曇天に雨や雪 太平洋側ではありえない石川の天気が生む工芸の数々 漆芸は温度や湿度に反応して“乾く”からこそ生まれる! 国立工芸館の「工芸と天気展」

曇天に雨や雪 太平洋側ではありえない石川の天気が生む工芸の数々 漆芸は温度や湿度に反応して“乾く”からこそ生まれる! 国立工芸館の「工芸と天気展」

冬は鉛色の空が広がり、雪や雨が降ることの多い石川県。特に1月はその傾向が顕著です。金沢の1か月間の日照時間の平年値は62.3時間で、東京の192.6時間と比べると3分の1以下です。

曇り、雪、雨、そしてたまに感じられる日差し…

石川の独特の天気は、多くの個性あふれる工芸作品を生み出しでいるのではないかと見る向きもあります。

MRO

金沢市の国立工芸館では、天気に関わりのある漆芸作品や陶磁器、加賀友禅などの工芸作品に焦点を当てた展示会「工芸と天気展−石川県ゆかりの作家を中心に−」が開かれています。

漆が「乾く」ということ 温度や湿度が大きく影響

工芸と天気展には、人間国宝を含め石川県ゆかりの作家36人の工芸作品およそ60点が展示されています。

テーマのひとつが、工芸の技法と天気のかかわりにフォーカスした「天気と生きる、天気とつくる」です。このことを体現している作家の一人が、金沢で生まれ「漆聖(しっせい)」と称された松田権六(1896-1986)です。

松田権六 《蒔絵鷺文飾箱》 1961年 国立工芸館蔵

《蒔絵鷺文飾箱》などの作品を世に残していますが、松田は漆の乾く概念を深く心にとどめていました。

ただものが乾くだけなら、冬場なら常に晴れている太平洋側のほうに分があります。ところが、漆の場合の「乾く」は、空気中の温度や湿度に反応して固まることをさします。

国立工芸館・特定研究員 日南日和さん「絵の具が乾くというと、水分が蒸発して乾くことを意味すると思うが、漆における乾くというのは空気中の温度や湿度と漆が反応することで固まることを指します。1年中、石川県は湿度が高いと思うが、そういった天気が漆が固まることにとても適していると言えます」

国立工芸館・特定研究員 日南日和さん

下地から「乾き」に対して細心の注意を払いながら作品を手掛けますが、石川県の気温や湿度だと、より高い芸術性が生み出されるとともに、丈夫さも発揮されるということです。

松田権六の東京での仕事場を金沢に“そのまま”移築

金沢の国立工芸館には、松田権六が東京・文京区で漆芸作品を作り出した仕事場がそのまま移築されています。部屋は常設で展示されています。

松田権六の東京での仕事場 そのまま移築されている

漆器を乾かすための「漆風呂」もあります。

作業部屋の中には、漆を乾かす「漆風呂」も(左奥)

国立工芸館・特定研究員 日南日和さん「座って作業する時に見えるように、低い位置に温度計がついていたり、漆風呂も実際のものがあるんですけど、こういったところからもその制作の様子というのを想像していただけると思います。場所もそうですし、その時々の温度や湿度を敏感に察知してつくっていたと思います」

松田権六が座って制作をする目線に置いてある温度計その場所の天気の風景を… 現象をとらえた作品も

もう一つのテーマが、「空を見上げて/春を待つ」です。雲や雪など天気にまつまる現象をとらえた作品が展示されています。

番浦省吾 《双象》 1972年 国立工芸館蔵

中田真裕さんの「雲の裏」は、金沢と香川県の2か所で生活をした経験から、金沢で見た雲と香川で見た海を色彩豊かに表現しています。

中田真裕 《雲の裏》 2023年 国立工芸館蔵

「春を待つ」との思いは、2年前の能登半島地震も念頭に置いたものでもあります。

国立工芸館・特定研究員 日南日和さん「能登の風景をテーマにして制作された作品もあるので、作品として変わらない風景をそこに見ていただいたら」

地球環境が変わる 将来天気から感じるものも変わる?

石川県では、特に冬は空の移り変わりを大きく意識する季節といえますが、そんな環境がいつまでも続くのか。

地球温暖化をはじめとした気象の変化は、未来の工芸にも大きく影響するのかもしれません。

水口咲 《乾漆箱「新雪」》 2021年 個人蔵

国立工芸館・特定研究員 日南日和さん「近年、気候が大きな部分で変化していることもあって、素材の減少であったりとか作家さんたちが目にしている風景というのが、変わっていくことでもあると思う」

「工芸と天気展−石川県ゆかりの作家を中心に−」は、3月1日まで金沢市の国立工芸館で開かれています。

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