利用客が低迷していた広島県福山市の老舗の銭湯が、ランニング愛好家の要望で「ランニングステーション(
ランステ
)」になり、再興に乗り出している。今秋からはランステ利用者を対象に、近隣の飲食店も特典を用意して応援。ランニングブームが窮地にあえぐ銭湯を支え、地域の活性化を後押ししている。(尾道通信部 西堂路綾子)

昭和のたたずまいランニングを終え、「遊湯」に戻ってきたランナーたち。この後、銭湯を堪能した(10月、広島県福山市で)ランニングを終え、「遊湯」に戻ってきたランナーたち。この後、銭湯を堪能した(10月、広島県福山市で)

 1962年から続く銭湯「遊湯」。JR福山、尾道両駅から2駅の松永駅近くにあり、
女将(おかみ)
を務める山本文子さん(50)の祖父が創業した。昭和のたたずまいを残すタイル張りの浴槽と、山本さんの父が考案した熱々の「暴君ミストサウナ」が看板だ。

 創業当時は1000人が来た日もあったが、家庭風呂の普及やスーパー銭湯の台頭などで客足が遠のいた。コロナ禍が追い打ちをかけ、今では多くて一日200人ほど。「燃料費も高騰して業界はじり貧。このままでは厳しい」。3年前に代替わりした際、山本さんは周囲に打ち明けていた。

 常連客で、ランニングが趣味の自営業粟村光範さん(62)が窮状を知り、山本さんにランステとしての利用を提案。これを受け、遊湯では2022年12月から受け入れを始めた。

 入浴料の550円を払えばよく、利用方法はいたってシンプル。番台で代金を払い、「走りに行く」と伝える。脱衣所で着替えてロッカーに荷物を入れ、番台に鍵を預けてランニングへ。走り終わると銭湯で汗を流すという流れだ。

「完走証」で特典

 今年10月からは番台でもらった「完走証」を近所の飲食店4か所で示せば、1品サービスなどの特典を受けられる取り組みをスタート。朝や昼に走るランナーが利用できるよう、営業開始時間も午後3時から午前10時に大幅に早めた。

 10月中旬にはランニング愛好家6人が、銭湯周辺の「松永ベイぶらりんこロード」を含む往復約5キロを約1時間走った後、銭湯を利用した。福山市の義肢装具士佐藤佑樹さん(40)は「走った後の水風呂とミストサウナが最高」と声を弾ませた。

 最近は県外のランナーが旅行も兼ねて訪れるようにもなったが、山本さんは「取り組みを強化したばかりで、ランステ効果はまだこれから」と話す。「もっとPRに力を入れ、祖父や父の思いを継いで銭湯文化を守りたい」

 
◆ランステ
=更衣室やシャワー、ロッカーを備え、仕事帰りや出張先、旅先での快適なランニングを後押しする施設で、人気のランニングコース沿いに目立つ。銭湯も各地で活用され、大阪府や兵庫県の公衆浴場業生活衛生同業組合はランステとして使える銭湯をHPで紹介している。

限定石鹸、旅ふろカード…窮地脱出へ各地で盛り上げ 銭湯の店頭だけでしか販売されていない石鹸。旅ふろカードが銭湯巡りマニアの心をくすぐる銭湯の店頭だけでしか販売されていない石鹸。旅ふろカードが銭湯巡りマニアの心をくすぐる

 全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全浴連、東京)によると、銭湯はピークだった1968年には1万7999軒あったが、今年4月現在、37都道府県1562軒となっている。

 盛り上げる取り組みは、ランステ以外にも幅広く行われている。
石鹸(せっけん)
メーカー「フェニックス」(奈良)はレトロな箱入りの石鹸を全国約100か所の銭湯で限定販売し、各銭湯を紹介する付録の「旅ふろカード」が人気だ。

 全浴連は「銭湯文化は奈良時代に遡り、大きな風呂につかる心地よさは日本人のDNAに組み込まれている。老若男女の憩いの場の銭湯を、これからも利用してほしい」とする。

関西発の最新ニュースと話題
あわせて読みたい

WACOCA: People, Life, Style.