プレースタイルの刷新を求められて昨年6月に3年契約を結んだにもかかわらず、わずか7カ月でシャビ・アロンソ監督は退任することになった。
ベティス戦でRマドリードを指揮したシャビ・アロンソ氏(2026年1月、ロイター)
Rマドリードでの最終成績は公式戦34試合24勝4分け6敗。昨夏のクラブワールドカップは準決勝で敗退し、スペイン・スーパーカップではバルセロナに敗れて今季最初のタイトルを落としたが、その一方でスペインリーグは2位、欧州チャンピオンズリーグ(CL)・1次リーグは決勝トーナメント1回戦ストレートイン圏内の7位につけている。
■後半の14試合はわずか7勝
一見するとこの成績はそこまで悪くないように思える。しかし、シャビ・アロンソが今季戦った公式戦28試合のうち、前半の14試合で13勝を挙げたにもかかわらず、後半の14試合はわずか7勝と、勢いが失われていたのは明らかだった。
昨夏の移籍市場でシャビ・アロンソ監督率いるチームは、スペインリーグトップの1億7900万ユーロ(約322億2000万円)を投じて4人(ハイセン、アレクサンダー=アーノルド、カレーラス、マスタントゥオーノ)を補強し、DF陣と右サイドを強化した。一方、シャビ・アロンソが不可欠と訴えた、クロースのようなゲームメーカーは獲得できなかったことは尾を引くことになった(※有力候補にレアル・ソシエダードからアーセナルに移籍したスビメンディが挙がっていた)。
この状況下で25-26年シーズンを開始したシャビ・アロンソは、システムやメンバーを試行錯誤しながら戦い、カルロ・アンチェロッティ監督時代の低い位置の守備ブロックに別れを告げ、チーム全体でのハイプレスに成功した。さらに、前線の連携に不安を残しながらも、昨季ゴールデンシュー(欧州の得点王)に輝いたエムバペがゴールを量産。その結果、開幕からの公式戦14試合で13勝1敗と幸先の良いスタートを切った。
■モドリッチ残留巡り隔たりか
だが良い状況は長く続かなかった。過密日程でほぼ休みなくフル稼働している選手たちの肉体は悲鳴を上げ、特にDF陣にけが人が続出。これにより、メンバー構成で苦戦を強いられるようになった。そして10月下旬のクラシコでは、途中交代に怒りを露わにしたビニシウスに対し、シャビ・アロンソが処分を科さなかったことで、監督としての威厳を失った。求心力を失った指揮官に対する主力選手の不満も次々と報じられ、次第にチーム全体が監督の戦術に従わなくなっていったという。
Rマドリードは長年、選手のマネージメントに優れたタイプの監督を起用してきたが、今季は方向転換が必要と考え、戦術家タイプのシャビ・アロンソを招聘した。個に頼るだけでなく、組織力やハイプレスを強化する戦術を導入したが、選手たちはこれを容易には受け入れず、11月初旬にはチーム内で亀裂が入る決定的な事態が起こっている。
シャビ・アロンソは練習中に戦術的要求に従わない選手たちに対し、「私は保育園に練習に来ているんじゃない!」と爆発。選手たちは過度の要求や絶え間なく出される修正の指示に嫌気がさし、ストレスを抱えていた一方、チーム作りの時間が不足していると常々考えていたシャビ・アロンソは、改善を加速させる必要性を訴えた。その結果、監督と選手の間に不信感が生まれたという。
それ以外にも、ワールドカップまでプレー続行を希望したモドリッチ(現ミラン)を残留させようとしなかったシャビ・アロンソの姿勢に選手たちが不満を抱き、昨夏にはすでに監督との間に隔たりがあったとのことだ。しかしこの件に関しては、シャビ・アロンソはモドリッチの残留を強く望んだもののクラブに却下された、という正反対の報道もある。
Rマドリード・アルベロア監督(2026年1月撮影、ロイター)
■バルサ戦翌日に話し合い決断
シャビ・アロンソは内部の不協和音を改善すべく、徐々に選手たちへの譲歩を余儀なくされていった。ロッカールームを掌握できない状況下では自身の求めるサッカー観が実現できるわけもなく、就任当初の構想は次第に遠ざかっていった。さらに、主力選手の負傷離脱などの不運も重なったことがゲームプランに深刻な影響を与え、ピッチでの悪いイメージにつながってしまったのだ。
それは戦績に顕著に表れている。悪い内容で敗れた11月上旬のリバプール戦を皮切りに、公式戦8試合でわずか2勝と危機的状況に陥り、12月上旬のセルタ戦に敗れたことで解任の可能性が報じられ始めた。
年末年始にかけて公式戦5連勝を達成したことで危機的状況を脱したかに思えたが、1月11日のスペイン・スーパーカップ決勝でバルセロナに敗れると、この翌日にクラブは監督との話し合いの場を設けた。シャビ・アロンソは解任の危機に絶え間なく晒されている現状に疲れ果てていることを吐露し、クラブ首脳陣は監督の手腕への疑問などを伝えたという。
スペイン紙アスは「シャビ・アロンソの過ち」として、魅力的なサッカーができていないこと(開幕当初はハイプレスで勝ち星を積み重ねるも、徐々に中盤でブロックを固める試合が多くなり、直近のクラシコでは守りを固めたにもかかわらず3失点)、ビッグマッチにほとんど勝てていないこと、スペインリーグでの大失態(第11節終了時はバルセロナに勝ち点5差をつけ首位だったが、前半戦終了時には勝ち点4差の2位に陥落)、主力選手との軋轢、不十分なフィジカルコンディションなどの問題点を挙げている。
さらに、ビニシウス、ベリンガム、バルベルデといった主力のパフォーマンス低下、長らく冷遇していたロドリゴや控え選手(ブラヒム・ディアス、セバージョス、カマビンガ)の起用法、若手選手(ギュレル、ハイセン、マスタントゥオーノ、リヨンに今冬期限付き移籍したエンドリッキ)の育成がうまくいっていない点も指摘した。
クラブは話し合いの際、特に懸念事項になっていた選手のフィジカル面を改善するために、信頼を寄せているアントニオ・ピントゥス(欧州CL6度の優勝=Rマドリードで4回、ユベントス、モナコで各1回=に貢献したジネディーヌ・ジダンとアンチェロッティ時代のフィジカルコーチ)をスタッフに入れることを提案したが、シャビ・アロンソはこれを頑なに拒否したという。
■新監督候補にクロップ浮上
さまざまな要素が重なり合った結果、当初は退任を考えていなかったシャビ・アロンソだが、最終的にクラブから最善の選択肢は別々の道を歩むことと打診され、双方合意の上で契約解除に至ったとのことだ。
シャビ・アロンソの退任に関して、スペイン紙マルカはクラブに対し「この決定によりRマドリードは監督以上の大きなものを失ったという印象を与えている。個人の才能よりも戦術が優先される現代のサッカーに適応したチームを作り上げる機会を失うことになった。シャビ・アロンソは新時代の体現者となるためにやって来たが、クラブはまたしても短期的な利益を選んだ」と辛辣な意見を述べた。
シーズン途中の監督交代は、サンティアゴ・ソラーリからジダンが引き継いだ19年3月以来、実に7年ぶりのこととなった。新たに白羽の矢が立ったのは、Rマドリードの元選手で、下部組織を率いて素晴らしい実績を積み重ねてきたアルバロ・アルベロアだが、新監督として取り組まなければいけない課題は多い。
シャビ・アロンソが大いに苦しんだ、負傷者続出を食い止めること、プレースタイルを確立して人々を魅了するサッカーを展開すること、エムバペとビニシウスをうまく共存させること、ベリンガムを再生することなど、問題は山積みだ。
アルベロア監督は初陣となった14日、主力選手を大幅に欠いた状態で2部のアルバセーテと対戦し、国王杯4回戦で敗退した。これでRマドリードはわずか4日間で2タイトルを失い、新体制の船出は悪いものとなった。
まだ一戦しか戦っていないが、Rマドリードがすでに来季に向けて新監督探しに動いているという報道も出始め、有力候補にはユルゲン・クロップが挙がっており、監督人事は夏まで落ち着くことはなさそうだ。
過密日程の続くRマドリードはこの後、16日間で公式戦5試合を戦う。アルベロア監督が今のチーム状況をどのように改善させて勝利を目指すのか、世界中が注目している。【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)
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