複雑な経歴を持つ珍しい個体

フランス人が英国で右ハンドル仕様のシトロエンを購入し、母国(右側通行/左ハンドル)へ輸出するというのは、なんとも奇妙な話に聞こえる。しかし、20年前、あるフランス人愛好家が本当にそうした。そして一昨年、そのクルマを英国人に売却。現在では英国人が英国で楽しく運転しているのだ。

「フランス車が好きなんです」と、ロンドン在住の現オーナー、リチャード・ヘッドさんは語る。「珍妙なところが好きですね。シトロエンとルノーが再びその特性を発揮しつつあるようで嬉しい。1990年に社用車として初めて乗ったのがシトロエンBXで、今はルノー5ターボを所有しています。日常使いのクルマとして、また別のフランス車が欲しいと思っていました」

リチャード・ヘッドさんのシトロエンCX。英国で毎日運転しているという。リチャード・ヘッドさんのシトロエンCX。英国で毎日運転しているという。    AUTOCAR

「シトロエンSMも魅力的ですが、状態の良いものはなかなか見つからず高価でした。いずれにせよ、もっと現代的なクルマで、毎日使えるもの、そしてわたしなりの男らしい計算で “足車” として納得できるものが欲しかったんです」

「それでシトロエンCXに惹かれ、ターボモデルへと興味が移りました。そしてCXターボ2プレステージュの存在を知り、これが自分にぴったりだと考えました」

豪華装備のプレステージュ仕様

リチャードさんはすぐに探し始め、間もなく理想の1台を見つけた。1986年登録のシトロエン『CX 25ターボ2 プレステージュ』で、見た目はきれいで走行距離も24万kmと許容範囲だった。

「月刊自動車雑誌の裏表紙に広告が出ていたんですよね」と彼は言う。

リチャード・ヘッドさんのシトロエンCX。ロングホイールの『プレステージュ』という仕様だ。リチャード・ヘッドさんのシトロエンCX。ロングホイールの『プレステージュ』という仕様だ。    AUTOCAR

「右ハンドル車なのに、売り手はフランス在住のフランス人だったんです! プレステージュのターボ2は極めて希少で、例えば英国で登録されたのはわずか5台に過ぎません。おそらく彼(前オーナー)はフランスで良質な左ハンドル車を見つけるのに苦労したのでしょう。20年前に購入し、過去10年で3万ポンド(約630万円)をかけてレストアしたと言っていました」

「彼は3万ポンドで売りたがっていましたが、雑誌の新刊が出るたびに広告が掲載され、しかもそのたびに価格は下がっていきました。わたしは辛抱強く待つことにしました。すると、ついにオークションに出品されたんです。これがチャンスだと思い、1万2500ポンド(約260万円)で落札しました。まともなターボ2としては妥当な額です」

プレステージュはCXの高級仕様で、標準車より全長が25cm長く、後部のルーフラインがわずかに高くなっている。革張りのアームチェアのような立派なシート、広大な後席スペース、あらゆる豪華装備を備え、フランス大統領や閣僚にふさわしいモデルだった。もっとも、リチャードさんが所有する英国仕様車は、リバプールの建築事務所が最初のオーナーだったようだが。

高速道路を快適にクルージング

WACOCA: People, Life, Style.