと発言、そしてアクシオス報道を踏まえると、この攻撃はむしろ「能力閾値管理」モデルの典型的な前段階として理解できる可能性が浮かび上がってくる。

アクシオス報道が示した能力管理戦略の実像

 アクシオスが報じた米国の対イラン条件は、いずれもイランの核・ミサイル能力を危険ラインの手前に押し戻すための管理項目である。

 その主な内容は、

・ウラン濃縮の停止

・ミサイル開発・配備能力の制限

・主要核施設の解体

・遠心分離機などへの厳格な監視

・代理組織への資金・軍事支援の停止

 といったものである。

 これらは体制転覆でも、能力の完全なゼロ化でもない。あくまで危険ラインを越えさせないための能力管理である。

 すなわち米国は、「一定ライン以下に抑え込むこと」を停戦条件として提示していると解釈できる。

トランプ発言に現れた戦略転換のシグナル

 米国が管理戦略へと移行しつつある兆候は、トランプ大統領自身の発言にも見て取れる。

 トランプ大統領は3月24日、「We’re in negotiations right now(我々はいま交渉中だ)」と述べ、対話の可能性に言及した。

 また、前日のSNS投稿では、米国とイランの間で「very good and productive(非常に良好で生産的)」なやり取りがあったと主張している。

 もっとも、イラン側はこうした主張を否定しており、実際の交渉の有無や進展は依然として不透明である。

 それでも、これらの発言からは、「軍事フェーズから交渉フェーズへ移行しつつある」というシグナルを読み取ることができる。

限定戦争サイクルは再び作動するのか

 もちろん、発言を覆すことも少なくないトランプ大統領の性格を踏まえれば、今後の展開は予断を許さない。

 しかし、「能力閾値管理」という枠組みを前提にすれば、今回のイラン攻撃は次のようなサイクルへ移行する可能性が高い。

・攻撃のトーンダウン

・交渉フェーズへの移行

・管理された停戦(事実上の沈静化)

・イランの能力再建

・そして再び打撃

 これは、筆者が以前提示した「叩く→押し戻す→交渉→停戦→再建→また叩く」という終わらない限定戦争サイクル、すなわち米国とイスラエルが対イラン政策で繰り返してきた「モグラ叩き戦略」が、今回も当てはまる構造である。

2つの変数が攻撃サイクルの行方を左右する

(1)第1の変数:イランの出方

 イランは全面戦争を望んでいないとみられるが、国内政治の圧力から「象徴的報復」を行う可能性がある。

A:大規模報復に踏み切る場合

B:被害の大きさを踏まえ、停戦を受け入れる場合

 どちらを選ぶかによって、戦争の深度は大きく変わる。

 筆者は、戦争が長期化すればイランは消耗戦に引き込まれることを最も警戒しており、最終的にはBを選択する可能性が高いと考える。

(2)第2の変数:イスラエルをトランプ大統領が抑制できるか

 イスラエルは独自の安全保障観に基づき、必要と判断すれば米国の意向とは別に行動する可能性がある。

 したがって、米国が交渉フェーズへ移行しようとする中で、イスラエルの行動をどこまでコントロールできるかが、今後の展開を左右する最大の焦点となる。

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